しにもどり
蟻とトナカイとメルトの赤コンボはトラウマ。
視界が——
——黄金の光に
塗り潰される——!
身体が全て泡立つかのような感覚を覚えた直後に、暗転。
次に見えたのは、相変わらず沢山の人でごった返す『ウェンディコ』の中央広場だった。
「……死に、戻ったかー」
丘陵地北部へ移動し、黄色鹿を狩っている途中、黄金鹿に遭遇。挑戦するもあえなく敗北した。
角から噴き出した、黄金の光の刃による斬撃で文字通り消し飛ばされてしまった。
ジュッとか音が聞こえたし、体が泡立つような熱いような感じを覚えたから、多分アレは蒸発したな。
つか、なによ。あの化け物!?
こっちの攻撃を軽く躱すわ、喰らっても平然としてるわ。
突進は視認が難しいほど速く。
前脚一本振り下ろしただけで、地面を爆砕。
とどめは、天地を切り裂く聖剣の如き、角から放たれる光の斬撃。なんか一連のモーションに見覚えあったような気もするけど……いや気のせいだろう。聖剣な角とか私は知らない。
さておき、10メートル以上離れた私を一撃で死亡させた威力は流石にレベルが違いすぎた。
攻撃力、耐久力、速度、全てを兼ね備え、強力な必殺技をも有するボス。正直、隙が無さすぎて泣けてくる。
少なくとも、現在の私の実力では到底太刀打ちできないな。
装備を整えて、もっと色んなレベルを上げて強くなってから、挑戦すべきかも。
……まあ、少なくとも今は挑戦も何もないのだけど。
【04:59:32】
STR:8【-4】
VIT:6【-3】
AGI:10【-5】
DEX:11【-6】 [+2]
INT:12【-6】
MND:22【-11】
こ れ は ひ ど い 。
デスペナルティによるステータス半減で、ステータスは軒並みLv.1初期値相当にまで下がっている。【】内がデスペナルティ制限時間と低下値だ。
ゲーム内時間で5時間も下がりっぱなしで、ログアウトしてる間は時間が減らない、血も涙もないハード仕様。……こんなに下がったら、なんにも出来ないんですが。
はぁ、こんなとこで愚図ってても仕方ないか!
とりあえず、依頼されていた〈黄色鹿の角〉は手に入ってる。
ローラン君に持って行って、依頼を完遂させますか。
さて、戻ってきました『月光蝶』。
「ローラン君、戻りましたー」
「あれ? お帰りなさい。早かったですね——ど、どうしたんですか!?」
ほえ?
「も、元々青白い顔が更に真っ青に!? ふ、不死種の方々みたいになってますよ!?」
……なんですかそりゃ。
ふむ。どうやら、顔面蒼白はデスペナルティ中エフェクトの一つようだ。
その辺を説明する。
「なるほど。異世界人の方々は死んで復活できる加護がある、とは聞いていましたが、制限やデメリットがない訳ではないのですね」
そういえば、初めてNPCの人から顔色について指摘されたような?
気になるから訊いてみよう。
「この世界には不死種や吸血種の国もありますし、この街にもそちらの出身の方々が住んでいない訳ではありませんから。……饕餮さんが鬼人族である事は承知していましたが、てっきりそれらの血筋に連なる方だと思ってました」
あ、アンデッド扱いされてた!?
いや、まあ、私だって鏡を見て「ちょっとこれはないわー」と思ってしまうレベルで青白い顔ですけどね?
デスペナルティ中の私の顔色は、ゾンビ顔負けですかそうですか。
……にひひひひ。
「トウテツさん。——怖いから笑わないで下さい。お願いします」
ごめんなさいね? 泣いていい?
「お約束していた〈黄色鹿の角〉です」
道具袋から〈黄色鹿の角〉を取り出し、カウンターの上に置く。
「はい。——確かに。ありがとうございました」
ピコーン!
《NPC『ローラン』からの依頼を達成しました! 》
よしよし。幾らかのソルとポーションを頂きました。ホクホクしますよ。
「あ、あとお約束した通りサービスを……と言っても、珍しい品が手に入ったら、真っ先にお見せする位しかできないんですが」
まあ、変に優遇されてもやっかみとか怖いですし。それでいいですよー。
「あ、そうだ! それなら『癒瘡木』について何かご存知ありませんか?」
ついでに私が探している武器の素材についても訊いてみる。
以前挙げたようにリグナムバイタの特徴は非常に堅く重い事だけど、和名から察せられるように薬の材料にもなる、特別な木だ。
え? ローラン君、何の病気の薬ですか?って。
「知りません」
「え? えと、」
「わかりません」
にっこり。
わかりませんよー?
ええ、乙女である私にはわかりませんとも。
【デスペナルティ中】




