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あの遠い空に ~The world is not one~  作者: karuno104
第2話 「試験」
6/11

 がさがさと、荒い足音を立てながら、両手で持った得物を構える。

 使い慣れない細身の剣を振りかざし、シキはターゲットであるルイに斬りかかった。

 ルイはそれをひょいっと横に避け、


「だーかーらー」


 言いながらシキの手首と襟を掴み、勢いよく投げ飛ばす。


「わぁぁぁぁぁ!」


 シキは無様に叫び、くるくる回転しながらべちっと地に落ちた。

 ルイははぁーっと溜め息を吐き、呆れたようなジト目をシキに向けた。


「真っ直ぐ突っ込んできてどうすんのよ……」

「まったくですね」


 ルイの背後でコルドが頷く。

 その横に立つシンは、楽しそうにふふっと笑った。

 コルドは横目でシンを一瞥し、少し前のやり取りを思い起こす。


(なんでこうなったんだろ……)


 草原に突っ伏すシキを見やり、コルドは静かに肩を落とした。



 **



 時は戻り――

 シンは笑顔でこう言った。


「貴方たちの力を試します。それに合格したら同行する――ってことでどうかな?」

『えっ!?』


 揃って驚くシキとコルド。

 ルイは一人、ぱぁっと目を輝かせ、


「そっれいいですねぇ! シン様!」


 手を合わせて賛同した。


(チャンス!)

「俺もそれでいいぜ!」


 きらりと目を光らせて、シキも便乗して同意する。


(コルドを説得なんて出来ないからな。これで合格して黙らせるしかない!)


 そう考えて、ぐっと拳を握る。


「よし! 頑張るぞ!」


 シキが張り切ってそう言うと、その後ろに立つコルドは内心で舌打ちをした。


(あと少しで諦めさせたのに……やってくれるなぁ……神様。一体何を考えているんだ……。一般人を巻き込まないで欲しいな……。そこはきっぱり断れよ……)


 相手が神様だというのに、遠慮なく失礼なことを考える腹黒コルド。もちろん、それを表に出すような間抜けなマネはしない。


「まぁ……貴女がそうおっしゃるなら……」


 裏の顔を隠し、少し困ったような表情で言う。

 ――が。

 じっと、シキがコルドを見つめる。若干呆れた様子で、コルドだけに聞こえる声量で言った。


「お前……シンにケンカ売るなよ……?」

(バレたぁぁぁぁぁぁぁ!

 ――なんで! こういう時だけ! 勘がいいんだ!?)


 コルドは内心の動揺を必死に抑え、


「そんなことしないよ」


 完璧に隠してにこやかに笑ってみせる。

 しかし、シキのジト目は変わらず、


「……お前がかなーりの人見知りなのは知ってるけどさ……少しは他人を信じろよ」

「…………」


 それきりコルドは黙ってしまった。ばつが悪そうに、ふいっと視線を逸らす。

 シキはシンに向き直り、


「で? どんなテストをするんだ?」

「んー……こんなのはどうかな」


 シンが両手を前に出すと、そこに一振りの剣が現れた。普通のより細く、装飾がほとんどないシンプルな剣だった。


「一度だけでいいから、これでルイに一撃を与えられれば合格にします」

『えっ』


 ルイとシキが揃って嫌そうな顔をする。


「攻撃って……それはダメだろ。ルイが可哀想じゃん」

「むっ――失礼ね。私を舐めないでほしいわ。そんな簡単にくらわないわよ。

 ――って、それはともかく……

 シン様、なんで私なんですか……? めんどくさいんですけど……」


 ルイが不服そうにそう言うと、シンはにっこり笑い、


「だってルイ、こういうの得意でしょ?

 それにさっき言ったじゃない。『それいいね』って」

「いや、言いましたけど……」

「大丈夫。これ、人体を透過するから。人間の体には傷もつかないようになってるの」


 そう言ってシンはルイに歩み寄り、剣の刃を挟むように持って、柄の方をルイに差し出す。

 ルイは右手で受け取り、試しに、と平の部分を左腕に振り下ろしてみた。


 すかっ


 剣の刃はルイの腕に当たることすら無く、そのまま腕を通り抜けた。


「柄と鍔は触れるようになってるけどね。……これなら安心でしょ?」


 シンが爽やかに微笑んで言った。

 シキは訝しげな顔で首を傾げ、


「あー……? それなら、なんでシンは刀身持てんの?」

「あぁ、それはね、私は人間じゃないからだよ」

「あ。そっか、神様だもんな」


 納得したようにポンッと手を打つ。

 ルイは深いため息をつき、呆れたような目をシキに向ける。


「シン様は転生出来ないから、霊体のままなのよ」

「"実体化"してるから正確には違うけどね」


 シンが言うと、シキは再び首を傾げた。


「じったいか……って何?」

「えーっとね、簡単に説明すると、肉体に近いモノを作ることだよ。生理現象が全く無いってこと以外は、生身の人間とほぼ同じかな。五感も痛覚もあるし」


 シンはわかりやすく説明したつもりだったが、シキには理解出来なかったようだ。頭に疑問符を浮かべ、怪訝そうな顔をしている。

 シンはしばし考え込み、


「……普通の人にも、姿が見えるようにすることだよ。霊体のままだと見えないからね」

「ふーん……」


 それでようやくわかったらしく、納得したように呟くシキ。


(でもきっと、よくわかってないんだろうな……)


