決着
どうぞ。
視界が赤い焔に包まれた。
全身に、衝撃と共に無数の刺すような小さな痛みが走る。
——熱い!
「くぁ……っ!」
纏わり付く焔を振り払いながら、大きく後ろへ跳ぶ。
「一体、何が……!?」
焔が来た頭上に見上げると、女王蜘蛛が宙に浮かんでいた。
頭上を覆っている蜘蛛糸のドームから糸で吊り下がっているらしく、逆さまになった状態でこちらを見ている。
その両腕の爪の先には真っ赤な二つの焔の塊が浮かんで——
「やっば!?」
「キュあアァっ!」
——ぶん投げてきた!
慌ててバックステップし、更に横に跳躍する。
地面に着弾した焔の塊は一気に膨れ上がり、激しく燃え上がった。
「あれを喰らったのか!」
女王蜘蛛をよく見ると、口元がブツブツを呟くように小刻みに動いている。
って、おい!
「詠唱!?」
女王蜘蛛の爪の先に小さな焔が生まれる。
それはどんどん膨んでいき、拳大の焔の塊に変わった。
おいおいおいぃぃ……!
「魔法使えるの!?」
再びぶん投げてきた焔をなんとか回避する。
が、退避方向をミスって、一発避け損ねてしまった。
着弾による爆発に巻き込まれる。
「熱っ!」
焔を振り払いながらその場から退避。
残りLPを確認する。
——あれ?
思ったより、ダメージは少ないような?
LPのゲージを見ると、現状5割強といった所。
直撃弾も含めて2発も貰ってる割りに、予想よりダメージが少ない。
「なんで——あ、そっか」
これ、魔法だっけ。
なら、MNDが高い程ダメージは減衰されるから、そのお陰か。
私の現在のMNDは26。
どちらかというと物理寄りの種族である鬼人でありながら、魔法寄りの種族であるフェアリーやエルフの同レベルのそれに匹敵する数値を得ている。
恐らく、職業の巫女が持つ特性の一つが、魔法や状態異常に対する高い耐性なのだろう。
有り難い事に、今それが活かされた訳だ。
しかし、油断した!
まさか、魔法を使うなんて。
いや、あの黄金鹿のように上位の魔物なら、魔法や特殊な能力を使えるのは知ってたけど。
ナッツスピナーの変異種という事で、魔法の有無は完全に度外視してたよ。
まあ、救いは、元々は魔法を使わない——使えない?種だから、魔法の威力もそんなに高くない点か。
「キュい?」
思ったより、ダメージが無いのが不思議なのだろう。女王蜘蛛は魔法の詠唱を忘れて小首を傾げた。
その仕草には余裕が見えた。
普通に空中の敵を攻撃できる者が少ないからだろう。
——油断したな?
ステップで倒木の上を跳び、走りながら周囲を旋回する。
女王蜘蛛はまた詠唱を始めた。
魔法の焔を生み出し、投げ飛ばしはじめる。
が、着弾する頃には私は既にその場にはいない。
女王蜘蛛自体の照準速度、魔法の焔自体の移動速度が遅い。
それなりのスピードで走り回っていれば、まず当たらない事に私はようやくだけど気付いたのだ。
まあ、落ち着いて距離を取れば、見てからでも躱せるけど。
そして断言しよう! こいつは馬鹿だ!
さっきから同じペースで回っているのに、進路を予測した偏差射撃をする素振りを全く見せない。いや、見せられたら逆に困るんだけど。
まあ、狂乱状態なんだから、そんな器用な真似は無理だよね!
さて、そろそろ反撃と行きますか。
女王蜘蛛に走って近づき、六尺棒の先端を倒木に突き立てる。
土台の強度は一瞬持てばいい。
突き立てたままに走り、六尺棒をしならせてジャンプ。
六尺棒に体重を預け、ぐぐっと身体が持ち上がるのを感じながら、空中へと飛び上がった。
「キ!?」
棒って奴が、突くばかりが能じゃないってことを教えてやる!
そのまま飛び上がり、逆さまの顔面に飛び蹴りを叩き込む。
「ギュぁっ!?」
宙返りをして、体勢を整え。
女王蜘蛛は空中に跳ね上がりながらも、両腕の爪のない所で器用に顔を抑えている。
その脚を引っ掴み、重力に身を任せる。
「さあ、地上へ戻りましょうか?」
増えた重量と強い勢いで、糸が千切れた。
「ギ、きギ!?」
空中で上下を入れ替え、右腕の関節を固めながら延髄に肘を当てて地上に落下。倒木を二、三本へし折り、地面まで叩き付けさせる。
「ギひっ!」
すぐさま背中から飛び降り、距離を取る。
六尺棒は……見つからないから後回し。
腰の後ろから鉄扇を引き抜く。
決めるなら、今しかない!
「【怪力乱神】!」
体力がごっそりと減っていく感覚と共に、全身に別の力が代わりに漲っていくのが分かる。
これが、鬼人のアビリティ!
「さぁ、決着付けようか!」
跳躍し、女王蜘蛛に飛び掛かった。
ピコーン!
