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あの遠い空に ~The world is not one~  作者: karuno104
第2話 「試験」
9/11

「――つまり、あそこで立ち止まって悩んでる間に、地面の下の氷が広がってたわけね。

 どおりでなんか冷えると思った」


 コルドの解説に、ルイは腕を組んで眉を寄せた。

 少し進んだ道の中央に場所を移し、二人ずつ向かい合うような形での立ち話。

 つい先ほどまでいたところは、コルドの術のせいで細かい氷が散らばっており、見ているだけでも肌寒いということで移動したのだ。

 因みに、ルイの服はシンの術で元通りになっている。コルドも上着を返してもらい、いつもの服装だ。


「体温が下がると動きも鈍りますから。薄着の貴女には有効的でしょう?」


 コルドが言って、にこりと微笑む。

 ルイは引きつった笑みを浮かべ、


「そこまで計算ずくかぁー……そりゃ勝てないわ」


 手を上げて降参を表す。

 コルドが術を使っていたことについて、ルイは当然抗議したのだが、


『先ほども言いましたが……貴女に向けて、使ったわけではありません。

 確かに、シキに妖魔を誘導させたり、砕けるまでの時間を引き延ばしたり、地面の下まで凍るよう細工はしました。

 ――ですが、それらはあくまで事前に仕掛けておいたものです。それ以降、僕は手を加えていません』


 というコルドの言葉と、


『形としては、ルイが自分から引っ掛かりに行ったことになるからね。

 だからルール違反にはならないよ。それにルイ、さっき承諾してたでしょ?』


 というシンのフォローであっさり納得した。


「でも、手荒なことをしてすみませんでした。いくら勝つためとはいえ……」


 体を冷やすことは健康にも悪いし、風邪を引きかねない。

 自分が立てた作戦だからこそ、申し訳ないと謝るコルドに、ルイはニッと笑ってみせ、


「なーに謝ってんのよ。勝負なんだから、そんなの気にしなくていいの。

 全力を尽くして当り前――でしょ?」

「そうだぞコルド」


 コルドの左横から、明るい口調でシキが口を挟む。


「手を抜いた方が失礼だろ。な、ルイ♪」

「そうよねー。さすがシキ、分かってるじゃない♪」


 にこにこ笑顔で向き合うシキとルイ。どうやらこの二人、かなり気が合うようだ。


「ですが……」


 なおも謝ろうとするコルドに、ルイは小さく肩をすくめてジト目を向け、


「だーかーらー、謝るなっての。意外と気のちっさい男ねぇー……」

「意外でもないぜ。コルドは神経質だし、人見知り激しいし」

「シキ、余計なこと言わないでくれない? それに人見知りは関係ないでしょ」


 笑顔のままで補足説明するシキに、冷静にツッコミを入れるコルド。

 因みに、ルイの左横で完全に背景と化しているシンは、小さく微笑み、黙って三人のやり取りを眺めている。

 ルイはコルドにからかうような笑みを向け、


「へー、人見知りなんだ?」


 そう聞くと、コルドの頬がわずかに引きつり、しばし考えるような間を開け、こほんっ、と咳払いをひとつ。


「……そ……その話はほら……この件には関係ないですよ。

 それよりは、今後のことを話しませんか?」


 どこかぎこちない笑顔を浮かべ、必死に話題を逸らそうとするコルド。

 もっとからかって楽しみたいと思うルイだが、


(これから一緒に旅する仲間だもんねぇ……。からかいすぎて嫌われたくないし)


 そう考えて素直に引き下がり、そうね、と肯定の言葉を返す。

 ルイは左手を腰に当て、


「じゃ、改めて――負けたからには歓迎するわ」

「よろしくね、二人とも」


 シンは爽やかに微笑んで言った。


「こちらこそよろしく!」

「よろしくお願いします」


 シキは元気に返事をし、コルドはぺこりと小さく会釈。

 ルイはうむ、と満足げに頷き、


「そうそう。一緒に旅するなら、私の戦闘スタイルと"特性"を教えておかないとね」

「とくせい……ってなんだっけ?」


 シキが不思議そうに首を傾げた。

 その一言に、コルドの眉がピクリとはねる。静かにため息ひとつ吐き、ぼそりと呟く。


「今までに六回は教えたんだけどな……」

「なんか言った?」


 何気ない顔で尋ねるシキに、コルドは完全に呆れた目を向け、別に、と返した。


(まぁ、このままじゃ話進まないだろうし……仕方ない)


 そう考えて説明をする。


「術と特性には、基本形である『火炎系』『風系』『水系』『雷撃系』『地系』の五種類と、それ以外の『特殊系』があるのは知ってるでしょ?」

「うん」

「その中で、どの系統の術が使えるのかを、簡単に言い表したのが特性だよ。術師は自分の特性に合った術しか使えないからね。

 例えば、特性が火なら火炎系の術だけが使えて、水なら水系のみってこと。

 中には二種以上の術が使える特性もあって、例えば嵐とか音とか、一言で何系なのか判別できない場合がこれね。主となる基本系が一つあって、それに近い系統の術が、多少の威力は劣るけど少し使えるって感じ。