 その後ろで密かに思うコルド。


「ところでシン様。この剣が無害なのはわかりましたが……

 でもそれだと防げないと思うんですけど。まさか避けるだけ、なんて言いませんよね?」


 ルイが聞くと、シンはにっこり笑って答える。


「残念、当たり♪」

「やっぱりか……」


 引きつった笑みを浮かべ、ルイは肩を落とした。


「だって、ルイは強いじゃない。ハンデ付けないと勝負にならないでしょ?」


 にこやかにそう言うシンに、ルイは一瞬きょとんとして、


「それもそうですね!」


 すぐに笑顔で返した。


「じゃ、ルイも納得したところで、ルールを説明するよ」

「おう!」


 シンが言って、シキが元気よく返事をする。コルドの反応は無かった。


「内容はさっき言った通り。安全性を考えて、使っていい武器はこの剣だけね。

 ……一撃って言ったけど、掠っただけじゃダメだよ。当たった感覚も起きないから、わかりにくいと思うし。

 場所の指定はしないし、仕掛けるのもいつでもいい。

 ただ、制限時間は決めるよ。無期限だとルイが可哀想だからね」

「わかった。……で、いつまでにするんだ?」


 シキが尋ねた。

 シンは少し考えた後、にっこり笑って答える。


「んー……じゃあ、私たちが次の町に着くまで、にしようか」


 シキは小さく頷き、


「それでいい……けど、始める前に、一度村に戻っていい? 俺たち、まだ宿代も払ってないんだよ。荷物も置きっぱなしだし」

「別にいいけど、早めにしなさいよ。待たせるようなら置いてくから」


 腕を組んで、ルイが言った。

 シキは、わかった、と返事をして、四人は村へと足を運んだ。

 シンとルイは村の入り口で待つことにし、シキとコルドだけが村に入った。二人は真っ直ぐ宿に向かい、食堂に入った途端、


「あ! 旅人さん! ねぇ聞いた? さっき村長のところに神様がいらしたんだって!」


 喜色満面の女将に出迎えられた。一瞬、ぽかんとするシキとコルド。

 二人に構わず、女将は夢見るような目で、


「あぁ~……こうしちゃいられない! 早く村長に話を聞きに行かないと!」


 今にも飛び出して行ってしまいそうな女将を、シキは慌てて引き止め、


「あ、えっと、俺たち今からこの村出るつもりなんだけど……」


 そう言うと、女将は口元に手を当て、


「あらそうなの? じゃあ鍵だけカウンターに置いといてくれる? 代金はいらないから!」


 と早口で告げ、乱雑にドアを開けて走り去ってしまった。バタンッとドアが閉まる。

 残された二人は顔を見合わせ、


「シン……村長の家に何しに行ったのかな?」

「結界張り直したって言ってたし……その説明じゃない?」

「なるほど」


 コルドの推測に、シキは素直に納得した。

 そのまま二人は荷物をまとめ、部屋の鍵と少し多めの代金をカウンターの上に置いてから村を出た。

 緩みきった顔でシンに抱きついて頬ずりしていたルイは、二人の姿が見えた途端、すぐにシンから離れ、シャキッと背筋を伸ばし、すました顔で腕を組む。

 されるがままになっていたシンは、無表情でそれを見ていた。


「準備はいいわね?」


 キリッとした表情で、ルイが剣を差し出す。

 シキはこくりと頷き、剣を受け取った。

 因みに、さっきまでのルイの行動は二人にもばっちり見えていたため、コルドからは冷めきった視線が送られていた。シキは特に気にしていないらしく、いつものままだ。


「わかってると思うけど、私もあんたたちも、術の使用は禁止だからね」

「あぁ」

「妖魔が現れたら私も銃を抜くけど、その時だけは邪魔しないで」

「わかってるよ。……というか、その時は俺たちも戦うよ」


 二人がやり取りしている間に、シンはコルドの傍に行き、小声で尋ねる。


「剣、もう一本あるけど……どうする? 使う?」


 コルドは静かにシンを見返し、無言で首を横に振る。


「……そう」


 シンはにっこり笑って言った。

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