うみー!
お久しぶりです。
お待たせして申し訳ございませんm(_ _)m
月のない夜。
草原を駆け抜けていく。
深い夜の闇も、元々夜行性であるロリポリのおまると、暗視スキルを習得している私にとっては、特に問題にはならない。
ここまで、戦闘は無し。
大きな影は見えた段階で避けるように指示していたので、特筆すべきことはないのだ。
ただ、おまるから何度か振動が伝わってきていたし、呻き声のような変な音も聞こえていたので、移動中に何か当たってはいたようだ。
多分、私がまだ見かけていない小型のMOBでもいたのだろう。
私のネームカラーはグリーンのままなので、プレイヤーやNPCではない筈。仮に撥ねてたら、オレンジに変わってる筈だし。
それに、今は殆どのプレイヤーはクホホルグレかウェンディコに固まっている。
初期組はキャンペーンの関係でクホホルグレに移動してあちら周辺での攻略に入っているし、無視して別の所を攻略するような変わり者は——いや、割りと結構いる、かな?
新規組は多分まだウェンディコ周辺からは離れられない。
流石に例外がいたとしても、ここまで来るのはまず無理だ、多分。
道中にはゲイルコヨーテや赤モヒカンみたいなサボテンの亜種、ワイルド・スミドロンなどの強力なアクティブMOBがウロウロしているからだ。
それに、食糧の問題もある。ゴブリン村までの荒野では、食材になりそうなMOBは殆ど出ない。せいぜいランドバッファロー位だけど、あれは中々の強敵だ。
肉食種の肉はだいたいマズい。場合によっては【腹痛】のバッドステータスが付く事もある、らしいからそもそも食用に設定されてないのだろう。
サボテンは種類によってはそこそこ美味しいらしい。特に虹色モヒカンから剥げる虹色サボテンの実はかなりイケるそうだ。ある意味ヤバい状態異常に掛かるらしいけど。
そういえば確か、変な飲み薬が道具袋の中にあったような——?
とりあえず、分からない事はあまり気にしても仕方ないか。
移動を続けましょう。
時折休憩を挟みながら、移動を続ける。
空が薄っすらと白み出し、やがて太陽が昇って、完全に蒼く染まった頃。
私とおまるの眼前ではまたも大地が途切れていた。
「また崖?」
進んでみると、今度はあまり高く無いようだ。
いや、そんな事はどうでもいいか。その先に見えているものが問題だ。
遠く1キロほど先に見えている揺らめく青。
「おお……」
あれは、海だ!
「おまる、おまる! 行くよ、海だよ海!」
ここ数年、海に行けてないんだよね。近くに住んでるのにさ。
泳げる所が限られてる上に、夏はいっつも芋洗い状態。
プールでも良いんだけど、風情がね? 遠出も、渋滞とか乗車率180%とか、普段は無いような状態に突入してるしなぁ。
あ、泳ごうにも水着がないか。
流石に全裸は駄目だし……というか、いくらVRとはいえリアル準拠のアバターで、はしたない真似はしたくない。
着衣水泳?
出来るけどさ、服がベタベタするから嫌だ。もしかしたら、リアルみたいにベタベタしないのかもしれないけど。
なんか嫌。
このゲームの事だから、嫌な予感もするんだよね。水着には水中補正有りで、通常装備だとペナルティとか。
うーん。
まあ、泳ぐのはいいか。
今回の目的は海産物の食材だし。
おまるは相変わらず崖にトラウマが残っているようなので、一度戻して。
「ショートカット、と!」
再度呼び出し、上に跨がって。
「さぁ行くよ、おまる!」
移動再開。
貝だ海老だお魚だ!
「おおー」
見渡す限りの白い砂浜。
どこまでも広がる青い海。
照りつける太陽も、この光景の前では気にならない。
泳ぐ事は出来ないけれど。
せめて波の感触だけでも感じたい。
いや、味わおう。
楽しむのだ!
おまるから飛び降り、革足袋を脱ぎ捨てて、海に向けて駆け出す。
砂浜に入る。
「あち、あちち!」
砂が焼けてて熱い!
でも、走る!
あと、少しで波打ち際——
「ギギッチュ!」
の手前で、視界が蒼一色に。
え?
