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0歳児、決意する

 生後半年。

 未だにうまいこと発声できないが、どうにか言語を理解することが出来てきた。

 生まれた瞬間から言語の習得にいそしんでいるのがわかるとさすがに気味悪がられるだろうと思い、人がいる時はヒアリングに徹して、いなくなってからその言葉を口に出して覚えるという方法をとっていた。

 今では聞き取れないこともないだろうと思えるくらいには発音出来ているが、まだ人前では話していない。


 喋っているのを聞いてもその言葉が指す意味を知らないわけだから随分と苦労したが、延々とその言語しか聞こえてこなかったわけだから習得はそれなりに早くすんだ。

 前世では、留学経験があることをひたすら自慢してきた同僚がいたが、なるほど確かに外国に放り込まれると必要に駆られてやっぱりこれくらい早く習得できるのだろう。当時は俺もうっとおしく思ったが、これは確かに自慢したい。

 だが、自慢しようにも相手がいない。そもそも生後半年でしゃべくりだすというのは前世の知識的にはあり得ないはずだ。

 あと半年は我慢が必要だ。


 最近になって四つん這いで移動――ハイハイができるようになったのも大きい。

 それまでは誰かが自分に話しかけてくれないと言葉を聞けなかったわけだが、今では使用人の話を自力で聴きに行くことも出来る。

 もちろん、見つかるまではだが。

 使用人たちは、ハイハイをするのが早い将来が楽しみだ…などと言っていたが、俺としては半年も動けないのは苦痛でしょうがなかった。

 


 そして、そう、さっき言ったように我が家にはなんと使用人というものがいるのだ。

 生まれた時に見た両親以外の人たちは全員、医者か看護師かなにかだと思っていたが、どうやらその中に使用人もいたらしい。

 と言っても人数はそう多くはない。

 ぽっちゃりとしたよく喋るおばちゃんと、逆に細いがこれまたよく喋るおばちゃん、ムッキムキの寡黙な兄さん、よくドタバタ走り回ってぽっちゃりおばちゃんに怒られている少年、そして母親と同じ歳くらいの黒髪美人。

 この5人だけだ。


 俺の言語習得に役立ってくれたのは主におばちゃん二人だ。

 当然だ。なにせよく喋る。

 俺の寝ている部屋を掃除しながら喋る。

 廊下を掃除しながら喋る。

 来客の対応で喋る。

 仕事を終えてのんびりしながら喋る。

 とにかく喋る。

 まぁおかげで言語の習得が早まったと思えば感謝感謝だ。


 ムキムキ兄さんは、外で薪割りなんかをしている。とてつもなくよく似あう。

 薪割が終わると剣を振っているのをよく見る。これまたよく似合う。

 似合うが、そもそも剣を振っているのが驚きだ。

 あの歳で中二病かとも思ったが、剣は立派なものだし周りの人も何も言っていないので、こういったことは当然のことなのだろう。

 絶対にあの兄さんは強い。たまにどたばた少年が教わっているみたいなので、その推測は当たっていると思う。

 おそらくは警備を兼ねてもいるのだろう。


 

 そして何よりも特筆すべきは最後の黒髪美人だ。

 なんと、猫耳がある。黒猫だ。

 初めて見たときはさすがにびっくりした。

 驚くと、体のせいか泣き出してしまい、黒猫さんを慌てさせてしまった。

 後から分かったことだが、どうやら普段はクールな方らしく、わたわたなっている黒猫さんを見て両親その他使用人は珍しいものを見たと笑っていた。



 さて、使用人がいて、その使用人が剣を振り回していて、なにより猫耳さんがいるこの世界、どうやら前世の世界とはかなり勝手が違いそうだ。

 もしかしてもしかすると魔法なんてものもあるかもしれない。


 ぼんやり生きていた前世だが、王道と言われるゲームはほとんどやった。

 DQだとかFFだとか、当時は周りに話を合わせるだけのつもりだったのだが、実際にそういう世界だと言われると思わずわくわくしてしまう。

 男の子だから当然と言えるが自分にこんな気持ちがあったことに少しびっくりだ。






 前世で最期に考えていたことを思い出す。


 子供の頃の気持ちを持ち続けていれば、人生が変わったのではないか。

 自分が興味を持ったことにもっと素直に生きていれば、あんなつまらない生活ではなかったのではないか。



 これはチャンスだ。


 なんの冗談か、前世の記憶を維持したまま生まれ変わることができたわけだ。

 前世では失敗しないようにと生きてきたが、失敗がなんだ! 別に失敗したっていいじゃないか。

 

 やろう。

 もっと面白おかしく生きよう。

 こんな楽しそうな世界に生まれて楽しまないなんて嘘だ。



 俺は、好き勝手生きてやるぞ!!


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