閑話 それぞれのとある時間
一区切り入れる為、閑話を挟みました。
三人称、一人称、一人称という構成で、それぞれ誰かは明確にしていません(まあ、だいたい分かると思いますが)
一見sideっぽいですが、時間の流れはバラバラです。
(※ストロベリーブロンド→黒髪、設定すっかり忘れてましたorz)
プシュー!
和風デザインのインテリアで統一された板張りの部屋の隅。
そこに置かれた、明らかに部屋の雰囲気に似つかわしくない円筒状の物体——カプセルが横から開いた。
蓋の部分がゆっくりと自動で上昇し、斜め60度でガチリとロックが掛かる。
中から小さな白い手が現れ、下側の縁に手を掛けるとその上半身を反動で一気に起き上がらせた。
長く細やかで光沢のある黒髪がばさりと顔に掛かるのを鬱陶しげに払い、淡褐色の双眸で暫し天井を見上げる。十秒程して溜息を吐くと、徐に立ち上がった。
背は低く、凹凸の少ない華奢な体躯。膝の辺りまで伸びた髪が、その小さな身体の後背の大半を覆い隠している。
「ごはん……の前にシャワー浴びよ」
冷房は効かせておいたのだが、僅かに汗をかいていた。
脱衣所に入ると、着ていた『Ninja!』とロゴの入ったTシャツと麻のショートパンツ、下着も全て脱ぎ捨て、浴室の扉を開いた。
《——わが県は過疎の力により人口減少でパチンコ屋が増えつつあった・・・・・・!
だがモヒカンとバイク屋は消滅していなかった・・・・・・!》
出来合いの冷凍ピラフをレンジで温め、再放送のアニメを見ながら、早めの昼食を摂る。
(ゲーム内は夜だし、調べ物終わったから今はやる事ないしなー)
幸い、現実の1時間はゲーム(むこう)では3時間である。こちらで4時間ほど時間を潰せばゲームでは朝になっているので、それからログインすればいいだろう。
アニメが終わり、代わりに始まるニュースをぼんやり眺めながら、スプーンで掬った真っ青な色の米を口に運ぶ。
「……貰い物にケチつけるのもなんだけど、青いピラフってあんまり食欲そそらないなぁ。味は美味しいんだけど」
ちなみに鯖缶の味がした。
《ははは。あいつは相変わらずみたいだな! 》
「笑うのはいいけど、フォローする俺の身になれよ」
《コータロー。フォローなんてしなくてもあいつは大概の事は自分でなんとかするさ。それが分かってて世話焼いてるのはお前の勝手だろ?》
ぐぬ、反論できねぇ。
“彼女”は強い。何よりもその意志が。
物心ついた時から親友と一緒に、家族同然の付き合いを。同じ道場で鍛え、切磋琢磨してきた。
進学に伴って一人暮らしの寮住まいの為町を出ているここ数年はさておき、かつての彼女の事で知らない事はほとんどない、と言っていいだろう。
その強さも、その脆さも、危なさも。
だからこそ、構いたがってしまうのかもしれない。
《まあ、お前があいつの側にいてくれるのは素直にありがたいさ。あいつは 半分“ズレちまってる”からな。側に誰かいないとあっちに突っ走ってしまいかねん》
「タケル。そういう言い方はだな」
《コータロー。分かってるだろ? あいつは人とは “ 違う ”。それこそ仮想現実世界での『適性者』のように》
「……そう、だな」
タケルを含めたあの優しい家族に育てられ、師匠である老夫妻に徹底的に鍛え込まれた心のつよさ。
人として武の在り方として教えられたその倫理観はしっかりと根付いており、常識を弁えない時はほとんどない。
だが、それでも彼女には時に狂気を垣間見る。
師をして『修羅の性』と言わしめた、強さと戦いへの渇望が。
《つか、いい加減落としたらどうだ。遠恋は仕方ないが、男の片想いなんざ——ダサいぞ?》
「はぁ?」
はぁ!?
「何言ってんだお前? あんなちんちくりんに誰が、なんだって?」
最近、怪しげな行動をしていたみたいだが、ついに脳がイカレたか?
《……まあ、いい。それよりその後の調子はどうだ。 両足はもう大丈夫なのか?》
「ああ、ようやく安定して、少しずつ動くようになってきた。これから徐々に機能が戻るようにしていくんだと」
《そりゃ良かった。俺もご両親を無理に説き伏せて紹介した手前があるからな》
「感謝してるよ。そういやお前、あんな天才美人女医とどこで知り合ったんだ?」
《有明》
おい。
「コスプレ繋がりかよ!?」
《そんな事より、お前はリハビリと就職先の心配してろ》
「余計なお世話だ!」
ったく……
さーて、次は何をつっくろっかなー。
ガサゴソ、と作業台の上に広げた素材を漁りながら、次に作る物を考える。
「んむー、そろそろ布の服が作りたいなー」
戦闘職の人たちやトウちゃんに貰った素材の多くが皮素材なのもあり、作ってきたのはなめした皮の服や靴。なめした革を加工したカブトなど。
布の服を作るには生地がいる。別にNPCの服屋や生地屋さんで手に入るのだけど、それだと魔物の素材を使用した装備にどうしても劣るのだ。
最近手に入れた、布を何枚も重ねて作る鎧や、表や裏地に金属板を縫い付ける服?鎧?を作ってもいいのだけど。
でも、今のスキルレベルだと難易度にギリギリだし、鎧だとトウちゃんが装備できないし、やっぱり市販品からだと限界がある。
「あー、南の芋虫狩りに行こうかなー」
南の平原にいる『ウェブクロウラ』が〈網蚕の糸〉というアイテムを落とすらしい。
「でも、ルミちゃ——いけないいけない。ルーちゃんは芋虫キライだしなー」
むむう、一人で狩りに行くのは怖い。だって、あの芋虫。フェアリーであるわたしとほとんど同じ大きさだし。
自分と同じ背丈の芋虫って怖いよね?
あ、そうだ。
「トウちゃんとリボっち誘おー」
本日はここまで。




