地下倉庫の悪霊4
「いけません! 離れてくださいっ!」
かえでの警告が聞こえるものの、倒れたままの僕はすぐには動けない。
そうこうしている間に、モヤは意思を持っているように流動し、僕の周りに集まってくる。
「な、なんだ、これ……?」
慌てて振り払おうとするが、手がすり抜けてしまい手ごたえがない。
抵抗できずにいると、灰色のモヤは僕の体内へすーっと溶け込んでいった。
「……? なんだったんだ?」
よくわからないけれど、ひとまず立ち上がる。
この場にいる全員が、残念そうな表情を向けていることから、何かまずいことになったことだけはわかった。
「あの、さっきのは――っ!?」
説明してもらおうと思った瞬間、何もないところでつまづいた。
盛大に転び、棚に顔面をぶつける。
「つぅ……!」
悶絶していると、今度は頭のてっぺんに鋭い衝撃が走る。
「いった! 今度はなにが……?」
足下に目を向けると、小さなツボが落ちていた。
どうやら棚が揺れたせいで、上に置かれていたツボが落ちてきて僕の頭を襲ったらしい。
なんでこんな急に不運が立て続くのだろう?
原因があるとすれば……。
と、そんなことを考えていると、プシューっと何かが噴き出すような音が聞こえてきた。
「……ん?」
音のほうに目を向けると、さきほど落ちてきたツボにヒビが入っていた。そのヒビから、影のような黒い煙が噴き出している。
それがなんであるのか、見た瞬間にわかった。
「ケガレ!?」
負のエネルギーの塊。悪霊などとはまた違ったタイプの、人間に害なす存在。
「あら~……封印してあったんだけど、解けちゃったみたいね~」
困ったように微笑み秋穂さんに、ミヤビが俯きながらすり寄る。
「ご、ごめんなさい……私のせいで……」
「いいのよ、気にしないで~。ビックリしちゃったのよね~」
二人が何の話をしているのかわからないが、悠長にしている場合ではない。
ケガレはよく自然発生するものではあるが、量が多ければ人死にや、大災害を起こすことだってある。
あの小さなツボに収まっていたとは思えないほど大量のケガレが、事務所の半分を埋め尽くしていた。
その黒い煙はいくつかに分裂し、寄り集まって歪な人型へと変化していく。その数は十や二十どころではない。
かなり危険な気配がする。
「みんな下がって! ここは僕が」
前に出ようとした僕を、しかし秋穂さんが止めた。
「ヤツカちゃんは、今は戦わないほうがいいわね。ミヤビちゃんの力で、どんな事故が起こるかわからないもの~」
「うぅ……本当にごめんなさい……」
ミヤビの力というのが、まだよくわからないが……。
それよりも目の前の脅威だ。ケガレだけなら、慌てるほどではないのだが、ここにはかえでがいる。
ケガレが器を求めて彼女を襲う可能性もある。
彼女を守ると約束したのだから、秋穂さんに止められても戦う。
そのつもりでいたのだが……。
僕の横を駆け抜ける影があった。
橙色のブレザーをはためかせながら、ケガレに急接近していく。
「散れっ!」
ケガレの一体に迫った夏希が、拳を振り抜く。
すさまじい速さで突き出された拳を受けて、ケガレはあっさりと霧散してしまった。
つまり、拳でケガレを祓った?
「……人間技じゃないな」
昨日も今日も強烈なパンチだと思ったが、これほどとは。




