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【書籍化】腕利きシェフは『王家の至宝』⁉︎〜悪役は恋しちゃダメですか?2〜   作者: 葉月クロル


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金髪のオフィーリア

「さあリッカルさん、わたしの紅薔薇を味わうがいいわ!」


 わたしが腕を組んで不敵に笑うと、バトルアックスファイターと名高いリッカルさんは「おう、相手にとって不足なし!」と叫んでフォークを手に取った。


 本当はお箸を出したいところなんだけど、お上品とは言いかねる冒険者に箸づかいを教える余裕はない。片っ端からバキバキと折られてしまうのがオチだ。


「行くぞ!」


 彼は左手で丼を支えると、フォークにがつんと肉と飯を盛り、口に突っ込んだ。


「……むうううううううう!」


 声なき声で勝ちどきの声を上げると、リッカルさんは丼を抱え込むようにして、柔らかでジューシーなエビルオックスのロースト肉と、肉汁の染みたごはんとを無心にかきこんだ。


「あー、美味そう……」


「あれは美味いよな。絶対、間違いなく美味いよな。……俺も食おうかな」


「さっき定食を食ったばかりだろう」


「人間、いつ何があるかわからねえんだぞ! 今食わなくていつ食うんだよ⁉︎」


「そ、それもそうだな! メリーっ子、俺も肉丼をくれ」


「俺もだ! ……いや、えっと」


 メリーが黙っていると、ふたりの男は恐る恐るわたしの顔をうかがった。

 わたしは包丁をくるりと回して「ご注文は正確に」と目を細めた。


「……俺に『紅薔薇の舞』をくれ!」


「俺にも『紅薔薇の舞』を!」


 わたしはにっこりと笑い、新しい肉をふたつ取り出した。





 17歳になった今、わたしは『緑の風亭』の料理人として活躍していた。得意なのは、もちろん肉料理だが、電光石火の包丁さばきで他の料理もこなす。ここのお得意さんはもっぱら冒険者なので、疲れた身体を満足させるがっつりした肉料理が好まれるのだ。本当は魚料理にももっとチャレンジしたいんだけど、このエルスタンの国は内陸部にあるので、海産物は限られる。そして、この国のあちらこちらには魔物が多く生息する森があり、そこで狩られた美味しい肉がエルスタンの名物なのだ。


 魔物の肉は、普通の動物と違って魔力を有しているため、食べると不思議な効果が出る。わたしの得意料理である『紅薔薇の舞』は、疲労回復効果と体力アップ効果があるため、冒険者にとても評判が良く、リッカルさんのように魔物狩りの後にわざわざ食べに来てくれる人も多い。


 わたしは、夢中になって『紅薔薇の舞』を食べる三人の様子に満足した。小さい頃はメリーのように、ワンピースを着てウエイトレスもやっていた。今のわたしは長い髪をふたつのお団子にし、レースのネットでしっかりと覆ってリボンで巻き、着ている服はレオン父さんと同じ、飾りが何もないシャツとズボンだ。これは、料理に異物が入らないようにするための措置である。


「美味かった。ベルちゃん、これは礼だ」


 料理を食べ終えたリッカルさんは、そう言うと代金となにか光る物をテーブルに置いて片手を上げ、出て行った。


「毎度ありがとうございまーす! あれ、お姉ちゃん、こんなのをくれたよ」


「あらま、リッカルさんたら」


 そこには、小さな魔石がついた髪飾りがふたつ、置かれていた。お土産に買って来てくれたのだろう。


「わあ、お姉ちゃん、綺麗な石だね! どっちがいい?」


 髪飾りをふたつ受け取ったわたしは、両方をメリーの頭に当ててから「この濃いピンクの石がついた、花模様の方がメリーに似合うよね?」とみんなに聞いた。


「ああ、そうだな。青い石に羽の模様のは、アナベルに似合う。くっそー、リッカルめ!」


「俺もそう思うぞ。抜け駆けしやがって、あの斧野郎めが!」


「ふふっ」


 わたしはメリーの頭に髪飾りをつけてやり、自分の分は棚に置いた。仕事中はアクセサリーを付けるのはご法度だからね。





 前世ではほとんど男性と喋った経験がないわたしだったけれど、転生してからは積極的に『緑の風亭』の仕事を手伝い、たくさんの冒険者の男性とお喋りできる、はきはきした女の子になっていた。

