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スキル訓練・付与と呪術

お待たせしました。


気付いたらネタがどんどん混ざってってる……

 扉を潜ると、いつもの訓練場でした。

 ここに来るのも3度目。あんまり利用してないかも。


 周囲を見回すと、何故か広場のあちこちに案山子が立っている。麦わら帽子を被った定番の姿から、どう見ても人間にしか見えない——ただし上半身のみ——造形の人形や十字に藁を束ねただけの藁人形まで、様々な姿の案山子が広場いっぱいに乱立してます。

 こう、沢山あると微妙にこわい。しかも全ての案山子が何故かこちらを向いているので余計にこわい。


「ようこそ」

「いらっしゃい」


 え?

 誰も居なかった筈!?


 背後から聞こえてきた声に慌てて振り向くと、そこにはさっきの麦わら帽子の案山子……の腕の上に二人の少女が腰掛けていました。

 歳の頃は十代の前半くらい。白と黒の、いわゆるゴシックアンドロリータに身を包んでいます。白い方は金髪碧眼。黒い方は銀髪紅眼。どちらも人形のように整った容姿です。整いすぎてて可愛いというより美しいと表現する方がしっくりくるかな。

 どちらも無表情なので尚更それが際立っています。


「わたしは教官のルルヤンカ=ボージョ。担当は【付与魔法】」

「私はリリマーナ=ボージョ。担当は【呪術】」


 ふたご?

 黒い方が【付与魔法】のルルヤンカ。

 白い方が【呪術】のリリマーナ。

 色のイメージ的には逆のような気もしますが。



「さあ、始めましょう? 時間は待ってくれないわ」

「無理やり待たせる必要もない。さっさと進めましょう?」


 まるで時間を待たせようと思えば待たせられるような言い回し。そういう魔法か、あるいはスキルでも存在するんだろうか。

 ……ありそうだなー。


「はい。よろしくお願いします」


 だけど、それは置いておこう。どうせ今の私には使えないし、覚える必要性も感じない。

 まずはできる事から始めるのだ。





「始めに、【付与魔法】と【呪術】は名こそ違えど本質的に同じものよ」

「加護を、あるいは呪詛を。自身に、または他者に。影響を与えるという点では変わらないわ」


 確かにステータスを上げる、あるいは下げる。どちらもステータスを変動させる点では同じ効果だ。

 なるほど。某火炎呪文と某氷結呪文の関係と同じようなものかな? 【付与魔法】と【呪術】を合成できたりしたら、ステータス崩壊(ゼロ化)魔法が生まれたり?……ないな。うん、ない。そんな怖い事ある筈がない!


「ただし、それはあくまで基本であり正道」

「習熟し、極めていく過程でまた別の道も見えてくるわ」


 スキル派生?

 スキルを育てていけば、ステータス変動以外の支援、妨害を覚えられるかもしれない、と。

 【巫術】がモロにそれだけど、まあ将来に期待しておきましょう。


「じゃあ、早速実践していきましょう」

「今から私とわたしが貴女に付与と呪を掛けるわ。その感覚を覚えなさい」


 ぱーどぅん?


「えっと、どういう意味ですか?」


 聞き間違い?

 今、「お前に魔法を掛けるからそれを身体に刻み込め」みたいな事を言われたような。

 いや、首を傾げられても。仕草は可愛いらしいな。でもそれとこれとは話が別だ!


「意味が分からないんですが」


「付与も呪も、攻撃を叩きつけるだけの他の魔法とは違う」

「どんな影響をもたらすか知っておく必要があるわ」


 いや、それはそうかもしれませんが。

 何が増えてどう減るのか、どう影響を及ぼすのか知る重要性は理解できますけど。


「それには自身の身体で、精神で覚えるのが早いし、一番よ」

「だから覚えなさい。答えは聞かないわ」


 そう言って、こちらを指差す白黒双子。ちょ、待って!?


「安心しなさい。この訓練場の中では何をしても大丈夫だから」

「死なない、壊れない、狂えない。だから問題ない、わ?」


 なにそれこわい。

 どう考えても最悪の拷問空間じゃないですか!

 しかもなんで最後疑問形!?


 踵を返し、ダッシュで駆け出す。とりあえずあの、頭にプロペラが付いて目玉が飛び出た赤い毛むくじゃらの変な案山子の後ろに……っ!?


