表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの遠い空に ~The world is not one~  作者: karuno104
第1話 「始まりの地」
4/11

 山側とは正反対の方向から村を出ると、そこには広い草原が広がっていた。所々に細い木が生えているだけで、非常に見通しがよく、遠くにいる敵の姿も確認できた。


「マジでいるし……」


 シキが呆然と呟いた。

 コルドはルイに視線を送り、


「あれ、全部で二百くらいですかね?」

「あー……そうねぇ、それくらいいるわね」


 ルイはどうでもよさそうに答えた。

 三人がいるのは村から割と離れた場所。敵の姿ははっきりとは見えないが、人型をしていることから、それらが悪鬼だということがわかる。


「でもよかったわ。まだ結界破られてないのね」

「そうなんですか?」

「破られてたら、あんな遠くでちょろちょろしてないわよ。結界があるから、あそこまでしか近付いてないの」

「へぇー」


 シキが感心したように言う。ルイに向き直り、無邪気な顔で尋ねる。


「じゃあさ、どうすんの? 結界が破れるまで待つ――なんて言わないよな?」


 ルイは顎に手を当て、しばらく考えた。


「うーん、そうねぇ……とりあえず敵の数を減らしましょうか」

「あそこまでいくんですか?」


 コルドが聞く。ルイはすまし顔のまま首を横に振り、


「敵があれだけだとは限らないし、これ以上村から離れるのは得策じゃないわ」

「ではどうやって――」

「まぁ任せなさい♪」


 コルドの言葉を遮り、ルイは笑顔で言うと、少し前に進み出て、片膝立ててしゃがみ込んだ。

 不思議そうに二人が見つめる中、ルイは左手をすっと下げ、一瞬で出現した"黒い何か"を素早く肩に担ぐ。

 全長一メートルはある棒状のそれは、人の腕より少し太く、敵に向いた先端だけはゆるく尖らせてあった。


「なにそれ!?」


 シキが驚きの声を上げる。

 ルイはそれを両手で構えたまま楽しそうに答えた。


「あーるぴぃーじぃー。改造してあるから正確には違うけどね。

 ……うるさいから耳はふさいだ方がいいわよ」


 何をするのか分からないが、二人はとりあえず言われた通りに耳をふさぐ。

 ルイはしっかり狙いを定め、引き金を引いた。


 バシュンッ!


 轟音と共に弾が発射され、それは高速で飛んで行って敵の中心あたりに着弾した。派手な音を立てて爆発し、敵の半数以上を吹き飛ばす。

 ルイはふぅっと小さく息を吐き、使用済みの武器を消して立ち上がった。


「す……すっげぇぇ……」


 ルイの後ろで感激の声が上がる。振り向いてみると、キラキラした目で感動しているシキと、ぽかんと驚いている様子のコルドが視界に入った。


「あら、驚いてる暇はないわよ♪」


 ルイはにっこり笑って、まだ半分は残っている敵の方を指差した。


「真ん中あたりに人間っぽいのが見えるでしょ? あれが魔族よ」


 少年二人は目を凝らし、言われた通りの場所に視線を移す。

 赤や黄や青色の肌をした悪鬼達の先頭に、更に小さい何かが動いているのがギリギリ見えた。


「遠くてぜんっぜん見えないけど……あのちっさいのが?」

「そう」


 シキの問いに短く答え、ルイは敵の方に向き直ると、自動式拳銃を右手に出した。


「あんた達も武器構えなさいよ。もうすぐ結界壊されるだろうから」

「いや……なんかさー……俺達いらなかったんじゃね? ルイ一人で十分なんじゃ……」


 おずおずとそう言うと、ルイはややムッとした顔で、


「バカいえ。私だけ戦ってるのに、野郎二人が村で楽してるなんて許せないわ」

「え……それで俺たちを呼んだのか? 戦力が欲しかったからじゃないの?」

「違うわ。ムカつくからよ」


 きっぱりはっきりと言い切った。

 予想外の言い方に、コルドは笑みを引きつらせ、シキは何も考えていないのか、そうだったんだー、と呑気に返す。

 ルイはそんな二人を一瞥し、


「まぁ冗談は置いといて」

「あ。冗談だったんだ……」


 シキがぼそりと呟いて、ルイは急に真顔になった。


「いや、ムカつくからってのは本気。でも、呼んだのはそれが理由じゃない。

 ――私にとってもこういう状況は初めてでね。敵の戦力によっては、私だけじゃ苦しいかなって思って呼んだんだけど……」


 はぁーっと盛大にため息を吐く。途端。


 パキンッ


 ガラスにヒビが入るような音が空から鳴り響き、反射的に仰ぎ見るシキとコルド。

 しかし青い空は何も変わらず、ゆったりと白い雲が流れていくだけだった。


「まさか、一番先に来たのがあんたみたいな小物とはね」


 ルイの声に視線を戻すと、いつの間に現れたのか、少し離れた前方に若い男が立っていた。

 いかにも悪人というような風貌のその男は、悪趣味なデザインの斧を右手に持ち、ルイ達三人を見回すと、にたりと気味の悪い笑みを浮かべた。


「小物とは……言ってくれるじゃねぇか、ガキども」


 見た目に似合う、下卑た口調で言う。


(これが、魔族……)


 男が放つ邪気を感じ取り、コルドは内心で焦りを感じていた。

 ルイは小物だと言ったが、この男は先程まで、まだ遠くにいる悪鬼たちの中にいたのだ。そこから一瞬で移動し、更に、あの爆発を受けたはずなのに怪我を負った様子は無い。それはつまり、あの程度の攻撃ではこの男は倒せない、ということだ。それだけでも、悪鬼のような低級とは格が違うことがわかる。

 コルドはちらりとルイの背中を見て、


(彼女がどのくらい強いのかは知らないけど……。余裕そう……だし、なんとかなるか?)


