表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】腕利きシェフは『王家の至宝』⁉︎〜悪役は恋しちゃダメですか?2〜   作者: 葉月クロル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/42

まさかの出会い

 ケイン王子と面会するためにドレスアップしたわたしは、セディール兄さまにエスコートされながら、案内の者に続いて王宮の廊下を進んだ。


 わたしはまだ王族との正式な面会をしていないというのに、ケイン王子との婚約話が決まりそうになっているなんて驚きだ。きっとわたしの情報が諜報部署に集められて、王家に届けられているのだろうけど、そんなに簡単に決めていいのだろうか。これも、乙女ゲームの流れに運命が矯正されているのだろうか。アナベルがケイン王子の婚約者になるということは、ゲームの紹介にも書かれていたし……本当にこのままケイン王子と婚約させられたらどうしよう……。


 『王家の至宝』の噂が流れているのか、王宮の人々はわたしのことを知っているようだった。


「あれは、アナベル姫ではないか」


 王宮のそこかしこで、そんな言葉を耳にする。


「おお、本当だ。噂の『王家の至宝』のお姿を拝見できるとは運がいい……それにしても……」


「うむ、噂以上に美しい姫だな」


 わたしの姿を見た人たちが、囁いているのが聞こえたけれど、もちろんそんなことは気にせずに頭を上げて歩いていく。


「ちょっと、ご覧になって」


 もちろん、王宮の女性たちからも注目されている。

 ぽっと出の王族もどきのわたしである。お姫様方にいじめられないか、心配だ。


「まあ、あれがアナベル姫ね。なんて麗しい姫君なのかしら」


「あの流れるような金の髪の美しさといったら……言葉にできませんわ」


「本当に、全身が光り輝いていらっしゃるわ。お美しいわね……そう、精霊か、天の遣いか、人にあらざる存在のようですわね」


「素晴らしい白いレースのドレスをお召しになっているわ。装飾品は身につけていらっしゃらないようですけれど。なによりも輝く青とと金の瞳をお持ちですもの、あの姫には宝石なんて必要ございませんのね」


 あれ、めっちゃ誉められていた。


 兄さまに手を引かれて淑女らしく静々と足を運ぶわたしは、せっかく皆に褒めそやされていたというのに、残念ながら頭の中はそれどころではなかった。


 ああ、セディール兄さまと並んで歩くなんていつものことなのに、なんでこんなに緊張しちゃうのよ。

 好きだって気づいただけで、軽くパニック状態が続いていて、繋いだ手が手汗をかいたらどうしようとか、足がもつれそうだとか、今日のドレスを可愛いって思ってくれてるだろうかとか……あ、これはさっき絶賛してもらったから大丈夫ね……ううん、待って、いつもの習慣で誉めてるのかもしれないし、単に妹分のご機嫌をとって言っているのかもしれないし……ああ、やっぱりセディール兄さまは、わたしのことを妹にしか見てないのかしら⁉︎ こんなことなら兄さまだなんて呼ぶんじゃなかったわ、最初から『セディールさま』って呼んでもっとおしとやかな振りをしていれば……。


 セディールさま。セディールさま。セディールさま。

 うわあああーっ、照れるうううーっ!

 

「アナベル?」


「はいっ、きゃあっ!」


 脳内をぐるぐるさせて、しかも兄さまを『セディールさま』呼びして悶えているところに声をかけられて、動揺したわたしは躓いてしまった。セディール兄さまが素早く腰に手を回して支えてくれる。引き寄せられたので、身体が兄さまにぴったりとついてしまった。


 あわわわわわ、いや、いやいや、これはダンスの練習と大差ないから! 

 落ち着けアナベル!

 ちょっと恋した相手に抱きついて匂いをくんくんしている状態になっただけ……照れるうううーっ!