《【棒術】のレベルが上がりました!》
《【鉄扇術】のレベルが上がりました!》
《【格闘】のレベルが上がりました!》
《【ダッシュ】のレベルが上がりました!》
《【恐怖と魅惑の微笑】 のレベルが上がりました!〉
《【アクロバット】のレベルが上がりました!》
《職業レベルが上がりました! ボーナスポイント2pt獲得しました。ステータスに割り振りして下さい。【巫術】〈イノカミ〉を習得しました!》
《イベントアイテム『宝冠の欠片』を手に入れました!》
くふっ……ぉっ……
まさか、あんなに時間が掛かるとは……
女王蜘蛛からドロップを剥ぎ取り、放り出した六尺棒を探して回収する。
そして、ばたりと倒木の上に倒れ伏した。
後半、基本的な戦い方はナッツスピナーと似たような展開だった。
攻撃、移動手段を奪う——腕や脚をへし折り、それで殴ったり突き刺したりしながら、ダメージを蓄積させていく。人形じみているというか、異形というか、なんにせよ人間の見た目をした顔が苦痛に歪むのは、なかなか良い気分じゃないな。
トドメは人間部分である頭の首を掴み、首を握り潰しながら捻じ折った。
……うん、あんまり良い感覚じゃない。でも、これはゲームだし、仕方ないか。
しっかし、危なかった。
あと少しで【怪力乱神】が切れそうだったし。他のバフは切れてて、掛け直す暇はなかった。もし【怪力乱神】が切れていたら、押し切れずに負けていたかもしれない。
《運命は定まった》
《選択は成された》
《答えは示された》
《鍵は心の内にこそ——》
インフォメーションは終わった、かな?
空間の歪みが消え、世界が元に戻った。
しかし結局なんだったんだろ、これ。
イベント?
『宝冠の欠片』を持ってて、『宝冠の欠片』持ちのボスとかに遭遇すると起きるとか?
ま、検証はだれかにのんびりして貰って、と。
しばらくして、体力が回復したらセーフティエリアに戻ろうかな。
「ん?」
倒木に寝そべっている顔に、影が差した。
首だけ動かし、上を見上げてみる。
「……やぁ」
「グルゥ」
こんにちは。
ご機嫌いかが?
「ガァ」
相手が右腕を振り上げた。
あ、ちょっと待っ——!
名前 : 饕餮 / TOUTETU
種族 : 鬼人Lv. 3
職業 : メイデンLv. 5 → 6
称号:
『虎狩り』[特殊]
『危難を凌ぎし者』[特殊]
『ウェンディコの問題児 』[特殊]
『戦神の承認者』[特殊]
『戦鬼』[種族]
デスペナルティ【05:00:00】
ステータス
ATK:+5
DEF:+16
MBS:+0
RES:+10
STR:15【-8】
VIT:11[+5]【-6】
AGI:13【-7】
DEX:13 [+2]【-7】
INT:21 → 23【-12】
MND:26 →27【-14】
ボーナスポイント:2
使役契約:御丸(種族:ロリポリ)
装備アイテム
・〈紅鋼樹の六尺棒〉[装備解除中]
・〈古鉄扇〉
・〈網蚕糸の袖無し服(巫女装束風)〉
・〈網蚕糸の袴ズボン(巫女装束風)〉
・〈ファーコートドレス『ルプス・コローナ』〉
・〈重金の髪留め〉
・〈跳ね兎の革足袋〉
・〈異界の道具袋〉
イベントアイテム
・〈宝冠の欠片〉×2
種族アビリティ
・【怪力乱神】
習得魔法
【巫術】Lv. 5 → 6
〈ハラエノミソギ〉Lv. 2
〈ナギノミカガミ〉Lv. 2
〈ミノカミ〉Lv. 1
〈ツクモツキ〉Lv. 3
〈コンパクカッセイ〉Lv. 2
〈トラノカミ〉Lv. 1
〈セイキテンペン〉Lv.1
〈シンキジュンカン〉Lv. 1
〈イノカミ〉New!
オリジナルアーツ
〈雀撃ち〉Lv. 1
〈竜尾の一振り〉Lv. 1
所持スキル
【棒術】Lv. 11 → 12
【震脚】Lv. 11
【舞踊】Lv. 7
【暗器術】 Lv. 5
【掴み】Lv. 5
【恐怖と魅惑の微笑】 Lv. 1 → 2
【細工】Lv. 3
【鑑定】Lv. 2
【解析】Lv. 4
【暗視】Lv. 2
【言語理解】Lv. 1
【鬼人語】Lv. 1
【神幻語】Lv. 1
【古代魔法言語】Lv. 1
【精霊語】Lv. 1
【魔導言語】Lv. 1
【ダッシュ】Lv. 2 → 3
【テイム】Lv. 1
【鉄扇術】Lv. 5 → 6
【パリイ】Lv. 2
【二刀流】Lv. 1
【アクロバット】Lv. 2 → 3
【格闘】Lv. 2 → 3
スキルポイント: 15
※後書き、デスペナルティによるステータスマイナス効果の記載漏れを修正orz