「〈プラスウェイト〉」

「〈カーススピード〉」


 突然身体が止まる。

 全身が重くなり、更に腕や足の動きが鈍くなった。これは、重量増加と速度低下!?

 くっ、動け!


 思わずたたらを踏み、無理やり体勢を立て直す。


「急……げ……っ」


 何とか体勢を立て直し、顔を上げると。


「……オワタ」


 正面にある毛むくじゃらの案山子の前に、白黒双子がいつの間か立っています。


「「わたし()からは逃げられないわ」」




 ……タスケテ。






「〈プラスアタック〉」


 突き出した右の掌から白い光が溢れ、私の全身を覆う。


「〈カースディフェンス〉」


 更に左の掌から黒い影のようなモノが飛び、目の前の案山子に纏わり付いた。


「シッ!」


 案山子に近寄り、六尺棒を突く。案山子の土手っ腹を貫き、そのままバラバラに吹き飛ばした。

 ……少し強めに突いただけなんだけどなー。


「よくできました。使用者が強すぎて効果がわかりづらいけど」

「文句なしよ。ほとんど素の威力によるものだけど」


「うぐっ、言わないでください」


 【付与魔法】も【呪術】も初期レベルではステータスをほんの数パーセント上昇、低下させる程度。それに元々そこまで劇的な効果をもたらす魔法でもない。故にこの結果の大半は私の攻撃力が原因なのだ。

 仕方ないじゃないですか!? 私は前衛なんですよ!


「とりあえず、良しとしましょう」

「それぞれの基本は身についたのだし」


「……ありがとうございました」


 拷問紛いではあったけれど、訓練を受けたのは間違いない。

 攻撃力を強化されて、黄金に輝く鉄の全身鎧の案山子を殴らされたり。頭の大きな青い鬼の姿の案山子に移動速度を低下させられた状態で追い回されたり。攻撃力を下げられ防御力を上げられた状態で、奇声を上げながら跳ね回る黄緑色の謎生物な案山子と戦わされたり。

 意味が分からなくとも、訓練には違いないのだ。多分きっと。


 そう思いたい。


「これでお別れね。もう少し楽しみたかったけれど」

「名残惜しいけれど仕方ないわね。遊び足りないけれど」


 勘弁してください!


「御指導ありがとうございました!」


 頭を下げ、急いで扉へと走る。

 これ以上こんな所にいられるか!


「また会いましょう。縁があれば」

「楽しみにしてるわ。再会を」


 ええ、訓練でなければね!

 訓練場にトラウマができそうですよ……







 そういえば、案山子が動いてたのはどういう事なんでしょう?




 ▶︎ ▷ ▶︎ ▷ ▶︎




 冒険者ギルドのホールに戻りました。


「あ、お帰りなさい。訓練はいかがでしたか?」


 ドワーフの受付嬢さんに無言で笑顔を返す。


「あ、あの……」


 訊くな。




「【付与魔法】と【呪術】の訓練は完了ですね。【憑依魔法】は——準備できています。訓練に行かれますか?」


 一息吐いてからでも構いませんが、という受付嬢さんからの気遣いが有り難いです。けれど、この際とっとと済ませたい気分なので、訓練を受けましょう。

 流石にあんなスパルタな訓練はない筈。……多分。





 再び訓練場に出ました。が、今度は草木が生い繁るちょっとした林の中。

 訓練場(ここ)の繋がりがどうなってるのか、ちょっと気になります。どれだけの数があるのか、とかも。


 ふと視線を感じて振り向くと、近くの切り株の上に人が座っています。


「やあ、お待たせ。よく来たね」


 そう言って立ち上がったのはゆったりとした大きめのポンチョを着た狐獣人の女性で、見た目は二足歩行の狐を少し人間に近付けたような容姿をしています。ケモナーと呼ばれる人種が好きそうなお姉さんです。


「私は非常勤で教官を勤めているミトン=ゴーンよ。宜しくね」


 む。この人かなりデキる?

 所作が静かでとても美しい。動き一つ一つが洗練されていて無駄が無いのだ。


「饕餮です。よろしくお願いします」


 これは——期待できそうだ。

【付与魔法】、【呪術】のロックが解除されました。

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