 もし特性が嵐なら、基本形は雷撃系で、他に水系と風系も使えるってことだよ」


「うんうん」

「ほとんどの特性は基本形に分類されるんだけど、極稀に特殊系の特性を持つ人がいるらしいね。まぁ、僕たちの特性は基本形だし、特殊系の術も使えないからこれは関係ないけど。一応知識として覚えておくといいんじゃないかな。

 因みに、術にはもう一つ『補助系』という系統があるけど、これだけは特性とは全く関係無くて、相性が合えば使えるってことは……さすがに覚えてるよね?」


 コルドの問いに、シキはしばし考えて、


「えーっと……補助系の術って、回復とか物質召喚のこと……だよな?」

「おー、よく覚えてたねー。えらいえらい」


 乾いた笑みを浮かべ、ほぼ棒読みで言うコルド。

 シキは不満げに眉を寄せ、


「お前……バカにしてるだろ」

「当たり前でしょ。これ教えるの七回目なんだから」


 はっきりと真顔で返された言葉に、さすがに負い目を感じたか、


「……悪かったよ」


 苦笑いを浮かべて素直に謝った。


「しっかし……やたらと詳しいわね、コルド。特殊系まで知ってるなんて」


 感心したようにルイが言う。

 コルドはすいっと目を向け、にこっと笑った。


「旅に出る前にいろいろ調べましたから」

「ふーん……。まぁ、そんなことより話を戻しましょう」


 どうでもよさそうにあっさり流すルイに、コルドの笑みがわずかに引きつる。


(……ルイさんから言ってきたのに……)


 繊細なコルドは少しだけ傷付いた。

 それに構わず、マイペースで話を続けるルイ。


「で、見せたからわかると思うけど、私は基本的に銃火器中心で戦ってんの。

 特性は"風"で、普通に強力な術も使えるんだけど、雑魚戦じゃあほとんど使わないから、あんまり見る機会ないかもね。

 ――あんたたちは?」


 ルイが促し、シキがやや困ったような顔でコルドを見つめる。

 コルドは一度シキを一瞥し、すぐに視線をルイに戻した。


「僕の特性は"氷"です。戦法は術中心ですが、接近戦用に槍も使います。

 それで、シキのことですが……自分の特性もわからないそうなんですよ。使えるのは火炎系だけなので、それ関係なのは確かですが……」

「……は?」


 その言葉に、ルイはおもいっきり訝しげな顔をした。

 じーっとシキを見つめ、顎に手を当てしばし考え、


「術使えるようになった時に、こう……パッて感じでわからなかった?

 自分の特性だけはそれでわかるはずなんだけど……」


 ルイの問いに、シキはふるふると左右に首を振った。

 ルイはふむ、とつぶやき、視線はシキに向けたまま、


「シン様」


 と呼びかける。それだけで意図を読み取り、シンは、うん、と答えてにっこり微笑んだ。

 視線をシキに移し、迷いなく告げる。


「シキの特性は"炎"だよ」

「……わかるんですか?」


 不思議そうにコルドが尋ねた。

 自分が何の特性か、というのは自分でしか知り得ないという。

 なぜなら、特性というのは生まれ持った魂の形を言葉で表したものだからだ。普通の人間は魂の形を自覚することはできないが、通力を持った魂の所持者であれば、通力を自覚すると同時にその形を自然と理解し、自分の特性を知ることが出来るらしい。


 書物から知識を得ただけなので、その仕組みはコルドにはわからないが、これらの情報が誤りでないことは、自分の特性を"何故か"知ったことからわかる。

 シンはにっこり笑い、


「私には魂が見えるからね。肉体に宿っていても、霊体のままでも。

 だから、それがどんな形をしているのかはすぐにわかるよ」

「へー……やっぱすげーな、神様って」


 シキが心底感心したように言い、ふと気づいたように自分とコルドを順に指差しつつ、


「つまり、俺の魂は火の形してて、コルドは氷の形してるってことだよな。

 だったらさぁ、コルドの氷ってどんな形してんの? 石みたいな感じ?」

「んー……」


 その問いに、シンはしばし考えて、


「シキが考えているのとは少し違うかな……

 確かに魂の形は個々で異なるんだけど、全部青い火の玉みたいな形なの。

 その模様というか、全体的な雰囲気が違っていて……それが魂の形を表しているんだよ」


 なるべくわかりやすくしたつもりの説明だったが、やはりシキにはわからなかったようで、首を傾げてハテナマークを浮かべている。

 シンはそれを見て取ると、わずかに笑みを引きつらせ、視線を逸らした。


「……まぁ、そういうのはわからなくても大丈夫だよ」

(諦めたっ!?)


 コルドは思わず心の中でツッコんだ。意外そうな目でシンを見やり、


(神様ってくらいだから、もっと気難しい感じかと思ったけど……そうでもないのかな)


 そう考えている間に、シキが『わかった!』と無邪気に返事をしていた。

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