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プロローグ

 社会人として働き出してもう5年が経つ。

 印刷系の中堅企業に就職して、今では役職も一つだけ上がった。

 早い方だとは思うが、同期がみんな辞めていっただけで、これといって自分が有能だったわけでもないと思う。


「お先失礼します」


 一言だけ全体に声をかけて職場を出る。

 後ろの方で「おつかれさまでーす」と気のない返事が聞こえた。あれは、確か、去年入った後輩の声だったかな。あんまり自信ないけど。

 と、ぼんやりとしながら外に出ると、ちょうど外回りから帰ってきた上司とはちあった。


「お、もう上がりか? これか?」


 にやにやしながら小指を立てる上司に


「今時そんなジェスチャーをする人も少ないですよ部長。第一そういう相手がいたら毎日でも早く帰りますよ」


 と苦笑しながら無難にやり過ごす。

 一言二言話をして、最後に、お先ですとだけ言い上司とも別れ、駅に向かう。





 都市圏から田舎に向かう電車は寂しいものがある。

 帰宅ラッシュの時間帯になるとごった返すわけだが、今日の上りは早かったのでどうしたって乗客は少ない。

 同じ車両内には自分以外にほんの数名しかいない。


 大層な荷物をわきに置いているおばちゃんは買い物帰りだろう。

 わざわざ都市まで出てきて買い物するのだから気持ちはわからないでもないが、もう少し荷物は抑えるべきだったんじゃなかろうか。


 4人掛けのコンパートメントを2人で占領している男子学生は今日は半ドンなのだろうか?

 そういえば今時の子には半ドンは通じないというがどうなのだろう。


 学生といえば座席はがらがらに空いているにも関わらず昇降口に持たれて外を見ている女子学生がいる。

 制服を着崩して派手な格好をしているわりには不真面目そうには見えない。

 不思議な魅力がある。きっとそこそこもてるだろう。


 その他俺と同じようなくたびれたリーマンが3人。


 リーマンの年齢は自分と同じくらいなのが1人、帰り際に話しかけてきた上司と同じくらいのが2人だ。


 そういえば今の会社に入ったのもさっきの上司の影響だったな。

 などと、なんともなしに考える。


 要領よく遊び、適当に単位をとり、学校で開かれる就職説明会には無難に参加した。

 そこで会ったおじさんに「来いよ」と言われたので、「じゃあ」と受けたのが今の職場だった。


 自分でも主体性のないことだと思う。



 思えば、自分から何かをしようとしたことは少なかったかもしれない。

 しないと怒られるから勉強をしたし、皆がやっているからゲームをした。告白されたから付き合ったし、デートから何から全部任せていたらあっけなく振られた。


 もっと小さい頃はどうだったろうか。

 虫を見つけてはしゃいでいたのは、あれは自然と浮かんだ感動じゃなかったろうか。

 年上のお姉さんに憧れたのは恋心だったのではないだろうか。

 ポ○モンのレベル上げを頑張ったのは自分の満足の為じゃなかったろうか。


 ―――そのまま大きくなれていたら何か変わったのだろうか。


「なんて、考えるだけ無駄だよなぁ」


 と呟いて座席に体重を預ける。

 腰が座面からずり落ちるかどうかぎりぎりのところまでずらし、頭は座席のてっぺんに乗っける。

 普段なら周りの目を気にして絶対にしないような体勢だが、なんだか今日はこういうことをしてみたい気分だ。


 まぁ、周りに人が少ないというのも大きいのだが。



 と、



 見るともなしに見ていた外の異常に気が付いた。


 ちょうど斜め45度くらいの角度の位置だろうか。青々とした空にぽっかりと黒い穴があいていたのだ。


「なんじゃありゃ?」


 俺は意味が分からず、どう見ても不自然なその穴をただぽかんと見続けた。


 だから、そう。

 それに気付いたのは、多分俺が世界で一番早かったんじゃないかなと思う。



 穴から巨大な岩が落ちてきた。


 俺の乗っている電車に向けて。


「ちょっ! え!?」


 隕石?いや違うだろ穴ってなんだよ。

 いや、これ当たるだろ?え?おい!

 半ばパニック状態ではあるが、妙に考えが回る。これが死ぬ寸前は思考が伸ばされるっていう走馬灯ってやつか?

 いやいや、そんな場合じゃない。とりあえず逃げないと、やばい!




 なんて考えてるうちに直径10メートルはあろうかというその巨岩は俺の乗る電車に激突した。


 そうして俺はそれはもう見事にあっけなく死んでしまった。

 最後に考えたのは

「まっすぐ落ちてくれりゃいいのに」だった。


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