魔討戦記
Ⅱ
あの決闘の後教官"ルイ・ヴィント"からたっぷり説教を受けた後自室に戻った俺は荷物を整理していた。
最低限のものしか持ち込んでいないためすぐに荷解きを終え、ベッドに横たわりなんとなく天井についているシミを数えているとドアが開く音がした。
「あ、こ、ここ、こんにちは、ぼ、ぼくの名前はロブ、ジャン・ロブと言います!よ、よよ、よろしくお願いしましゅ!」
噛みまくりの男?がそこにいた。
ジャン・ロブと名乗ったそいつは栗色の髪に白い肌、髪と同じ色の瞳に薄い唇。どこからどう見ても女の子なのだが"僕"と言っていたので多分男なのだろう。
「よろしく、ロブ?でいいか?俺の名前はクリス・ヴェン・アッシュ。好きに呼んでくれて構わない。」
「よろしく、ヴ、ヴェン君」
よろしくと形式ばった自己紹介を終え何気ない会話を繰り広げているとロブから決闘はどうなったのか質問された。
答えは俺の勝ちだと伝えると信じられないと瞳を大きく見開き尊敬の眼差しを向けてきた。
「あの不死身のディオンに勝っちゃうなんて!彼の才覚は今日まで誰にも破ることができなかった最強の才覚なんだよ!それをどんな手を使って勝ったんだい!?」
さっきまでおどおどしていたとは思えないほどキラキラした目を俺に向けてくるロブ。
あまり手の内は明かしたくないが俺の才覚はあの決闘のせいで他の生徒が知るのにそう時間はかからないだろう。
「自分の腹をかっさばいてディオンの意識を飛ばしてやったんだよ」
「そんな、じゃあどうして君は無傷なんだい??腹をかっさばいた後の人には見えないけど。」
「内緒だ。」
これは俺の才覚の本当の能力に関わることだ。
先の戦いで痛みを共有する力だとディオンが言ってくれたおかげで本当の力に気づいたものはいないだろうが、あまりベラベラ話すものではないだろう。
「俺は手の内は明かさない主義でね」
「ケチー」
不機嫌な声とは裏腹に明るい表情のロブはそういえばと言ってこちらは長い睫毛を向けてこう言った。
「預言者ドーラのことは知ってるの?」
預言者イヴ…あいつにそんな肩書きがあったとは知らなかったが、預言者か…
「イヴ・サン・ドーラ、預言者ねぇ…筆頭指揮生に選ばれたがあいつのことは何も知らないな。
まぁ只者じゃねぇっつーことは分かるがな。」
「預言者ドーラ。有名な話さ。彼女は対戦した人みんなの行動を完璧に読むことができる才覚持ちのようでね。昔相手がどう動いてどんな攻撃を仕掛けてくるのか、時間までピッタリ当てたことがあるんだよ!
すごいよね信じられないよ!」
えっへんと何故か胸を張るロブにそうかいそれは凄いなと相槌を打ち
「とりあえずお前はその重そうな荷物を片付けな、いつまで背負ってんだそのカバン」
「そうだった…うぅ重い…」
「ほら、貸せよ」
「あ、ありがとうヴェン君…」
「ヴェンでいいよ、ルームメイトなんだしな。そらヴェンだぞ、さんはいっ」
「ヴ、ヴェン……?」
何が恥ずかしいのかわからないが、上気した頬に背けた瞳。こちらまで気恥ずかしくなってしまいそうになってしまった。
「と、とりあえずちゃっちゃと整理して飯食おうぜ、腹減っちまった」
「そうだね、僕もお腹空いちゃったよ」
片付けと終わった頃には食堂の方からいい匂いが漂い出した頃だった。皆食事に向かいこれからのグループなどを作るために交流を深めるのだろう。
派手に俺のクラスのトップ、クリスチャン・ディオンとやりあった俺はこれからどう動くべきか自問しながら食堂へ向かった。