熱き赤きもの
彼方に輝き昇る汝、汝 天の娘を讃えん!
すべてのものに挨拶し、すべてのものを喜ばす
汝の微笑みの愛しき輝きを讃えん!
—— シラー
「どっ——せいっ!」
六尺棒を力いっぱい足下へと突き立てる。
棒の先端から送り込まれた衝撃により甲殻は歪み、ヒビが入った。
「ギギチギッ」
更にもう一発。
お代わりです。
「ギッ……ギ、ギ」
「おっと」
背中の甲殻が砕け散り崩れ落ちるクガニ・マクガンの上から飛び降りる。
着地成功10点満点!
《種族レベルが上がりました! ボーナスポイント5pt獲得しました。ステータスを割り振りして下さい。アビリティ【鬼出電入】を覚醒しました!》
ふー、これで倒したのは銀色のナンジャ・マクガンが6匹。金色のクガニ・マクガンが5匹、と。
巨大ヤシガニたちは大きいし硬いし強い。だけど、巣?である砂浜から現れるのは必ず一匹だけなので、楽といえば楽だ。
見た目通りタフなので討伐までに多少時間も掛かるけれど、それだけとも言える。特殊能力や魔法を持たないし使わないので、対処しやすいのだ。
クガニ・マクガンがその場での旋回で、たまに鋏脚を伸ばして某ロシアンレスラーばりのダブルラリアットを繰り出してきたのは驚いたけど。
当たらなければどうという事はないし。
「次出るとしたら、これでちょうど12匹目?」
さっきので種族レベルが上がったし、その辺で切り上げるかな?
職業レベルは上がらなかったけど、色々スキルのレベルは上がったし、流石に丸一日以上戦い続けてちょっと疲れた。 それに、いい加減カニ以外で他の食材も欲しい所。
にしても、なんか暑いな……
いや、暑い。というか、砂が熱い!
「熱っ!あちちっ!」
なんか、砂浜が急に熱くなってきた!?
あ、革足袋脱ぎっぱなしなの忘れてた!
確かおまるのそばに放りだしてった筈——
「熱っ!?」
振り返った瞬間、背後から猛烈な熱気が襲ってきた。
周囲の気温が一瞬で上昇し、まるで活火山の火口にいるかのように、暑さを通り越した熱さに感じる。
何かが爆発するような轟音が響き渡り、周囲に砂埃が舞った。
「って、あっちぃ!?」
慌てて振り払いながら、おまるのいる場所まで退避する。
足下の砂も熱過ぎて、裸足は辛い!
というか、何これ。火山灰!?
今の砂埃、触れただけでダメージ受けたんですけど!?
革足袋を拾い上げ、履きながら熱気が襲ってきた方向に振り返ると、これまたヤシガニ——マクガンが。
ただ、明らかにこれまでとは別格。
目を惹きつける真赤の甲殻は黄金の線や縁取りに装飾され、空気の揺らぎを身に纏っている。
その二つの単眼も宝石のような揺らめく赤。
前に突き出した二つの鋏は体格に比べて大きく、赤く輝いている——ってアレ、あまりの高熱に発光してるんじゃ?
〔ティーダ・マクガン〕Lv. 4
魔物 アクティブ
地上 地中 ??? ???
わぁお、紫ネームですよ?
しかも、ナンジャ・マクガンやクガニ・マクガンでは見えていた属性が見えない。【解析】仕切れないレベルの格上という事だ。
この巣のボス、って所?
まあ、属性の予想はつくけどね。
マクガンが元々持ってるらしい土属性と、……どう見ても火属性辺りを持ってますよね?
にしても、他のヤシガニみたいにギチギチ鳴かない?
鳴かない方がボスっぽくて格好良いけど。
一応危ないので、おまるは〈夢見る揺籠〉に戻しておく。〈夢見る揺籠〉は基本的に破壊不可だし、死に戻りしてもその場に残していく心配がないので安心だからだ。
ティーダ・マクガンはこちらを見ると、左の鋏を向けてがぱっと開き、6本の脚で地面を踏み締めた。
一瞬、引っ張られるような感覚。
「ヤバッ!?」
開いた鋏の奥に赤い光が見えた——瞬間、横に跳ぶ。
前転しながら見えたのは、鋏から撃ち出された赤い光の柱。
それが砂浜を削り取りながら突き進んでいく。それは遠く離れた巨岩に当たり、消し飛ばすのが見えた。
距離が多少あったのにジリジリと感じた、肌を焼く熱気が今の攻撃の強力さを感じさせる。というか、躱さなかったらあの岩みたいに消し飛んでたよね!?
