森の違和感
まさに鬼。
諦めるな。
諦めるのはまだ早い。
まだ、可能性は残ってる。
野生動物は大体そうだけど、テリトリー内の特定のルートを通る性質がある。それがいわゆる獣道となる。
猪は特にその傾向が顕著で、猟犬に追われたとしてもそのルートしか通ろうとしない。
それ故、猪は追い込みや罠による猟が主流なんだとか。
師匠やその御友人方が猟犬顔負けの追い込みかけて、猪やら熊やら銃無しで仕留めてたなぁ。
あの化け物どもめ。
師範や私たち道場生、師匠仲間のお弟子さん達なんかは修行と称して、解体とか料理とか悪戦苦闘しながらやらされたもんだ。
10歳で熊解体とか経験したの、日本で私くらいしかいないだろ。
まあ、師匠とそのお仲間全員はそのあと、駆け付けた先生に「危ない事はしないで下さいって言いましたよね? お弟子さんたちまで巻き込んで」って微笑みながら半殺しにされたんだけどさ。
あ、連絡したのは私なんですけどね。
先生たちが味付けしてくれた猪鍋や熊鍋は美味しかったなぁ…
それはさておき。
この獣道で待ち伏せすれば、他のモノキボアが現れる可能性があるのだ。
でも、何処で待ち伏せしようかな?
周囲を見回してから、上を見上げる。
「やっぱ、あそこかな」
この森の樹々は大きく、枝も太い。
登っても、私くらいの体重なら折れたりしないだろう。
鉄扇を腰の後ろの、袴ズボンの紐に挟み、落ちないようにして、と。
少しはしたないけど、袴ズボンの裾を捲り上げて縛ってから、樹の幹を登っていく。
地上から5メートル程の高さにある太い枝に移り、その上に腰掛けた。
早く来ないかな?
来た!
現れたのは、2戦目に出会ったのと同じ大きさ、ただし牙が半分くらいの長さのモノキボア1匹と、白黒の縞々が横向きになった猪の子ども——うり坊?の2匹だ。
雌と子どもの、親子かな?
〔モノキボア〕Lv. 1
魔物 警戒
〔モノウリピグ〕Lv. 1
魔物 パッシブ
〔モノウリピグ〕Lv. 1
魔物 パッシブ
うり坊ちっちゃくて可愛い……
猪の親子は無警戒に獣道を通り、こちらに近付いてくる。
風下は右手方向だから、臭いで気付かれる可能性は低い。
静かに、静かに……
猪親子が足下まで来た。
今っ!
枝から足を揃えて飛び降り、母猪の後ろを歩いていたウリ坊の“上”に落ちる。
重力落下式ドロップキック!
「ピッ!?」
踏み付けと同時に、鉄扇を引き抜き、もう1匹のウリ坊の鼻面に鉄扇の先を突き込む。
「ギッ!?」
ありゃ?
2匹とも生命力を表すゲージが一気にゼロに。
うり坊ってかなり弱い?
「フゴッ!?」
物音と断末魔で、母猪が驚いた様子で振り返る。
でも、もう遅い。
お子さん、死んじゃったよ?
【震脚】を使い、飛び上がり、母猪に鉄扇を振りかぶる。
お母さんも、すぐにあの世へ葬りますね!
〈片牙縞猪の骨〉
品質:D
モノキボアの太く頑丈な骨。
鉄と同程度の硬さと重さがある。
〈白黒瓜坊の毛皮〉
品質:C+
モノウリピグの毛皮。毛が非常に柔らかく、肌触りが良い。
滅多に獲れない為、非常に貴重。
〈白黒瓜坊のヒレ肉〉
品質:B+
モノウリピグのヒレ肉。後ろ足付け根から僅かに取れる。一番柔らかく美味な最高級肉。
滅多に獲れない為、非常に貴重。
〈白黒瓜坊のロース肉〉
品質:C+
モノウリピグのロース肉。肩から腰までの背肉。とても美味。
滅多に獲れない為、非常に貴重。
〈白黒瓜坊のバラ肉〉
品質:C
モノウリピグのバラ肉。腹と肋骨回りの肉。脂が少なく、臭みも少ない。
滅多に獲れない為、非常に貴重。
やった!
前の2戦の鬱屈が吹っ飛ぶ大戦果!
すごく貴重らしい、うり坊の毛皮が2枚。触り心地が素晴らしい……
お肉はヒレとロースが一つずつ、バラ肉が二つ。
これは絶対に私の物だ。私が食べる。
誰にもあげない!
親の方は骨だけ、と。
ま、まあ、なかなか面白そうな性質だし、使い道は色々とありそうではあるよね。
十分満足の行く結果が得られたし、また森の奥へ移動を開始しましょうか。
自然の森というのは本来騒がしいものなんだけど。
鳥や虫の鳴き声が響き、葉擦れの音が絶えず聞こえてさ。
でも、この森は奥に進むにつれて。
葉擦れ、風の音は聞こえても。
鳥の鳴き声は全然聞こえないし、虫の羽音すらしなくなってきた。
ここは『狂乱の森』と名付けられ、『魔獣の森』と呼ばれる程に凶暴な魔物が徘徊する森な筈。
なのに、モノキボア親子の後は1匹のヒュージキャタピラーと遭遇したっきり。
とんでもなく堅い殻を纏った芋虫だったけど、動きは遅いからただの的。でも、堅い。
そして割と、苦労した割にはレベル上がらず何も剥げず。
そろそろ泣いてもいいですか?
しかし、なんだろうか。
かなり奥まで来たけど、魔物に全然出遭わない。
まるで、何かを恐れて隠れているかのような……
うん。ぶっちゃけると、ツマラナイです。
戦いたいです。
誰か出てよー。
おや、こんにちは。
ご機嫌いかが?
「ゴァァアアアアァァァァ!!」
うるさいなぁ。
叫ばなくたって、聞こえるよ!
目の前に立っているのは、銀灰色の毛皮を纏った3メートルの熊さん。
両前足は銀色の甲殻で覆われ、長く鋭いやたら物騒な4本爪を備えている。
拓けた場所に出たと思ったら、いきなり樹の陰から現れた。
向こうには、何やら水面が淡く光る泉が見えている。
あれ、セーフティエリアじゃないかなぁ。
というか。
こいつフィールドボスの『シルバーアーム』だよね。
なんでこんな中層付近にいるんですか。
あれ?
セーフティエリアを背にしてる、って事は。
もしかして、こいつ倒さないとセーフティエリア入れない?
「ガァアアアッ!」
マジですか。
ありがとうございます。
ステータスに変化なし。