「大丈夫? 足を痛めなかった?」


 兄さまはなにも気づかずにわたしを抱きしめて「かわいそうに、緊張しているんだね。大丈夫だ、わたしが守ってあげるから」と囁きながらわたしの頭に頬をすりすりした。


 確かに、緊張、してるけど、たぶん兄さまの考えてる理由とは違うよ!

 ごめんね、こんな変態な妹分で、ほんとにごめん!


 でも……チャンスだから、ぎゅっとしちゃえーっ!


「兄さま……あのね、あの……」


「やっぱり今足をひねってしまったのかな?」


「……はい」


 自分の行動をごまかすため、嘘をついてしまった。

 と、セディール兄さまは身体を離すと腰をかがめ、すばやくわたしをお姫さま抱っこしてしまった。カティが「あらまあ……」と呆れたように言った。


 さすがに、王宮の真ん中で、お姫さま抱っこをされながら婚約者候補に会いに行くのはまずくない⁉︎


「兄さま、おろして」


「どうして」


「ごめんなさい、甘えたかっただけなの。わたしは自分で歩けるわ」


 至近距離にある兄さまの美貌を上目遣いでおずおずと見上げながら言うと、兄さまは「ア、アナベル、甘えたかったって……」と絶句してしまった。


 うわあん、叱られちゃう!


 と思ったら、兄さまは顔を赤くしてあらぬ方を見つめ「くっ、可愛すぎるだろう! 反則だろう、これは! もう勘弁ならないな!」と吐き捨てるように言った。そして、わたしを見つめて「アナベル、かまわないよ。このまま行こう」と優しく言い、わたしを抱く腕に力を込めた。


「でもこのままケインさまのところに行くのは……」


「学園で、王子に抱き上げられたのだろう。だから、今日はわたしが抱いていていいんだ」


 ……すみません、その理屈はまったくわかりません。そして、カティ、さっきから肩を震わせて笑いをこらえているけれど、王宮でそれはおやめなさい。


「兄さま、でも……」


「まさか……王子はよくてもわたしではダメだと、アナベルはそう言いたいのかな?」


 ひゃあ、兄さまの瞳から冷凍ビームが出たよ!

 わたしは素早く目を逸らして「そのようなことは言ってないわ」と言った。冷凍されちゃったら困るからね。


 ということで。

 セディール兄さまは堂々と胸を張り(背が高くてかっこいいから、堂々と振る舞ったらなんでも自然に見えてしまうのよ、イケメンパワー、恐るべし!)恥ずかしくて、でも嬉しくて、兄さまに頭をこてんとつけて、こっそりとにやけるわたしを腕に抱きながら、ケイン王子が待つ部屋へと向かったのであった。