 冒険者たちは荒っぽいけれど、女性や子どもには優しいし、わたしの身の上を知っていたから同情して、特に可愛がってくれた。おぼつかない手つきでゆっくりと料理を運ぶわたしを温かい目で見守り、料理を始めた頃は若干こんがりし過ぎた肉料理でも「こいつはうめえな! なんか元気がもりもり湧いて来たぞ」なんて喜んで食べて、わたしを高い高いしてくれた。


 そんなこんなで人に恵まれて12年。レオン父さんが、わたしに肉料理専門店を新たにひとつ作って任せようか、などと驚くことを言い始めた頃。


 平穏な日々に終わりを告げる使者がやってきた。





 最初に気づいたのは、勘のいい冒険者たちだった。


「おやっさん、アナベルのことを嗅ぎまわってる奴がいるぜ」


 冒険者のパーティでも、マッピングをしたり、魔物の情報を集めたりして戦術を研究する、頭脳担当者が父さんに言った。


「どうやら、裏にお偉いさんが絡んでいるらしいから、用心した方がいいぞ」


「お偉いさん……貴族か?」


「レオン、まさか」


「……今さら何を……」


 エマ母さんとレオン父さんが、何やら意味ありげに顔を見合わせたので、わたしは不安になった。


「ねえ、どういうこと? 心当たりがあるの?」


 しかし、母さんと父さんに「アナベルはうちの子よ。わたしたちが必ずアナベルの幸せを守るからね」「おう」と抱きしめられただけだった。





 忠告をされて数日後。

 まだ髪を下ろして粗末なワンピースを着た姿で、メリーと一緒に開店の準備をしていると、食堂の前に一台の馬車が止まった。見ると、紋章付きの立派な馬車だ。紋章付き……すなわち、貴族の馬車である。

 

「アナベル、メリー、二階に行っていろ」


 異変に気づいたエマ母さんとレオン父さんが、わたしたちを馬車から守るように庇った。


「父さん、でも」


「いいから早く!」


 庶民に貴族が絡むとろくなことがないというのが常識である。わたしたちは、父さんの指示に従おうとした。しかし。


 馬車から降り立ったふたりの人物を見て、わたしとメリーはその場から動けなくなった。その男性たちは、同じ人間とは思えないほど存在感があり、わたしたちは威圧されてしまったのだ。


 仕立てのいい服に身を包んで、警備の騎士に守られるようにして立つのは、氷のように冷たく光る淡いブルーの瞳に銀の髪をしたふたりの男性で、どことなく顔立ちが似ている。わたしは、このふたりはおそらく親子なのだろうと思った。


「……リシュレー伯爵……」


「ほほう、わたしのことをご存知のようだね」


 レオン父さんの呟きに、年配の紳士が眉を上げて言った。


「……い、今さら、なぜここに」


「探していたのだよ。そして、辿り着いただけだ。さあ、そこの少女なのか? 紹介したまえ」


「アナベルはうちの子です!」


 わ、わたし?


 エマ母さんの言葉に、わたしは目を見開いた。


「……その大切な娘さんに、様々なことを学ぶ機会を与えて、可能性を広げてやりたいと思わんか?」


 にこやかな紳士の言葉に、エマ母さんは息をのんだ。


「そのお嬢さんに、そうする機会がやってきたのだよ、ご婦人」


 いったいどういうことなの?


 レオン父さんの背中に隠れていたわたしがその顔を見上げると、辛そうな顔をした父さんがそっとわたしの背を押して、自分の横に並べた。


「この子が、フィー……オフィーリア姫の娘、アナベルです」


「おお……おお、なんという奇跡だ! アナベル姫、あなたは……」


「ええっ⁉︎」


 驚いたことに、その貴族の紳士はわたしの前に跪き、わたしの手を取って顔を見つめた。


「その美しき姿はまさに『王家の至宝』! 輝ける金の髪、そして宝玉のように不思議な光を湛えた青と金の瞳。アナベル姫、あなたは正しくエルスタン王家の血を引く姫君なのです」

 

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