人は己が同類はすぐに見抜く
火花舞い散る百花繚乱。
鋼のように硬い樹から削り出された棒と、鍛えに鍛えられた鋼鉄の刃が幾度も交差し、ぶつかりあう。
棒と刃がぶつかり、噛み合った。激しい金属音を響かせ、火花を散らす。
一瞬の力の均衡から動きが止まり、すぐに互いの軌道を逸らし合いながら、最後には弾き合って、離れた。
反りのある鋭い刃を備えた太刀を構えるは、悟りてもなお武に臨む亜人の女性。
東方由来の戦装束を身に纏い、ヒトすら魅了する程に美しい容貌を備えて、刃と同じく鋭い眼光を向けている。
対するは、紅き棒を構える幼い容姿の鬼人の娘。
不死者かと錯覚する程に肌は青白く。巫女装束によく似た異装を纏い、静かなようにも思える程に冷徹な視線と共に棒端を突き出している。
共通するのは、鬼の血を引くという事と武を振るう者である事のみ。
種族も由来も職も、何もかも異なる二人。
いや、もう一つ。共通している事があった。
——笑っている。
凄絶なまでの笑みを、互いに浮かべていた。それも唯の笑いではない。
充足と昂揚から来る、凡夫には到底理解し切れぬであろう愉悦の笑い。
最初に武器を交えた時、二人は互いに理解した。
アレは同類だ——と。
何よりも、何者よりも、強く。強く!
武に生き、武を望み、武に果てる。
理屈でもなく、感情でもなく。本能が、あるいは魂から生じる衝動が、抱えたその身の内で叫んでいる。
仮に戦いにより命も含めて全てを捨てる事になっても、『仕方ない』の一言である程度割り切れるような、明らかに歪な精神性。
自身と同じソレを、相手に見出した。
まるで双子か、鏡に映したかのような心の相似。
そのような相手がいる事、出会えた悦びに、二人は武器を交える度に笑顔となっていったのである。
「——次で決める」
「それは此方の台詞」
亜人の兵は、太刀を振り上げ、大上段に構えた。
「あ、姉上……!」
鬼人の巫女は、棒を中段に構えて、強く握り込む。
「饕餮殿……!」
「キェエェェイッ!!」
亜人は神速の摺り足にて前に踏み込み、躊躇する事なく太刀を振り下ろし。
「シッ!」
鬼人は地を揺るがさんとする程の踏み付けにて前へ飛び出し、棒を抉り込むように容赦なく突きだして。
——二つの武器が、交差する。
「こんなの、絶対におかしいでござるよ!?」
いやー、まさか同類さんに出会えるとは思わなかった。しかもゲームで。
「ぬぬぬ。まさか相討ちとは」
先程血闘……じゃないや、決闘をした相手が地面に正座しながら唸っている。
その横で同じく正座している私としては、全力全開でぶつかり合えただけでも満足だったんですが。
あ、このゴブリンと呼ぶ事にいささか違和感を覚える程のすごい美人の女性は、『葵』さん。
芙蓉ちゃんの実のお姉さんで、実力的にはゴブリンの聞の氏族では三番目に位置するという凄腕の兵だ。
「しかし、やはり思っていたように強いな、巫女殿は」
芙蓉ちゃんの紹介から挨拶を交わし、すぐに互いに武器を構え、鍛錬場に移動してから戦いを始めた。やはり同類であるが故に意識が昂揚して、最終的には相討ちと相成りました。
葵さんの太刀は私の左肩から心臓まで一息に切り裂き、私の棒は葵さんの喉笛を思い切りよく打ち砕いて。
あ、決闘は『あの戦神』への請願で決闘フィールドが形成されていたので、命に別状はありません。
それこそ、塵すら残さず焼き尽くされても、戦いが終われば問題無いのが決闘フィールドなので。
「姉上! 饕餮殿! まだ話は終わってないでござる!」
ごめんなさい。
はい。只今絶賛進行中で二人して芙蓉ちゃんに怒られています。
芙蓉ちゃんの制止を無視してぶつかりあった訳ですし。仕方ないといえば、仕方ないです?
二時間程お説教されてからようやく解放されました。
……疲れた。
では、改めてゴブリンの村の中を案内して貰う事に。
あ、葵さんは長の主水さんへのゴブリン流折檻……いえ、サポートのお仕事があるそうなので、お別れです。名残惜しいですが。
「うむ。崖から鉄網で縛って三日程逆さに吊るすのだ。だいたいそれで反省するが、していなければよく回した上で更に三日程吊るす。長はしぶとい上になかなか反省せぬから困りものだ」
それ、折檻というより拷問じゃあ……?
いえ、何でもありません。
「では、芙蓉ちゃん。次は市場?へお願いします」
「し、承知でござる」
触らぬ神に何とやら。さあ、行きましょう。
「賑やかですねー」
いくつもの露店、屋台が建ち、人々は忙しなく商いを交わしている。
ゴブリンだけじゃなく、やたら美形でムッキムキな偉丈夫や直立した犬みたいな人?もいるけど。
「あの大柄なのはオーク、毛がふっさふさなのがコボルトでござる」
あれが……オークというには美形すぎるような、ってオークはエルフとダークエルフが起源なんでしたっけ。なら納得。
で、もふもふ好きが狂喜乱舞しそうなのがコボルト、と。
どうやら、このゴブリンの村は位置的には、市場を開いて他の種族の人達も利用するにはちょうどいい所にあるらしい。
その為、コボルト商人や周辺に住むオークなど、多くの人達が集まるとのこと。
馬車の荷台をそのまま屋台にしたり、茣蓙を広げただけの露店なんかも多いけど、独特な雰囲気ができている。
私も参加するとしましょうか。
「ちくしょー! おととい来やがれさ!」
この周辺にはいない魔物の素材を対価に、商談してみた。
つい張り切りすぎて、ケツの毛を毟る位に——失礼。交渉を頑張ってみました。
瑪瑙に翡翠に琥珀にスピネル。沢山の原石でほっくほくですよ!
ウェンディコに戻ったら、久しぶりにアクセサリー作ってみますか。
「あ、これオマケに下さい」
「いや、嬢ちゃん。そろそろ勘弁してくれ……」
えー。
「もう無理、って相手が降参してからがむしろ本番ですよ。バリバリ行きますよー」
「やめて!?」
いやー、楽しいなー。
「やはり、鬼でござる……」
《戦闘の結果、特殊称号『悟武臨の友』を取得しました!》
戦闘シーンのイメージは悪魔狩りの最終決戦のアレです。




