間違いの在処と償いの仕方
さあ、今日も頑張りますよー。
明日はプレイできそうもないし、バリバリ行こう!
ん? なんかインフォメーション来てる?
《 5件のメッセージを受信しています》
メッセージ?
あ、あー。リボるんからのがあったっけ。うわ、4件も来てる……
最初の2件は『魔獣の森』にいた時で、後はログアウト中の受信か。
うう、怖いけどとりあえず見てみよう。
1件目。
《お嬢へ。ログインしたぞ。今どこに居るんだ?》
2件目。
《おい、ソロで『魔獣の森』に行ったとか聞いたんだが》
3件目。
《スルーか。ソロもプレイスタイルの一つだから別に怒る気はないんだが。
まあ、いい。俺は元のパーティーに合流するから、そっちはそっちで頑張れ》
4件目。これは3件目のすぐ後。
《あ、無茶はすんなよ? ——できるだけ。
ソロも良いが、フレンドやパーティーでの狩りも楽しみの一つだからなー》
ふぅ、どうやらお説教は免れたみたい。
まあ、私もリボるんもライトとヘビーという差こそあれ、根っからのゲーマーだし。
特に私は寄り道とか無駄クエストとかしながらマイペースに進めていくタイプだから、最前線でガンガン行くタイプのリボるんとは方向性がちょっと違うしね。
最後の1件は……運営?
《饕餮様へ。
先日の決闘での対応について、こちらの不手際によりご不快な思いを与えてしまい、誠に申し訳ありませんでした。ついてはお詫びと共にお話ししたい事がございます。
御予定がよろしい時で結構ですので、特別なエリアにてお話しさせていただきたく思います。
お話し頂ける際はこちらの魔法陣をタッチお願いします》
決闘?
あ、ああ!
ドッガンダーとの事か!
不手際ってなんだろ?
お詫びって言うのも、よく分からないし……
まあ、いいや。
どうせ、デスペナルティ中で買い物とか位しか出来ないし。
しかし、ボタンとかアドレスとかじゃなくて魔法陣で移動とか、凝ってるなー。
では、ポチっとな。
ん? 転移した?
って、ここは……?
周りを見回すと、どこまでも高い蒼穹と、どこまでも続く色とりどりに咲き誇る花々の絨毯。
陽光は暖かく、吹く風がどこか心地よい。時折香る匂いは甘く、心を落ち着かせていくよう。
「ここで寝っ転がっていたいなぁ……」
我慢するけど。
転移してから、30秒程して。
リーンという鈴の音が、空から響いて来た。
少し強い風が吹いた。
「わぷ」
たくさんの花と花弁が舞い、空に昇っていく。
幻想的で、言葉が出ないくらい綺麗な風景——
「お待たせ致しました」
聞き覚えのあるその声に目線を前に戻す。
ビジネススーツに身を纏った、二人の男女。
周囲の美しい風景に似合わないなぁ。
この二人は恐らく、NPC達からは『創造神の眷属』、『御使い』と呼ばれるこのゲームの管理者——GMだろう。
二人……片方の、脇に控えている女性の顔はなんとなく覚えてる。
前に会った、カノ、カノー……プルさん?
もう一人は男性だ。
髪はオールバックに。顔の造形は良いが、眼は睨み付けるように鋭い。
この男性に見覚えは——
ある。
「加賀野 宗四郎……」
「おや、私の名前をご存知でしたか。これはお恥ずかしい」
加賀野宗四郎。
それまで大型筐体で、かつ一人用でしか運用出来なかったVR筐体を小型化し、大規模同時接続を可能とする新しい通信技術とサーバーを開発した若き天才。VR技術黎明の父。
VRゲーマーで知らない人はまずいない。
なんで、こんな有名人が……
「自己紹介がまだでしたね。株式会社マヨヒガ、VRコンテンツ事業部『Fantasy Roots Online』統括部長、加賀野 宗四郎と申します」
「同じく。株式会社マヨヒガ、VRコンテンツ事業部『Fantasy Roots Online』運営部、マネジメントチーム副リーダー、麻生 神楽です」
うわぁ、加賀野氏もだけど、カノールス?さんも思ったより偉いさんですよ?
な、なんでこんな人たちが。
「は、初めまして! わ、私は鉄 桐子です。と、饕餮という名前で巫女さんやってます!」
あ、ああ、緊張してきた。っていうか、テンパってきた!?