一瞬引っ張られたような感覚。
おそらく、あれは空気を取り込んでいたんだろう。取り込んだ空気を圧縮し、超高熱を加えて鋏から収束放出する。超高熱の、いわゆる熱線攻撃——
「って、ゲロビっ!?」
放出型の攻撃の中には撃ち出すだけの火炎弾なんかと違って、一定時間攻撃が継続するタイプがある。ティーダ・マクガンの熱線はそのタイプらしく、まだ撃ち出されたままだ。
一定範囲内の空間を攻撃エリアと変えるソレは、相手にすると非常に厄介極まりない。
先月にVR版で十三作目が出た某狩りゲーで、岩山のような竜に何度消し飛ばされたか!
まあ、ゲロビの本来の所以は『口からビーム』だから、鋏から熱線は厳密にはゲロビじゃないんだけど。
ただ、鋏から撃つという事は?
「やっぱりぃいいぃぃぃ!」
鋏を動かし、こちらの方へ薙ぎ払ってきた!
全力ダッシュで左斜め前——ティーダ・マクガンから見て、右側へ走り出す。
自身の身体、特に突き出た頭が邪魔になり、それ以上先には攻撃できない筈だからだ。
「お願いだから、そのまま回転とかはしないでね!?」
まあ、出来ないだろうけど。
撃つ前にしっかり地面を踏み締めてたから、足場を確保していないと使えない攻撃なんだろう。
何とか回避しきり、一息吐く。
予備動作も大きいから、予測回避もしやすい——んだけど。
「ここからどうするかなー……」
ボス級という事は甲殻の強度はおそらくクガニ・マクガンの更に上。
しかも周囲の空気が揺らいでいる所を見ると、熱気を纏ってるぽくてあまり近付きたくないんだよね。
鋏なんて赤熱して淡く発光してるし。触れたらそれこそ蒸発しそうだ。
というか今現在、ゆっくりとではあるけどLPが減っていってるんですが。
ステータスの状態欄を見ると、【酷暑】の状態異常が付いている。……暑過ぎて体力が減っていってるって事?
その原因は明らかにあのマッカチンのせいだ。そこにいるだけで、比較的高めであろう私の異常耐性を抜く程の状態異常を発生させるとは、また凶悪な。
熱線を撃ち切ると、ティーダ・マクガンは大きな攻撃をした技後硬直か、それともクールダウンなのか、ぐったりとして動きを止めた。
今の内に、ポーションを持続と即効の2本を飲んでLPを全快させておく。
時間切れしかけていた〈コンパクカッセイ〉を重ね掛けして効果時間を延ばす。更に〈ナギノミカガミ〉を追加して、状態異常耐性を高めておく。
ステータスを確認すると、【酷暑】は解除されていた。
自然回復を待つか別に治療が必要な【毒】や【麻痺】とは異なり、フィールド影響による状態異常は耐性を高める事で緩和されたり解除される特徴がある。
私の場合は元々の耐性は高いので、〈ナギノミカガミ〉の効果で一気に解除にまで持っていけたようだ。
「これでひとまず、戦闘は可能として」
問題はどう戦うか。
相手は元々がパワーと防御に特化したタイプに、常時発生型の状態異常を伴う特殊攻撃を上乗せした——って隙がないじゃないですか!
近付くと熱気に炙られ、鋏の攻撃を喰らったらおそらく即死。離れているとゲロビが飛んでくる。
相手が疲れるのを待つのも現実的じゃない。どう見てもタフそうだし、〈ナギノミカガミ〉は効果時間こそ長いが、そう何度も掛け続けていられる魔法じゃないから時間稼ぎには向いていないのだ。 巫術はMPの燃費が悪い。MPが尽きれば、再び【酷暑】でLPが削られていき——
「ジリ貧じゃないか……」
相手の防御を抜き、耐久力を短時間で削り落とす程の圧倒的な攻撃力か、熱気を無効化する手段——具体的には水や氷などの属性の魔法が必要だろう。
はっきり言って、どっちも私にはない。
素の筋力はそこまで高くないし、〈イノカミ〉で上乗せされてもクガニ・マクガンですら2時間は掛かったのだ。
その格上であるティーダ・マクガンには何時間掛かる事か。
そして、私はその手の属性魔法や精霊魔法は習得していない。
うん、詰んでるね!
