地下倉庫の悪霊1
都心へ出稼ぎにきて、数日。
ついにこちらでの住まいを得た!
「これも全部、かえでと出会えたおかげかな」
昨日、かえでを狙ってきた男を撃退したところ、秋穂さんのご厚意で空き部屋を無料で貸してもらえることになったのだ。
都会に出てきたはいいものの、仕事も見つからず住む場所もなく。かといって、地元のボロ神社に戻っても飢え死ぬしかない。
そんな状況で、住むところが見つかったのは本当にありがたい。
貸してもらえた部屋は十畳ほどのそこそこ広い部屋だ。
しかし物置として使われていたらしく、たくさんの段ボールが積み上げられている。その分すこし手狭だが、贅沢は言わない。
「雨風がしのげるって、素晴らしい!」
これに尽きる。
ちゃんとした布団で眠ったのだって、何年ぶりだろう。
おかげで今朝は気持ちよく起きることができた。
今日から僕の新生活が始まる。
「よし、まずは……」
とりあえず洗面所に向かった。
顔を洗って、身だしなみを整えてから、改めて秋穂さんにお礼を言おう。
部屋を出て、洗面器がある脱衣所の扉を開ける。
「えっ!?」
かわいらしい声とともに視界に飛び込んできたのは、透き通るような肌色だった。
視線をあげると、驚きに目を見開くかえでの顔が。
庇護欲を刺激する華奢な体は、純白の下着だけを身にまとっていた。
その手には制服のスカート。近くの壁にシャツとブレザーがかけられている。
これから制服に着替えるところらしい。
濡れた髪とほのかに香るシャンプーに匂いから、ついさっきまで彼女がシャワーを浴びていたことがわかる。
「……」
などと悠長に分析している場合ではなかった。
こちらを振り返ったかえでと目が合う。
「ヤ、ヤツカさん!?」
彼女はとっさに体を隠そうとするが、手にしているのはスカートのみ。両手も使ってなんとかしようとしているが、とても隠しきれるものではない。
絹のような美しい肌をいつまでも眺めていたいという気持ちはあるが、同時にまずいことをしてしまったという焦りもあった。
「ごめん! わざとじゃないんだ!」
言い訳しながら、視線をそらし、かつバックステップで脱衣所から飛び出した。
一秒でも早くここから離れたほうがいいと思って、とっさに取った行動だったが……。
直後、背中に妙な感触がした。
なにか、柔らかいものにぶつかったような?
「……んっ」
そして背後から聞こえる短い悲鳴。
「まずいっ!」
そう感じながらも、飛び出した勢いは止められず、背中にぶつかった何かと一緒に倒れこんでしまう。
そうして――
「……えっと」
四つん這いになった僕の真下に、小学生くらいの女の子がいた。
「…………」
小さな瞳が無言でこちらを見つめてくる。何が起きたのかわからず、困惑するように。
古風なおかっぱ頭で、赤い着物の女の子。
この子には見覚えがあった。
昨日、頬を痛めた僕に濡れタオルを差し出してくれた子だ。
「……ん?」
古風な女の子は小首をかしげ、馬乗りになっている僕をしげしげと観察し、続けて馬乗りされている自分を眺め、
「んんっ!?」
そこでやっと状況を理解したのか、一気に顔が真っ赤に染まった。火が出そうな勢いで。
「……ん」
それでもなお口を開かない彼女は、何かをあきらめたような、覚悟を決めたような、なんとも表現しにくい表情で身を固くした。
とんでもない誤解が起きている気がする。
「いや、待って! わざとじゃないんだ! これには深い事情が――」
慌てて事情を説明しようとするが、頭上から降ってきた声に続きを遮られた。
「じゃあ、なんですぐに小鈴の上から退かないわけ?」
快活で、強い印象を受ける声。
すごく聞き覚えがあり、とてつもなく嫌な予感がした。
「いや……ほんとに違うんだって」
言い訳しながら視線をあげると、そこにいたのはやはり夏希だった。
昨日、僕を二回もぶん殴って気絶させた人物だ。
彼女がすでに拳を構えていることから、三度目がすぐにやってくることは容易に想像できた。
「問答無用っ!」
トラックにはねられたような衝撃を受けて、僕の意識は遠くへ飛んでいった。




