死闘
生は死線を越えた先にこそ
「〈ツクモツキ〉! 〈コンパ——あぶなっ!?」
「ガァアアッ!」
バフってたら、突っ込んできたぁ!?
振りかぶってきた右腕をバックステップで回避!
「ぁぐっ!?」
——しきれず、カスって吹っ飛ばされた。
後方の樹に叩きつけられ、息が詰まる。
「ったぁ……って、やば!」
追撃に走りながら振りかぶられた左腕を躱し、距離を取る。
くのぅ……いわゆる変身途中に攻めるのは、当然の戦略だけどさ!
ボスがやんなよ!?
「〈コンパクカッセイ〉!」
中断されたステータス強化を再度実行。
くっ……使用して発動前にキャンセルになったから、MPが無駄に減った!
コートドレスのデメリット効果で、元々キツいMPの燃費が更にキツくなってるってのに!
ゲージを確認すると、LPはほぼ半分。MPは3割程。
『紅蓮堂』で仕入れておいた即効ポーションを3つも使い、一気にLPを回復させる。
【錬金術】のスキルレベルが上がる事で作れるようになるという即効ポーションは、持続回復である普通のポーションと比べてすぐに回復できるけど、連続使用しすぎると身体系状態異常である『酩酊』が高確率で発動するリスクがある。
私は元々高いMNDと装備の補正で上がっているVITのお陰で、多少はリスクを軽減できるらしいけど……
「次はキツいかも?」
全快はしたけど。
戦闘中の間に4つ目の使用は、流石に無理そうな気がする。
基礎ポーションも即効ポーション程ではないけど、僅かに確率を上げるので駄目だろう。
MPポーションも無理だ。あれも『酩酊』を誘発させる。
MPは回復できない。
それは、この戦闘中は〈ミノカミ〉も〈トラノカミ〉も使えない、という事だ。
さっきの一撃で分かったけど、今の私のステータスでは一切のバフ無しにこいつと戦い、勝つのは無理。
つまり、『シルバーアーム』との戦闘はソロで、回復無しの、バフが切れるまでの時間制限あり、という事だ。
「上——等っ!」
いいじゃん。縛りプレイ。
最高の楽しみ方だね!
〔シルバーアーム〕Lv.4
魔物 ??? ???
しかも、表示は真っ赤っかの格上。
あの黄金の鹿は紫表示だったから、あれに比べればこの熊の強さは下だろうけど、それでもステータス的には私より強いだろう。
精神がどんどん高揚していくのが分かる。
ああ……
この為に。
私は。
VRゲームを始めたんだ!
「ゴォアッ!?」
ン?
なんか、熊が戸惑うような様子が。
「まぁ、いいや」
【震脚】で踏み込み。
一足飛び。
鉄扇で胸部の真ん中を突く!
「ガッ! グラァアッ!」
痛みか、苦しげな様子を見せる。
その後、怒った様子で右腕を振り下ろしてきた。
「——ふっ」
それに鉄扇を添えるように当て、受け流す。
ピコーン!
なんか聞こえた?
まぁ、いいか。
攻撃が受け流され、地面に叩きつけられて、隙だらけになってる。
そこに、右脇に【震脚】で威力ブーストした横殴りの一撃を叩き込む。
ターンして、更にもう一発!
「ガッ! ガッ!? ガォアッ!」
噛み付き!?
覆い被さってくるのを脇を潜り抜ける。
熊は見かけ以上に走るスピードは速いし、スタミナもある。
距離を取ると危ない。
師匠に教えてもらった対処法は、超接近戦!
後ろに回り込み、背部を殴——
「硬っ!?」
強烈な金属音と共に、鉄扇が弾かれた。
痛つつ……忘れてた。
右手が痺れそうになるのを左手で抑えつつ、周囲を駆けて回る。
こいつ、背中も甲殻あるんだっけ。
甲殻ないのは……正面と脇と腰から下だけか。
ただでさえ素で攻撃力が高い熊と、ほぼ正面から戦り合え、と?
開発め!
やってやんよ!