「落ち着いて下さい。こちらはアカウント情報で把握しているので自己紹介は大丈夫です。ですが、御丁寧にありがとうございます」
そう言うと、お辞儀をしてこられた。
ああ、この人良い人だ。
雰囲気で分かる。目付きで損してるタイプだ。
「色々お話ししたい事はあるのですが、お時間は大丈夫ですか?」
「は、はい! 今、デスペナルティ中なので!」
「それは失礼致しました。では、ひとまずこちらへ」
加賀野氏がパチンと指を弾く。
と、私たちの間に白い丸テーブルと三脚の椅子がどこからか現れた。
「どうぞ、お掛け下さい」
「は、はい」
勧められるがままに椅子に腰を下ろす。
「我々も、宜しいですか?」
「ど、どうぞ」
き、訊かないで下さい。
「では、失礼します」
お二人も椅子に座り、こちらを見る。
駄目だ。少し落ち着こう。
深呼吸をして。
「では、お話しさせて頂いて宜しいですか?」
——精神を凪いで。
「はい」
これも戦いだと意識すれば良い。
それだけで、私は自分を取り戻す。
「今回はこちらの不手際について、お詫びに上がりました。——誠に申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんでした」
椅子から立ち上がり、深く頭を下げるお二人。
「よく、分かりませんが……何か問題でもあったのでしょうか」
うん。いくら考えても分からない。
決闘については戦っちゃった私たちが悪いし。
とりあえず。
「お座り下さい」
「失礼します」
加賀野氏は私と目を合わすと、今回の事情について話し始めた。
「まず、決闘——PvP出来ない筈の中央広場で、決闘が承認されてしまった事です。これはPvPなどを管理するAIの暴走なのですが、システム上の理由から暴走したAIの権限を一時的に引き上げていた為、決闘の承認が強行されてしまいました。
我々がこの事態を把握したのは別の業務を管理しているAIからの緊急報告です。その確認をしている間に決闘は進み、我々は後手に回ってしまいました」
「饕餮様とドッガンダー様、お二人は本来システム的に出来ない筈の決闘を行ってしまった為、受ける筈もないペナルティクエストを受けてしまった。
これは明らかに、こちらの不手際です」
ん、んー?
……確かに、そうとも言える、のかな?
出来ないなら出来ないで、出来る場所に移動するか、言い争い程度で終わったかもしれないし。
「また、こちらの——麻生の対応も良くありませんでした。
先程お話ししたように、お二人は『出来ない筈の』決闘が『出来た』から行っただけ。非は我々の側にあり、お二人にはございません。
であるにも関わらず、お二人にそれぞれ非があったかのように諭し、ペナルティクエストの執行を見逃しまてしまいました。
これは、プレイヤーに心地よくゲームを楽しんでいただく手助けをすべき、GMにあるまじき対応です」
「誠に申し訳ありませんでした」
加賀野氏の言葉に合わせ、麻生さんが三度頭を下げた。
「お恥ずかしながら、私が今回の事態を把握するのは翌日になってからでした。
詳細な確認が取れるまで時間が掛かってしまい、結果として説明と謝罪が遅れてしまった事も、謹んでお詫び致します」
「現在はシステム全体を見直し、決闘禁止エリアなど制限すべき部分を強化しており、今後はこのような事が無いように致します」
うーん……
「なるほど、仰ってる事は分かりました」
「今回はお詫びとして、饕餮様にこ——」
「要りません」
にっこり笑顔でお断り。
お詫びになんかくれる、って言うんでしょ。
要りませんよ?
お二人して、そんな驚いた表情なさらなくても。
「私は私で、間違いはありました。その罰としてペナルティクエストを受けた、と思っています。
そちらの事情は分かりましたが、お詫びを形として受け取るつもりは御座いません」
「あ、いや、しかし」
もう一度にっこり。
私はよく笑うとズルいと言われるんだよね。なんでか、相手は何も言えなくなるかららしい。
……別にこわいからじゃないよ?
「分かりました」
「部長!?」
「饕餮様の前にドッガンダー様にもお話しさせて頂いたのですが、同様にお断れました。
まさかお二人ともに、とは……」
ほほぅ、あいつやるじゃん。
「では、せめてペナルティ称号である『ウェンディコの問題児』だけでも外させていただけませんか?
こちらの不手際の結果で、NPCへの影響がある称号を付いたまま、というのはこちらとしても心苦しいものがございます。
こちらについてはドッガンダー様にもご了承頂いてるのですが……」
まあ、確かに屋台のNPCのおっちゃんたちから、たまにとはいえ「よぉ! 問題児!」って呼ばれるのは……
「分かりました。では、その称号の取り消しだけ、お願いします」
「ありがとうございます」
「冷静で寛容なご対応、誠にありがとうございました。もし幻滅なさっておられなければ、今後もこのゲームをお楽しみ頂ければ幸いです」
また、お二人がお辞儀を。
目上の方に頭を下げられるのは心苦しいなぁ。
これが痴漢とか暴れてる不良なら足で頭抑えつけて土下……いやいや、変な事考えるのはやめとこう。
ここはお互いに気持ち良く終わっておくべきだ。
「では、失礼致します」
お辞儀をしてから、花畑に描かれた退出用だという魔法陣の上に立つ。
一瞬、視界が暗転。
戻ってきた?
周りを見回すと、クリーム色の土壁が。
宿屋の、借りた部屋の中だ。
「……疲れたー」
ベッドの上に倒れるように寝っ転がる。
今はなーんにもしたくないし、考えたくもないや。
「うん」
寝よう……
色々考え悩みましたが、この流れに致しました。
今回に関しては、全面的な謝罪と思って下さい。これについては、運営の社長も承知しています。
ただ、運営側にも、明かしていない事情はあります。
ですが、プレイヤーには関係のない、理由にならない内容である為、明かしませんでした。
また、主人公も決闘を承諾した非は感じている為、補償などを断りました。
ここで受け取るような要領の良さは彼女にはありませんから。
謝罪の仕方や敬語丁寧語その他、話の進め方などについておかしな点が御座いましたら、それは作者である私の完全な未熟です。
申し訳ありません。
※7/8 本文、文章のおかしい部分を修正




