隠されていた罠
そういえば、ネタを混ぜるのは二次創作に引っ掛かるんでしょうか…
大通りを早足で移動する。
あー、もう!
北と南って思いっきり街の反対側じゃん!
全力疾走したいけど、真っ昼間の大通りだけに人の往来が凄く多い。その為、人の隙間を縫って駆け抜けるのは正直難しい。
逸る気持ちを抑え、出来るだけ早足で進む。
そして、冒険者ギルドに差し掛かった所で、
「ちょい待ち! そこの巫女さん!」
思わず足を止める。
……巫女さんって、私だよねぇ。
声が聞こえた方に振り返る。
少し離れた位置に、竜人のムッキムキしたオジさんが。
あれ? さっきの声は女の人だったような……
「ちょ、こっちこっち!シタシタ!」
目線を下ろすと、1m位の身長の、背中に薄い羽根を生やしたフェアリーの女の子がすぐ近くに立っていた。
「えっと、今の声は貴方で、呼び止めたのは私ですか?」
「うん!そう、私で、あなた。巫女さん!」
「急いでるとこ、ごめんね。ちょっと話したくてさ?」
うーん、私はリアル準拠でこの低身長だが、フェアリーは低いっていうよりちっさいなー。かわいいけど。
「私の名前はマルキュー。あなたは?」
「あ、私は饕餮。トウテツと申します」
マルキューと名乗ったフェアリーさんは、ふわふわのウェーブが掛かった、薄い水色のセミショートヘアーに青い瞳をした可愛らしい女の子で、本当に妖精さん、といった感じの……って、
「アァウトォオー!?」
「にゅおっ!?」
水色の髪に青い目した妖精でその名前はダメだろ!
「ふぇっ?元ネタ有り?」
突っ込んでみたら、どうやらキャラクターカスタマイズ前に種族をフェアリーに決めていたらしいのだが、その時にリアルの友達に勧められるままにアバターをデザインしたらしい。
その友達、ひでぇ。
あまりにも可哀想なので、元ネタのキャラクターについての特徴と、マルキューの意味を教えてあげる。
「は?ーーあ、あ、あンのちくしょぉぉおおぉぉー!」
ちなみに、名前と容姿は原則変更出来ない。したければ、キャラクター削除からの作り直しである。……すごく、ご愁傷様です。
……そういえば、呼び止められた理由はなんなんだろうか?
その辺を訊いてみる。
「あ、そうそう! 今、プレイヤー全体でスキルが使えない、って大騒ぎになってるんだ。それで皆で声掛けあって調べてるんだけど、トウテツちゃんはなんか情報知らない?」
…………あー。
「マルキューさんは生産スキル持ってます?」
「ん? 【裁縫】と【皮革加工】と【紡績】なら持ってるけど」
糸から作る気かよ。
「商業ギルドにはもう行きました?」
マルキューさんは首を横に振った。
「βテスターのリア友を冒険者ギルドの前で待ってたんだけどさー。一緒に行くつもりにしてたらリア友が血相変えて現れて、この騒ぎでねー?」
スキルロックとその解放の事が知られてない?
……そういえば、訓練場には人少なかったな。皆、解放条件掴んでないって事?
ーーふむ。
「……商業ギルドに一緒に行きませんか?」
「ほえ?」
「はじめまして、ルーミスです。饕餮さんは何か情報をお持ちという事ですが」
マルキューさんが慌ててウィスパーで呼んだのはスラリとした体型に高い身長、長い銀髪に紫の瞳をした長耳美人、エルフのお姉さんだ。βテスターで、マルキューさんの件の悪戯を仕掛けたリア友らしい。
ちなみにマルキューさんはルーミスさんにアバターと名前について抗議していたが、軽くあしらわれていた。……そういう関係のようだ。思わず涙を誘う。
冒険者ギルドの前だと流石に問題が起こりそうなので一度路地裏に入ってから、人気がない所まで移動する。
「これを見てくれませんか?」
ステータスを呼び出し、可視化してから所持魔法の項目を見せ、【巫術】をタップする。
【巫術】《解放》
天地万物に宿る神々から加護を授かる生命系統魔法。
Lv.1
〈ハラエノミソギ〉
周囲を禊ぎ、瘴気を祓って浄化する。
・生命系統魔法の効果上昇
・不死系、魔法生物系の魔物を弱体化
〈ナギノミカガミ〉
心身を凪いだ水鏡のように落ち着かせる。
・身体及び精神状態異常耐性上昇・小
今改めて【巫術】の詳細を見たのだが、なんだこれ。
回復がなく、後衛職の更に補助、といった感じのスキル。……ただでさえ、精神力の影響で状態異常耐性はやたら高いってのに、更に上げてどうするんですか。
ーーあ、他人に掛けるのか。
「おおー!」
「……《解放》?」
やはり、真っ先にそこに気付くか。さすがβテスター。
「スキルは習得直後は《ロック》されています」
マルキューさんは小首を傾げている。が、ルーミスさんはそれだけで分かったようだ。
「もしかして、スキルが使えないのは……」
「はい。《ロック》が《解放》されてないからです」
「《解放》の条件は? 対価は支払ーー」
「要りません。ーー条件は推測になりますが、特定のNPCから指導や訓練を受けるか。あるいはアドバイスを受ける事ではないか、と」
あえて続けようとした言葉を遮り、予想を告げる。
別に情報でどうこうしようとは思わないし、現在の状況が決して良いとも思えない。
前線も生産も停滞していては、結果的には自分の首を絞めることになりかねないからだ。色んな意味で、情報は流した方が良いのである。
「各ギルドの訓練施設……?」
「恐らく、殆どはそこで《解放》なんでしょうね」
マルキューさんは、え?え?と私とルーミスさんを交互に見るが、あえて無視する。
「冒険者ギルドで職業スキルである【巫術】について訊ねた際、生命系統魔法である事を理由に北門の大神殿を紹介されました」
ルーミスさんは考えを巡らせる様子を見せながら、目の動きだけで次を促す。
「そこで一通り、心構えのようなものを教えていただいたのですが、突然『ロック解放条件を満たしました』というアナウンスが出たんですよ。それで、それまでの自分の行動を振り返ってみたのですが、訓練を受ける、アドバイスを受ける、というのがトリガーなのではないか、と気付きまして」
戦闘スキルも《解放》されてたし、まず間違いないだろう。というか、【巫術】の《解放》の文字は一定時間したら消えてしまったのだが。スキル名をタップしたら再び現れた。……普段は隠れてるとか、いくらなんでもタチが悪すぎる。
「なんて……なんて、悪辣な……!」
マルキューさん、さっきから頷いてますけど。その顔、絶対分かってないですよね?
「で、検証も兼ねて今から商業ギルドに一緒に行きませんか?」
「……そうですね。ご一緒させて下さい」
同行者が増えました。
マルキューさんはさておき、βテスターだったルーミスさんと一緒なのは心強い。
「ところで、トウテツちゃんはなんで巫女さんなの?」
マルキューさん今頃訊きますか!?
ステータスに変更がないので、表記なし。