目にもの見せてやる!
まずは——
「脚を潰す!」
甲殻で覆われてない以上、ダメージは蓄積させやすい筈!
叩く。
殴る。
突く。
『シルバーアーム』の腕撃を躱し、受け流しつつ、右手の鉄扇と三つ編みの髪留めでひたすら攻撃
し続ける。
叩く。叩く。
殴る。殴る。
突く。突く。
突いて捻じって。
横に振り抜き。
縦に叩き下ろす。
半ば意識が飛びながら、踊るように躱し、独楽が回るように攻撃は止めない。
ヤバい。
スタミナ切れそうかも。
どれ位時間経ってか、わからないけど。
私の動き鈍くなってきた。
でも、こいつ一緒かな?
既に深紅のオーラを纏ってる。
《激怒》だっけ?
速くなってる筈だけど。
よくわかんないや。
躱してるし。
でも、互いに限界近いかも。
もう、何度躱す余力ないや。
まぁ、とっくに右脚と左腕潰してるから。
なんとかしてるけど。
「グ、グ、ガ、グァアガッ!」
シルバーアームは今までで一番の咆哮を挙げると、猛烈な勢いで噛み付いてくる。
それ、悪手。
「グ、カフッ!?」
カウンターだ。
【震脚】で踏み込み、【舞踊】で回転。
オリジナルアーツ、〈竜尾の一振り〉——!
加速した〈重金の髪留め〉を振り抜いて、熊の眉間を撃ち抜く!
感じた。
骨が砕けた感触。
頭蓋骨を完全に壊したのだ。
最後、止めの一撃は。
どこか、切ない。
熊の身体から湧き出ていたオーラが霧散し、四肢から力が抜けてその場に崩れ落ちる。
「ガ、グ、……フ」
その眼から光は失せ、胸の上下を停める。
「勝っ、た……?」
腰から力が抜けて、私も崩れ落ちた。
ピコーン!
《【鉄扇術】のレベルが上がりました!》
《【震脚】のレベルが上がりました!》
《【舞踊】のレベルが上がりました!》
《【暗器術】のレベルが上がりました!》
《【解析】のレベルが上がりました!》
インフォメーションが止まらない。
ピコーン!
《職業レベルが上がりました! ボーナスポイント2pt獲得しました。ステータスに割り振りして下さい。【巫術】〈セイキテンペン〉〈シンキジュンカン〉を習得しました!》
ピコーン!
《種族レベルが上がりました! ボーナスポイント5pt獲得しました。ステータスを割り振りして下さい。アビリティ【怪力乱神】を覚醒しました!》
うわぁぃ、一気に色々上がりましたよー。
早く確認したいような。
でも、見るの怖いような。
しかし。
スタミナがほぼ完全に切れた。
「動け、ない……」
ゲージを見てみると、LPは残り一割を切っていて真っ赤っかだ。
瀕死状態です。
あー、洒落にならないや。
また、やってしまった。
完全に意識がどっか行っていたし。
あの熊が悪い。
強すぎなんだよー!
というか、今のこの状態。
かなりヤバい状況なんですが。
瀕死状態でスタミナ切れで動けない。他の魔物に襲われたら、即死に戻り確実です。
ボスケテ。
——ふぅ、危なかった。
幸い、他の魔物は出て来ず。
少しスタミナが回復した段階で起き上がる。
『シルバーアーム』から剥ぎ取りして、内容も確認しないで淡い光を放つ泉の方へ向かう。
引きずるように歩いて、泉の手前の地面にあった光の線を越えたんだけど。
ふと気付いた。
これ、セーフティエリアじゃなくて、ボスエリアだったりしたら……?
あー、もう遅いか。
両足、線越えちゃってるし。
“ キィーン!”
ん?
——第一覚醒。
所々、文章がおかしい所があります。誤字ではありません。
主人公の、戦闘で乱れる思考です。わざとおかしくしてます。
読みにくくて申し訳ありません。
(※職業Lv.上昇に伴う習得スキル〈シンキジュンカン〉の記載漏れ。追加しました)




