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競売そして個人民事再生  作者: 三峰
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はじまり 配当要求の終期の公告

裁判所の競売物件。なんとなく知っているという人は多いと思います。年齢を重ねると当事者になった知人がいるという人もいると思います。昔と違ってサラリーマンでも競売にかけられることが多いです。この物語は、そんな競売にかけられることになった人が民事再生を目指す物語です。

競売そして個人民事再生


はじまり


金曜日の夜、家に帰るとポストに不動産会社の人の名刺や封筒が沢山入っていた。

三井啓二様、ご家族様宛となっていた。三井啓二は私の夫である。封筒の中身は概ね次のような内容だった。


「初めまして三井啓二様、ご家族様。私は不動産会社の○○と申します。裁判所で「配当要求の終期の公告」を見てお役にたてるかと思い訪問させて頂きました。配当要求の終期の公告に出ていますので、このままいきますと、お客様の不動産は裁判所の競売にかけられて大変安く売られてしまいます。少しでも高く売るためにも当社にて任意売却のお手伝いをさせて頂きたく存じます。またお話し合いによりお手元にお金を残すこともできます。是非一度お話をさせて頂きたく存じます。まずはご挨拶までにお伺いさせて頂きました。是非よろしくお願いいたします。不動産会社○○」


体がカァッとなった。何故こんな事になってしまったのか。私は普通に真面目に生きてきたのに。夫に腹がたったし、憎いとも思った。只、急な事ではあったが前兆もあったのは確かで高ぶる感情の中でも事態は十分に理解ができた。

私の夫はもう70歳になるが小さな工場を経営している。経営していると言っても従業員はいないので単なる自営業者だ。昔は社員も数人いて仕事も順調であったのだが、時代の流れもあったのだろう、今は寂しい状況である。今70歳なのだから、何年か前に工場を断たんで引退していれば、その方が良かった訳だ。だがそれもこうなってしまったからの話で、年金もサラリーマンだった人と違って少ないし少しでも働いた収入が必要だと思っての事だったのは私なりに理解はしている。実際、少しでも入ってくるようであれば仕事は続けてもらった方が私としても助かっていたと思う。

しかし事業は上手くいかず、私のお金にまで手をつけてきたので、事業を辞めて欲しいと何度も話をしたのだが、「借入金があるので辞めるに辞められない、そのうち何とかなる」と言って話を聞かなかった。そうこうしているうちに今日になったという訳だ。


 しばらくして息子の敏夫が帰ってきた。敏夫は35歳になるが独身で私たち夫婦と家族3人で暮らしている。何度か転職をしたが、今は地元の会社で正社員として働いている。

 私は息子の敏夫に封筒を見せて「こんな事になってしまっている。これからどうすれば良いと思うか」と言うような事を取り乱しながら話をした。敏夫は元々あまり話をしない性格であったのだが、このときもあまり返事はなかった。「お父さんが帰ってきたら3人で話をしよう。」という事であったが、多分息子はこうなる事を知っていた様子だった。

 午後7時頃、夫が帰ってきた。いつもであれば、食事の支度をして7時半には家族で食事をするのだが、今日に限ってはそんな場合ではない。

 夫に名刺や封筒の束を渡して「どうなっているのか」と問い詰めた。夫も息子と同じであまり話をしないタイプだ。この二人があまり口を動かさないのは私が喋り過ぎたからだろうか? どうでも良いようなことが頭をよぎりながら修羅場が始まっていった。


「あなた、何でこんな事になっているのよ。信金への支払いは何とかするって言っていたじゃない? 絶対迷惑はかけないってこの間言っていたじゃない。どうするのよ。」

 夫は黙ってテーブルの上の書類を見ていた。時折手に取り読んでいたが、私への返答は無い。煙草を手に取り火をつけようとしたので、私はテーブルを叩いて、「ちゃんと答えなさいよ!」と言った。夫は煙草を吸いながら奥から灰皿を持ってきてこう言った。

「大体書いてあるような通りだ。すまない。」

「わぁっ」私はどうすることもできず、感情に任せて泣いた。夫に罵声を浴びせてとにかく泣いた。


 私はシャワーを浴びてこの日は寝る事にした。夫は酒を飲んでいた。この日は寝室ではなくリビングのソファーで寝たようだが。息子と夫はこの日少し話をしたようだったが、私は不満の気持ちを表すのが第一で二人の話がどうだったかは知らない。


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