間話
私(神代佑奈)は、目が覚めると、とある小屋の中で横になっていた。
遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。
不意に、キィィ、という木の扉の軋む音が聞こえた。
私は反射的に、寝た振りをする。
「...はぁ。狸寝入りはやめて、起きたのならさっさとそこを退いたらどうだい?神代殿」
「す、すいません。つい、反射的に...」
入ってきたのは、全身白尽くめの黒子、言うなれば、白子と呼べそうな格好をした男性だった。
彼の名前はエルミナセス・フィドルフ。
私が山奥で倒れていたのを保護してくれた人で、私の探し人、カナメさんの『創造術』(何もないところから、瞬時に想像したものを取り出したり、一度創った物を想像の世界に出し入れしたりする高位魔法)の師匠であるフィリップ教官の教え子仲間。
「しかし、こうして見ると、やはり神代殿も、神々の末裔の能力の一端を持つと言えど、女の子なのだな。ははは」
フィドルフはそう言いながら、白い陶器のコップに、今ではもう見慣れた、真っ赤な液体を注ぎ、帽子(?)を外して飲む。
「あ、あの、ラスト・ニーヴァ...って、何ですか?」
「ん?あれ、まだ話してなかったか」
フィドルフは「あ、今日のはうまい」と言ってその謎の赤い液体を飲み干すと、その服(何かコートみたいになっている上着の下の和服っぽいデザインの服)の内ポケット(?)から、一冊の本を取り出した。
彼はその本を開くと、話始めた。
「これは『始まりの書』って言ってな。神代殿の一族の先祖のことが書いてある。それによると、初代神代家主代、神代文帝冥は、クレイファストっていう神姫...まぁ、言うなれば、神様の膨大な寿命と魔力の塊でできたホムンクルスにであった───」
クレイファストは当時、とても困っていた。自分を創ったことで、主人である神様が死んでしまったのだ。
そんな時に、クレイファストはその神様の波長に似た人間、文帝冥にであった。
そして、その時、クレイファストは一生この一族のために尽くすことを誓い、その契約の儀式が行われた。
それにより、神代家の一族は、クレイファストの能力の一端をランダムで引き継がれていった。
これが神々の末裔の始まりだった。
「───で、そのニーヴァっていうのが、クレイファストの主人である神様の名前だ。この世界に存在するほとんどの魔法が、この力の模造品、いや、劣化物な訳だ」
フィドルフは最初の1ページをさっと目を通して、パタリと閉じる。
「ちなみに、ラスト・ニーヴァの能力に、還化というのがある。だから君が神代家の一族だとわかったわけだ。つまり、その能力は身分証明にも使われる」
私は、ふぅーん、と頷きながら、布団を畳む。
「ほかにどんな能力があるんですか?」
気になって聞いてみた。
「この本に載っているのだと、こんなのがあるかなぁ...」
チート並みの自己修復力を与える『神に嫌われた魂』。
どんな怪我を負っても0.5秒後には完全に元通りになり、それは死すらも跳ね返す。
デメリットは成長が7~10才でストップしてしまうことと、自分以外に使えないこと。
あらゆる運命を操作する『運命支配』
指定した運命線を自在に操り、自分の思う結末に運命を作り替える。
デメリットは自分に使えないこと、対象に体の前表面の75%以上が触れていないと発動しないこと、触れたことのある時間帯の運命しか改変できないこと。
あらゆる存在をなかったことにする『完全忘却』
見たものの存在をなかったことにすることができる。
デメリットは、目を開けていると自動発動することと、消したものの存在を自分でも覚えていることができないこと。髪の毛と同色の猫の耳としっぽが生えているので、一目でばれること。12才前後までしか能力が発揮できないことと、女性でなければこの能力は与えられないこと。
「───とまぁ、こんなところか。まだあるけど、聞く?」
フィドルフが3ページ目の紙のはしを持ちながら、にやけた顔で聞いてくる。
絶対、嫌な予感しかしないっ!
「い、いえ。結構です」
「ちなみに、フレテの猫耳猫しっぽは切られてもすぐに再生されるし、身長も150cm付近までしか伸びず、さらには12才当時の若さを死ぬまで永遠に保ち、さらに、絶対に肥満にならない体質を持つ。能力がなくなると、髪も耳も尾も銀色になり、瞳は赤色、もしくは青色に変色し、身体能力が元々の2000倍から10000倍にまで跳ね上がる。見た目変わらず、その筋力は獣人のそれに達するとまで言われている。
.........こんなできすぎた能力はほかにない!主に、絶対に美少女にしか、この能力は与えられない。
さらにさらに───」
「この、ロリコンがぁああああああ!」
どんどんヒートアップしていくフィドルフに、同じ白子の服を着た12才くらいの少女が小屋の扉をぶち壊しながら空中スライディングと呼べそうなフォームで入ってきて頭を蹴り飛ばす。
「ぐぼぐがあ゛!?」
椅子に座っていた彼の体は、きれいな弧を描いて宙を舞った。
「エルミナセス!」
少女は白子の帽子を被っていなかった。
そのため、彼女が何者か私は、はっきりとわかってしまった。
長くなって調整しきれなかったので、分けました。
次回、間話2。