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File:006 償
自殺。
有り得ないと思っていた言葉。
空白。
彼の頭の状況を表すのに
その言葉は充分過ぎた。
昨日、教え子が自殺した。
遠くから通っていたあの優等生が。
思い悩んだ。
訳は?理由は?
あの笑顔が思い浮かぶ。
懺悔の波が押し寄せる。
もう耐えられそうにない。
今日の授業も休んだ。
きっと明日もだろう。
明後日もだろう。
その時、閃く。
辞めてしまおう、と。
どこかからの抵抗を抑え、
自分に言い聞かせる。
誰のせい、なんて関係ない。
教え子が死んだ。
その事実だけで充分だった。
どこか満ち足りた気分になった。
筆立てへと手を伸ばす。
サラサラと動き始めたペンに、
もう迷いはなかった。