意識を戻すと、どうやら下から何かに上空へ吹っ飛ばされたようだ。
「な、なに!?」
咄嗟ながら体勢を整え、吹き飛ばされた下を見る。
「……蟹?」
着地してから、バックステップ。
「おまるは安全な場所に待機!」
初見の相手だから、ここは慎重に行こう。
いや、蟹にしてはなにか形がおかしいな?
サイズがおかしいのは今更として。
ハサミはかなり大きくて私の頭位はありそう。まるでハンマーだ。
横から生えている脚は6本。
頭は先が細く伸びていて、どことなくスマートな印象を受ける。
体の下に隠すようにした平べったい腹部が見えるけど、蟹にはあんなお腹はなかったよね?
どちらかと言うとヤドカリに近い?
つか、それよりも銀色の甲殻が太陽光を反射してピカピカしてて、すっごく眩しいんですけど!
〔ナンジャ・マクガン〕Lv.3
魔物 アクティブ
地上 地中 土属性
な、何じゃま?
種類がいまいちよく分からないけど、蟹とかヤドカリとか、とりあえず甲殻類なのは間違いない。
デカいしゴツい、見た目はまるで戦車だ。
というかですね。
今、私は海に向かって走ってた訳ですよ。
それをこいつ、邪魔したんですよね?
「ギ、ギ、ギギチュ!?」
うん。
許すまじ!
こいつ、割と強いです。
見た目通り、甲殻は硬い。六尺棒で叩いた印象は蜘蛛以上。
パワーもある。ハサミが叩きつけられた砂は飛沫を上げて吹き飛び、巨大なクレーターが出来ている。
スピード——も、それなりにある。移動速度はさほど速くないけれど、旋回速度か異様に速い。その為、なかなか側面や背後が取れないのだ。
なんて言ったっけ。戦車がその場で回転するやつ。
右肢は前に、左肢は後ろに動かす事で、おかしな速度で振り向いてくる。なんだその高等技術。
しかし、硬い。
叩いたり、突いてみた感触はまるで弾力がある金属板のよう。破壊や突破はかなり大変そうだ。
「奉納致しますは供物の贄。請うて願うは十二の獣神たる威の神の。禍事祓いし神通力。かしこみかしこみ申します」
だけど、そんな相手にこそ向いているだろう魔法——巫術を、私は既に手に入れている。
「求み宿るは衝圧たる威力。唸り轟き震わせ砕け。猪の神たる御身の神威。——顕現せよ! 巫術〈イノカミ〉!」
ごっそりと削られたMPの代わりに得るのは強烈な筋力ブーストと、敵の防御を突き抜ける衝撃属性の付与。
この戦車みたいな甲殻類には最適な効果だろう。
現に、六尺棒を叩き付けると、まるで空き缶を押し潰したような音と共に甲殻がベコリと凹む。
【怪力乱神】程ではないものの、劇的に上昇した筋力と、その威力を周囲と内部に伝播させて破壊する衝撃属性効果。これはもはや物理防御に特化した相手にとっては天敵だ。
「ギ、ギ——!」
ちなみに供物はゴブリン村で仕入れていたキノコ類だったりする。
猪、豚、トリュフ、キノコという安直な連想だったのだけど、咄嗟の思い付きの割には上手く行って良かった。
さて、そちらにアドバンテージはもはやない。
「これから始めるのは戦いじゃない。……処刑だよ?」
あ、素材残してね?
いやー、ホックホクです。
〈白銀椰子蟹の甲殻〉
〈白銀椰子蟹の鋏脚〉
〈白銀椰子蟹の蟹味噌〉
他にも脚肉が複数剥げてるし、久しぶりに沢山獲れてます。
今日の幸運度は絶好調なご様子です!
というか、あれヤシガニだったの?
確か、沖縄にいる日本最大の蟹だっけ。
私は沖縄には行った事ないから、あまりよく分からないんだけ——
「ギ、ギッチュー!!」
突如、背後から何かが吹き飛ぶような爆発音が響き、周囲に砂埃が舞う。
うん、いや、これはアレだよね?
振り返ると、今度は黄金に輝く更に巨大なヤシガニが。
〔クガニ・マクガン〕Lv. 5
魔物 アクティブ
地上 ??? ???
なるほど。
ここはこいつらヤシガニの巣なんですね。分かります。
いいさ。来いよ。駆逐してやんよ!
ステータスに大きな変更は無し。
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