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て、てんせいしてましゅ⁉︎

「うわ!」


 ベッドにねていたわたしはとびおきた。


 びっくりしたなー、なんだかすごいゆめをみたよ。

 にほんのじょしこうせい、なんだって。がっこうにいけないから、いんないがっきゅうのせいとだけど。


 わたしは、りょうてのひらをみた。

 ちいさなて。でも、おうちのおてつだいをしてるから、ちょっとかたいまめがあるの。

 かあさんはいつも「はたらきもののてんしちゃん」ってあたまをなでてくれるの。

 とうさんは「かわいいかわいいアナベル、おれのたからもの」ってほっぺたをすりすりしてくるけど、おひげがささってすこしだけいたいの。


 ……え?

 アナベル?


 わたしは浅田莉緒だけど……アナベルって?


 わたしはアナベル。

 かあさんはフィー。とうさんはレック。


 かあさんととうさんは……かあさんと……とうさんは……。


「う……」


「アナベル、起きたの? アナベル……」


 木の扉が開いて、女性が入ってきた。


「うわあああああああああああん!」


 わたし、浅田莉緒は、アナベルは、大きな声で泣き出した。


「かあさんは、とうさんは、うわあああああああーっ」


「アナベル!」


 女性がわたしを抱きしめて、わたしはその胸にしがみついてわんわん泣いた。

 わたしのかあさんととうさんは、優しいかあさんととうさんは。

 馬車の事故で、物言わぬ姿になってしまったのだ……。





「アナベル、落ち着いた?」


「はい、っく、しゅみましぇん」


 まだ唇がヒクヒクしてうまく喋れない。わたしは温かくて甘くて少し酸っぱい飲み物の入ったカップを持って、優しい女性……エマさんの膝にいた。その前には、飲み物を持ってきてくれた、ちょっと熊っぽいけど眉をへの字にしてるから怖くない男性、レオンさんが立っている。


「謝らなくっていいのよ。わたしたちの前では、変な遠慮はいらないからね」


「おう」


「もうアナベルは、うちの家族なんだから」


「おう」


「人形のように固まったままだったから、心配してたのよ。でも、泣けてよかったわ」


「おう」


「涙はね、悲しみを少しずつ溶かしてくれるからね」


「おう」


「……レオン。不器用なあなたが好きよ。だけどね、いつつの女の子に対して、熊みたいに唸ってばかりっていうのはどうかと思うわよ」


「お……あ……」


 レオンさんは困ったように口を閉じて、それから困ったように頭をかいた。


 って、エマさんもやっぱり、レオンさんのことを熊っぽいって思ってたんだね!


 わたしが思わずくすっと笑うと、レオンさんが「おう、笑った」と嬉しそうに言った。


 熊が人間になったよ。






 状況を整理しよう。


 わたしの名前……今の名前は、アナベル。両親が馬車の事故で死亡したため、子どもがいない親戚の、エマとレオンの夫婦に引き取られた。


 で、現在5歳の幼女。

 そして、どういうわけか、日本の女子高生だった浅田莉緒の記憶を持っているのだ。


 これはどうやら……異世界に転生、ってやつらしい。

 驚きである。

 身体は幼女、中身はJK。


 しかし、安心してくれ!

 ほぼ病院暮らしだったわたしは、経験値が幼女並みだから、いきなり5歳スタートでもまったく問題がない!




「あの……あらためまして、よろしくお願いいたします。この度はご親切に引き取ってくださいまして、大変ありがたく思っております」


 エマさんのお膝で飲み物を飲んで、ようやくしゃくりあげずに喋れるようになったわたしは、頭を下げて挨拶した。

 この夫婦は決して裕福ではない。レオンが料理人で、ふたりでこの町で食堂を開いて暮らしている庶民だ。そう、この世界は王さまや貴族なんかがいて、おまけに魔物もいて、剣と魔法で戦う冒険者もいるファンタジーっぽい世界なのだ。

 そんなふたりが、まだ働き手として役に立たないわたしを引き取ってくれた。本当にありがたいことだ。なので、当然のこととして感謝の意を表したのだが。


「まあ……しっかりした子ね! まだ5歳なのに、そんなきちんと挨拶ができるなんて」


「おう!」


 驚かれてしまった。


 ヤバい、身体は幼女だった!

 しっかりしすぎちゃったよ!


「アナベル、そんなに気を張らなくていいの。子どもらしくしていていいのよ。わたしたちを、親代りだと思ってね。遠慮しないで頼ってちょうだい……あ、あらあら」


 わたしの涙腺が再び決壊してしまった。

 アナベルとしてのわたしは、愛する両親が亡くなったばかりだし、浅田莉緒のわたしは前世の記憶が蘇って、日本とはまったく違う世界に戸惑い、不安になっていたのだ。エマさんの優しさが心に染みて、涙が止まらない。


「お、おう」


 あ、レオンさんもね! 染みてるよ!


 わたしはしばらくえぐえぐと泣き、エマさんはそんなわたしを抱きしめて、優しく揺さぶってくれた。泣き止んだら今度はレオンさんが甘いミルクをくれたので、それを飲んだ。どうやらわたしは、しばらくろくに物を食べていなかったようで、ふたりに心配をかけていたらしい。エマさんとレオンさんはミルクを全部飲んだわたしを見て、良かった良かったと笑った。


「えと……」


 わたしはエマさんの顔を見た。茶色い髪に青い目をした、まだ若くて綺麗な女性だ。でも、暮らしが豊かではないので長い髪は紐で後ろで結ばれて、化粧っけもない。

 レオンさんは……どっちにしても熊っぽい。

 いい服を着せても、やっぱり熊っぽいだろうなあ……。


 決めた。

 せっかく転生できたのだ、この親切なふたりの娘としてがんばって生きていこう。

 そして、本当の親だと思ってふたりを幸せにするんだ!


 わたしはひょこっと頭を下げた。


「よろしくお願いします……エマかあさん、レオンとうさん」


「エマかあさん……?」


「レオン……とうさん……」


「あ、あの……わあっ!」


 今度はふたりの涙腺が決壊しちゃったよーっ!

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