 残念そうにセディール兄さまのことを見守りながら案内してくれたお兄さんが、扉をノックしてから開けてくれた。


「どうぞ、こちらでございます」


 お兄さんに続いて中に入ると、兄さまは「失礼」と待っていたケイン王子に頭を下げた。王子は座っていたソファーから立ち上がると、眉をひそめて言った。


「な……なんで、僕のアナベルを」


 セディール兄さまは、無表情に近い顔でケイン王子に言い放った。


「婚約はまだ整っておりませんので、彼女は『うちのアナベル』ですよ、殿下」


「ずるいぞ!」


「全然ずるくありませんね」


「アナベルは、僕の婚約者候補で」


「あくまでも候補に過ぎませんので、アナベルに関しての一切は世話役のわたしが優先されますね」


「……いや、されないだろう! くっ、丸め込まれるところだった……」


 さすがは兄さま、ケイン王子の抗議など歯牙にも掛けない。恨めしげな様子の王子を前に、涼しい顔だ。


「セディール、僕とアナベルが結婚してこの国を治めていくのを君が補佐してくれる、という話なのではなかったのか?」


「ああ、それはなしになりました」


「なしに⁉︎ いつ⁉︎ なぜ⁉︎」


「アナベルの未来は、アナベルが選びますし、わたしは世話役としてそちらを補佐することに決めましたからね」


 兄さまの言葉は間違ってないと思うわ。


 わたしがこくこく頷くと、ケイン王子は「僕がアナベルに近寄り過ぎて、怯えさせてしまったのか……」と再びソファーに座り込んでしまったので、少しかわいそうになった。

 ケイン王子だって、とても親切でいい人なのだ。ただ、わたしが兄さまに恋しているのが問題なだけよ。


「ケインー、まだかー?」


 おや、隣の部屋から誰かの声がしたわね。王子を呼び捨てにできるなんて、誰なのかしら?


 王子は顔を上げると「あー、困ったな」と呟いた。


「アナベルとの婚約はほぼ確定だと思っていたから、友人に話してしまったんだよ。そうしたら、ぜひ会いたいと言われて……」


「ご友人、ですの?」


 わたしは兄さまの腕を揺さぶって「下ろしてね」と言った。


「ケインさま、わざわざ王宮にご友人をお呼びになったのですか?」


「王宮に滞在しているんだ。他国の王族でね」


 ケイン王子は、床におり立ったわたしをエスコートしようと近づいてきて、兄さまと睨み合いになった。そこでわたしが「淑女の前でくだらないことをなさる殿方って、どうかしらね、カティ?」と侍女に言うと、彼女は「あまり魅力的とは言いかねますわね」と答えた。


「そうよね。やっぱり、殿方の魅力は、男性としての余裕や包容力だと思うの」


「ベルさま、わたくしも同意見ですわ。どっしり構えて、いつも品の良い笑顔で女性を扱ってくださる方が素敵ですわね」


「そうね、素敵だわね」


 わたしとカティが頷きあっていると、ケイン王子とセディール兄さまは睨み合いをやめて、こほんと咳払いをした。


「まあ、殿下のご友人とお近づきになるのも、アナベルには良い経験になるかな」


「僕がゼールデン国に留学してできた友人だから、他国の話も聞けるし楽しいと思うよ」


 わたしが「そうですわね」と笑顔で同意すると、ケイン王子がお付きの者に「この部屋に案内して」と声をかけた。扉が開かれ、数人の若い男女が部屋に入ってきた。


「え……」


 上品な笑みを浮かべて入ってきた人たちを見て、わたしは驚きのあまり口を開けてしまい、慌てて両手で押さえた。


「ごきげんよう、アナベル姫、お会いできて光栄ですわ」


 そう言って、首を傾げて笑った美少女は。


『恋のミラクルまじっく!』に出てくる悪役令嬢の、ミレーヌ・イェルバンじゃないの⁉︎

 でもって、隣にいる金髪キラキライケメンは、レンドール王子!

 ちょっ、なんで、金の巻毛にピンクの瞳のこの子はヒロインのメイリィ・フォードなのに、ミレーヌと仲よさげにしてるの?

 うわあ、チャラいモテモテ騎士系俺様男子のサンディル・オーケンスまでいるし!

 ゲームキャラが勢揃いしてるじゃないのーっ、それに、それに、それに!


「ゼールデン国の王太子夫妻……ミレーヌとレンドールは、僕の婚約者と会いたいと言ってたんだけど……」


「お、王太子、ご夫妻!」


 どうして?

 ミレーヌ・イェルバンは悪役令嬢なのに、レンドール王子と結婚したってこと?

 これはいったい、どうなってるの?


「どうして……同じ悪役令嬢なのに、想いが叶ったの……?」


 わたしの小さな呟きを聞いたミレーヌが、目をつりあげて言った。


「な、なぜそれを……まさか、まさかあなたは転生者……」


「ええっ⁉︎」


 驚いたわたしは、ミレーヌ・イェルバンの黒い瞳をじっと見つめた。


「まさか、あなたも、転生者なの?」


「『恋のミラクル』」


「『まじっく!』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