 一歩、隣に立つシキを庇うように前に出ようとしたコルドは、すぐにぴたりと止まる。

 堂々とした様子のシキが、スタスタとルイの元まで歩み寄ったからだ。

 コルドはシキを呼びとめようとして口を開き、


「このにーちゃん弱いの?」


 シキの無遠慮な問いに、コルドの目が点になった。


(いや、空気読もうよ! 今シリアスだったよね!?)


 コルドは内心でツッコミを入れたが、時すでに遅し。


「弱いわ」


 ルイはさらりとそう答え、


「なんだとこのガキ!?」


 男は怒りをあらわに怒鳴り散らした。

 シキは男の言葉を完全に無視し、


「それって、こいつ下位魔族だってこと?」

「そう。しかもこの程度なら下の下ってとこかしら?

 これならあんた達に来てもらう必要なかったわねー」

「よく強さとかわかるな」

「経験ってやつね。大体でしかわからないけど、結構当たるのよ♪」

「おいこら! 無視すんじゃねぇ!」


 シリアスな空気はどこかに消え去り、三人で好き勝手に言い合っている。

 一人真面目に考えていただけに、コルドは完全に気が抜けてしまった。少し後ろの方にあった、丁度良い高さの石に腰掛け、傍観者を決め込む。

 視界には、こちらに向かって駆け来る大量の悪鬼の姿も入っているのだが、


(あの魔族、自分だけさっさと来て……手下置いてくるとか、アホだな)


 コルドはそう思っただけで、シキ達に教えることもなく、どこか遠くを見るような目でその光景をぼけっと眺めた。


「へぇ、妖魔って実力主義なんだ」

「そうそう。自己中が多いしねー。だから忠誠心とか協力しようって気はないのよ」

「あー……それで悪鬼とか引き連れてんだ。仲間がいないから」

「だーかーらー! 聞けってーの! お前ら!」


 ルイとシキにガン無視された男が、まるで子供のように喚く。

 ルイはうっとうしそうに男を見返し、


「さっきからうっさいわねー……なんで敵であるあんたの話を聞かなきゃなんないのよ」


(正論だ)


 コルドは心の中でツッコミを入れた。

 ルイは呆れたように肩をすくめ、さらに言葉を続ける。


「それに、聞いたところでどうせありきたりなセリフでしょ? 生意気なガキどもめーとか殺してやるぜーとか。定番の脅し文句聞いて、なぁぁにが面白いのよ」


 どうやら図星をつかれたらしく、男は怒りで顔を赤く染め、


「なめやがって……!」


 悔しそうに吐き捨てると、視線は二人に向けたままで、バッと真後ろを指差した。その先には、荒々しい足音を立てながら、こちらに向かって駆け来る大量の悪鬼たち。


「お前ら悪鬼どもに気付いてなかっただろ! 呑気に話してるうちに、すぐそこまで来てんだぜ! あの大群にどう――」

「失礼ね。悪鬼のこともちゃんと見えてるし、忘れてもいないわよ。……というか、こんだけ視界広いんだから、見えてない方がおかしいでしょ」


 男の言葉を遮って、ルイは平然と言い返した。右手で持った銃を器用にくるくる回し、


「ただ単に、片付けるのなんて簡単だからほっといてるだけ。なんなら、もっと呼び集めてもいいわよ? まとめて相手してあげるから」


 ルイはパシッと銃を止め、にやりと笑う。


「ま、暇つぶしにはなるでしょ」


 挑発するようなセリフに、シキはぽかんと口を開け、男は静かにルイを睨んだ。


「暇つぶし……だと?」

「そ。あんたが中位以上だったら、ちょっとは楽しめたんだけど……下位程度だとすぐ倒せるからつまんないのよね」


 言ってルイは、ジャキンッと銃口を男に向けた。


「じゃ、そろそろ始めましょうか。後ろの悪鬼も来たことだし」


 ルイが言った通り、男の少し後ろでは、到達した百近い悪鬼たちが足を止めて待機していた。


「くそがっ! 調子に乗りやがって……

 ――全員かかれ! このガキどもを血祭りに上げろ!」


 ビシッとルイを指差して男が吠えた。悪鬼たちは獣のような雄叫びを上げ、三人に向かって駆け出す。

 シキが慌てて短剣に手をかけ、コルドはやれやれといった感じで腰を上げた。

 刹那――


 カッ!


 眩しい光が辺りを包んだ。


「な、なんだ!?」

「まぶしっ!」

「村の方から……!?」


 男、シキ、コルドが同時に声を上げる。三人は咄嗟に腕で目を庇い、


「あっちゃ~……思ったより早かったなぁー……」


 ルイだけは左手を顔に当ててうなだれた。

 光はすぐにおさまり、恐る恐る目を開けると――

 すぐそこにいたはずの、すべての悪鬼が消えていた。残ったのはシキ達三人と、魔族の男だけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