逃げる?
なんか、こうシャクだからナシとして。
「あー、〈ミノカミ〉使って、状態異常を期待する位しかないかな?」
後は〈トラノカミ〉の〈咆哮〉で海に吹っ飛ばすとか?
水蒸気爆発とか起こしそうだし。
「あれ?」
ふと気付くと、ティーダ・マクガンが消えている。
「どこ行った?」
周囲には真っ赤に熱せられた砂埃が舞っている。
地面に潜った?
「アイツは頭蓋骨背負ったヤドカリか!」
地面に意識を集中する。
足に伝わる震動で、地面から来るだろう突き上げは予測できる!……筈。
と、地面に黒い点が見えて。
視界が翳った。
思わず、頭上を見上げる。
「こいつは予想外」
視界が黒から赤に染まり——暗転した。
名前 : 饕餮 / TOUTETU
種族 : 鬼人Lv. 3 → 4
職業 : メイデンLv. 7
称号:
『虎狩り』[特殊]
『危難を凌ぎし者』[特殊]
『戦神の承認者』[特殊]
『悟武臨の友』[特殊]
『戦鬼』[種族]
デスペナルティ【05:00:00】
ステータス
ATK:+7
DEF:+16
MBS:+3
RES:+10
STR:17 → 18【-9】
VIT:12 → 13【-7】[+5]
AGI:13 → 15【-8】
DEX:13 → 14【-7】[+2]
INT:24【-12】
MND:30【-15】
ボーナスポイント:5
使役契約:御丸(種族:ロリポリ)
装備アイテム
・〈紅鋼樹の六尺棒〉
・〈古鉄扇〉×2(二刀流)[装備解除中]
・〈網蚕糸の袖無し服(巫女装束風)〉【半壊】
・〈網蚕糸の袴ズボン(巫女装束風)〉【半壊】
・〈ファーコートドレス『ルプス・コローナ』〉
・〈重金の髪留め〉
・〈跳ね兎の革足袋〉
・〈異界の道具袋〉
イベントアイテム
・〈宝冠の欠片〉×2
種族アビリティ
・【怪力乱神】
・【鬼出電入】 New!
習得魔法
【巫術】Lv. 7
〈ハラエノミソギ〉Lv. 2
〈ナギノミカガミ〉Lv. 2 → 3
〈ミノカミ〉Lv. 1
〈ツクモツキ〉Lv. 3
〈コンパクカッセイ〉Lv. 3
〈トラノカミ〉Lv. 1
〈セイキテンペン〉Lv.1
〈シンキジュンカン〉Lv. 1
〈イノカミ〉Lv. 1 → 2
〈アラミタマ〉
オリジナルアーツ
〈雀撃ち〉Lv. 1
〈竜尾の一振り〉Lv. 1 → 2
所持スキル
【棒術】Lv. 12 →13
【震脚】Lv. 11 →12
【暗器術】 Lv. 5 → 6
【掴み】Lv. 7
【鉄扇術】Lv. 8
【格闘】Lv. 6 → 7
【短剣術】Lv. 1
【細工】Lv. 3
【料理】Lv.1
【テイム】Lv. 2
【鑑定】Lv. 3
【解析】Lv. 5
【伐採】Lv. 1
【舞踊】Lv. 7 → 8
【二刀流】Lv. 2
【パリイ】Lv. 3
【恐怖と魅惑の微笑】 Lv. 2
【ダッシュ】Lv. 3 → 4
【アクロバット】Lv. 4 → 5
【食材への眼力】Lv.1
【暗視】Lv. 2
【言語理解】Lv. 1
【鬼人語】Lv. 1
【神幻語】Lv. 1
【古代魔法言語】Lv. 1
【精霊語】Lv. 1
【魔導言語】Lv. 1
スキルポイント: 16 → 26
お、お待たせ致しまして……申し訳なく……
あえて言いますが、私は某狩りゲーは携帯およびスマホのアプリでしか触った事がございませんので突っ込みはご容赦ください。
ちなみに日中なので〔ティーダ・マクガン〕が現れましたが、夜間なら〔チチ・マクガン〕という銀装飾の青い甲殻のヤシガニが現れます。こっちは冷気を纏っていて、固さはティーダより下ですが代わりに動きが速いです。『○の軛』や『○グ・ハウト』のような地面から氷柱が突き出す特殊攻撃を使ってきます。
はい。どっちにしろ凶悪です。




