地下倉庫の悪霊2
「ごめんなさいね~。うちの夏希ちゃん、すぐに手が出ちゃうから~」
下の階にある事務所で目を覚ました僕に、秋穂さんがにこやかな笑顔で謝る。
姉が謝っているというのに、当の夏希は腕を組んでそっぽを向いていた。
「変なことしようとしてた、そいつが悪い」
この言いぐさである。
「だから誤解なんだけど……」
と返すものの、そう簡単に信じてもくれないだろう。
昨日から連続して、疑われるようなことが起きているのだから。
「なんか、都会に出てきてからツイてないな」
いや、出てくる前からツイてはいなかったか。
自分で勝手に落ち込んでいると、かえでが心配そうにのぞき込んでくる。
「あの……大丈夫ですか? ほっぺが真っ赤になってますよ」
「あぁ、このくらいならすぐに治るよ」
心配してくれる人がいるというのが、単純に嬉しい。
けれど、彼女の顔を見ることができない。
「というか、ごめん。覗くつもりはなかったんだけど」
かえでの着替えを見てしまったことを、改めて謝罪しておく。
その時のことを思い出してしまったのか、かえでは頬を染めながら、しかし笑顔を返してくれた。
「いえ、ヤツカさんがそういうことをする人じゃないってわかってるので。むしろ、その……粗末なものを見せてしまって、すみません」
「そ、そんなことないって! すごくきれいだった!」
「き、きれい、ですか!?」
「あ、あぁ。なんというか、作り物みたいに完璧で、ずっと眺めていたいくらいだった」
「ずっと、眺めて……」
かえでの頬が赤みを増していき、うつむいてしまう。
フォローのつもりで言っていたのだが……むしろマズイ発言だったかもしれない。
僕の心配を補強するように、遠くから声が聞こえてくる。
「……かえでちゃんをイジメてる……やっぱり怖い人……?」
棚の影に隠れて、女の子がこちらの様子をうかがっている。
日本人形のように長い髪と、黒を基調とした着物姿。全体的に幸の薄い印象がある彼女は、たしかミヤビという名前だったはずだ。
「なんで、あの子はすぐに僕を悪者扱いするんだ……」
そんなに悪人面に見えるのだろうか?
地味にショックを受けていると、かえでが困ったような笑みをもらす。
「ミヤビさんはちょっと臆病で心配性なだけですよ。すぐに慣れてくれると思います」
心配性にしても、度が過ぎている気が……。
いまいち納得できずにいると、ふいに服の裾が引かれた。
何事だろうと、視線を向けると、
「ん」
さっき押し倒した女の子がいた。かえでたちが小鈴と呼んでいる子だ。
「……」
服を引っ張ってきたのに何も言ってこない。ただ、こちらを見つめてくる。
この子は一言もしゃべらないから、何を考えているのかいまいち理解できない。
だが、今回はすこし違った。口は動かないが、表情がこちらに意思を伝えてくる。
彼女はわずかに目を細くして、頬を膨らませている。どこか怒っているような表情。
何が言いたいのか、なんとなくわかった気がした。
「えっと……さっきはごめん」
「んっ」
小鈴はよしよしとでも言いたそうに頷くと、笑顔で事務所から出ていった。
一連の流れを見守っていたかえでが、安心したような笑みを浮かべる。
「仲直りできてよかったですね」
「今の、仲直りだったの?」
「そうですよ。小鈴さんも『わざとじゃないから許すけど、気を付けないとダメですよ』って言ってたじゃないですか」
「何も言ってなかったよね!?」
「そんな感じの雰囲気ってことです! 小鈴さんの言っていることは、徐々にわかってくると思いますよ」
確かに、しゃべらないだけで表情は豊かだし、付き合いが長くなれば伝わるものもあるのかもしれないが。
「まぁ、許してもらえたならよかったよ」




