地下倉庫の悪霊5
まだ残っているケガレたちに対して、夏希がにらみを利かせる。
「かえでに近づいた奴から殺すから」
「夏希さん、カッコいいです!」
かえでの言う通り、その姿は実に頼もしい。
ものすごい威圧感で敵をけん制している。
しかし相手は意思を持たないケガレだ。夏希の恐ろしさなど感じていないようで、一斉に夏希に飛びかかっていく。
それに対して夏希は――
「死ねぇ!」
躊躇なく、殴る蹴るの応戦。
気持ちいいくらい次々とケガレを駆逐していく。
たくさんのケガレを相手に、すごい戦闘力を見せつける夏希だが、すべてのケガレを夏希ひとりで相手できるはずもない。
あぶれた分が、こちらにも向かってくる。
そうしてケガレは一番近くにいた人物に襲いかかった。
運の悪いことに、その対象になったのはどう見ても戦えそうにない女の子、ミヤビだった。
「……ひっ」
涙目になるミヤビに、ケガレが迫る。
「まずい……っ!」
僕は急いで助けに行こうとしたのだが、今度はかえでに止められる。
「あ、近づかないほうがいいと思います。巻き込まれちゃいますよ?」
「え? それって……」
どういうことか訪ねようとしたとき、ミヤビが震える声で叫んだ。
「いや……来ないでぇ!」
悲鳴とともに、さきほども見た灰色のモヤが放たれる。
モヤはケガレたちにまとわりつき、中に浸透していく。
そして――
――本棚が倒れて、一体のケガレを下敷きにした。
別のケガレには破裂した蛍光灯の破片が降り注ぎ、また別のケガレは剥がれた天井板に押しつぶされる。
絵に描いたような不幸の連続。
これが偶然のはずがない。
「ミヤビさんは貧乏神さんなので、相手を不幸にすることができるんですよ」
かえでの説明で、いろいろと納得ができた。
さっき僕が何もない所でつまづいたり、頭上にツボが落ちてきたのも、彼女の力だったわけだ。
古風な格好で、浮世離れしていると思ったが、まさか人間ではなく同類だったとは。
しかも人間だけではなく、ケガレや同じ神である僕も不幸にできるって、すごい力の持ち主なのでは?
そんな規格外の貧乏神だが、
「ご、ごめんなさい……不幸にしちゃって、ごめんなさい……」
終始謝っていた。
不幸を振りまくことを嫌がっている様子だが、彼女の力が治まることはない。
近づいてくるケガレを次々と不幸が襲う。
その状況を眺めて、秋穂さんが困ったようにため息をつく。
「あら~……このままだと、事務所がボロボロになっちゃうわね~」
「確かに」
ケガレに不幸が襲うたびに、なにか物が倒れたり床が抜けたり、事務所の破壊も進んでいた。
「夏希ちゃんの経験のためにも、私はなるべく手を出したくないんだけど……これは仕方ないわね~」
秋穂さんはほんわかした笑顔のまま、ケガレたちのほうへ向かっていく。
進み出た秋穂さんを大量のケガレが取り囲む。
しかしそれでも、秋穂さんの表情は笑顔のままだった。
優しい笑みを浮かべたまま、ゆっくりと口を開く。
「――高天原に神留り坐す」
歌うように、空間そのものを震わせるような祝詞が響く。
音が広がっていくのに合わせて、事務所が清らかな空気で満たされていく感覚がした。
その空気に触れて、ケガレが次々と霧散していく。
すべてのケガレが消滅するまで、数秒もかからなかった。
「たった一言で……!?」
彼女の格の違いが良く理解できた。




