地下倉庫の悪霊3
押し倒してしまったのに笑顔を向けてくれるなんて、小鈴は心が広い。
それとは対照的に、夏希は僕に鋭い視線を向けていた。
「私は納得できてないから。本当はわざとやってるんじゃない?」
疑いの目が向けられるが、それは秋穂さんによってすぐに否定された。
「それはないと思うわよ~。ヤツカちゃんくらい強い神様だったら、私たちを力づくで従わせることだってできるもの~」
「力づくで!?」
夏希は身を守るように、自分の体を抱きしめていた。
「いや、やらないから! 秋穂さん、フォローになってないですよ!」
「あら~? でも、強いのは本当じゃない~」
これに勢いよく賛同したのは、かえでだった。
「はい! 昨日は何度も助けられちゃいましたから。悪い人を、あっという間に倒しちゃって、すごかったです!」
「ほんと助かったわ~。だから――」
秋穂さんは僕の手をつかむと、いきなり引き寄せてきた。
「お礼のぎゅ~っ」
「――っ!?」
次の瞬間には、柔らかい感触に包まれていた。
急なことだったので反応が遅れたが、どうやら秋穂さんに抱きつかれたらしい。
全身を柔らかい感触に襲われるが、特に顔がやばい。
二つの大きなふくらみに包まれて、その圧倒的な存在感にめまいがしそうだった。
「よしよし~、えらいわね~」
「ちょっと姉さん、何してるの!? そいつは男っ!」
「えぇ~、男の子も女の子も関係ないわよ。頑張った子は褒めないと~」
「そういうことじゃなくてっ!」
「あ、そうだわ。ヤツカちゃん、ここに暮らすなら、うちで働いちゃうのはどうかしら~?」
仕事がもらえる!?
それは願ったり叶ったりだ。
しかし、どうも思考がまとまらない。返事ができない。
だって柔らかくて、いいニオイで、そして何よりも……苦しい!
顔面が完全に包まれてしまって、息ができない!
息苦しさに悶えていると、かえでが異変に気づいてくれたようだ。
「秋穂さん、ヤツカさんがっ!? 窒息! 窒息しちゃいますっ!」
「あら? あ~、ごめんなさいね」
「ぷはぁ!」
やっと解放されて、大きく深呼吸する。
「大丈夫かしら~?」
「は、はい……なんとか」
神を殺すほどとは……恐ろしい膨らみだ。
まだクラクラする。足下がふらついて、視界が揺れて……
「あ、やばい」
そう思った時には手遅れだった。
ぐあっと頭が揺れて、気づけば視界に天井が映っていた。
その直後、背中に衝撃が襲う。
どうやら倒れてしまったらしい。我ながらなさけない。
「だ、大丈夫ですか!?」
かえでの心配する声が聞こえる。
「なんとか……」
返事をしながらすぐに立ち上がろうとしたのだが、ふと右手が何かに触れた。
棒状で、しっとりと手に吸い付くような感触で、少し硬い部分と柔らかい部分があって、
「……きゃっ」
短い悲鳴。
すこし幼いその声に視線を向けると、僕がにぎっていたものが何かわかった。
僕の右手は、黒い着物のなかに滑り込んでいる。
倒れる勢いで近づいてしまっていたのだろう。
僕は、ミヤビのふくらはぎを触っていた。
「いやぁぁぁぁっ!」
これまでのイメージからは想像もできない大きな叫び。
それに呼応するように、彼女の体から灰色のモヤが放たれた。
「これは……っ!?」




