相変わらずのクオリティ
「一番こわいのは笑顔だな」
「なんでだよ。笑顔いいじゃん」
「あのな? 激怒しながらも笑顔の人とか、笑いながら相手をボコボコにする人とか想像してみ?」
「そりゃこわい。けど、そんなヤツいんのかよ」
「いるぞ? たとえば冒険者ギルドのアm——すまん。用事思い出したから帰るわ」
「お、おい!? どうしたんだあいつ急に血相変えて……」
——ある酒場での一幕
お叱りと反省文から解放された後、自衛騎士団の詰め所を出ると、外はもう真っ暗だ。
「うわ、ゲーム内時間で7時過ぎ? 『紅蓮堂』を出たのがお昼前だから……五時間以上も怒られていたのかー」
正直、私の精神耐久値はもはやゼロです。
……まあ、怒られたのも当たり前なのだ。
中央広場は冒険者ギルドや転移門など重要施設が集中しており、あの時周辺に野次馬が沢山いたように、人の往来も激しい。
そんな場所で戦闘するなど、緊急時でもあるまいし言語道断だろう。
今回、注意と反省文だけで済んだのは別空間である決闘フィールド内で行われたという事と。中央広場では承認しない筈の決闘を、戦いを司る神様が『承認しちゃった』からだ。
もし、その二つの事実が無ければ。そのまま、戦っていたら。もっと重い罰が課せられた可能性が極めて高いとか。
……うん。もう、怒りに任せて喧嘩とか自重しよう。うん。
あ、騎士さんたちを振り切って逃げてたら、軽微だけど犯罪者認定食らってたそうな。よかったー。思わず逃げなくて!
あ、あと、帰り際に見掛けたんだけど、ドッガンダーが訓練場で騎士さんたちに扱かれてた。
うん、ムッキムキのマッチョメンがぶつかり合うのは——いいね!
……コホン。近くにいた騎士さんに訊いてみたら、強くなりたいから、と反省文書いた後に自分からお願いしてきたんだとか。
私はがんばれーと応援して、出てきました。
ところで。なんであの子は最強目指してるのにドッガンダーって名前にしたんだろ。あれ、あそこでひっくり返したら……
さて、もう真っ暗です。図書館閉まってます。
街の外は恐怖のモンスターパラダイスだし、一人で出る気にはなれない。
このまま宿屋借りて朝まで寝てようかなー?
マップを確認しようと、メニューを呼び出す。
あれ? アナウンスとメールきてるや。
アナウンスは、と。
《ステータス画面のレイアウト変更のお知らせ》
うん、どうでもいいな。
メールは?
……リボるんから。
『お嬢へ。罰が終わったら、紅蓮堂に戻ってくる事。PS.このおバカ』
ばれてーら!
な、なんで……あ、掲示板かな?
あんだけ人がいたんだ。実況なり、顛末なりを書き込んだ人はいた筈だよねー。
どーしましょー。……よし、に
「逃げるなよー」
ポン、と頭に乗せられる手。これは、感触に覚えがありすぎるんですが。
ぐぎぎ、と首を回して振り返ってみれば。
「り、リボるん……」
「お嬢の行動パターンは読み切ってるんだよ。ほれ、戻るぞー」
うわぁ!
ひ、人を荷物みたいに小脇に抱えるなぁっ!
「逃げられたら困るからなー。ちゃっちゃ行くぞー」
あーれー。
あれ、なんかデジャヴ?
まあ、移動は楽だし、いいや。
でも、目の前に表示されてるハラスメント通報を促すウィンドウは邪魔だなぁ。
「——そんで、今まで連絡つかなかった訳か」
ええ、まあ、ソウデス。
もしかしたら、騎士団の詰め所内、というより、ある種のペナルティ行動中はメールの受け付けが出来ないのかもしれない。
いや、確認してないから分からないけど、もしかしたら強制的に、一時的な無音になるだけかもしれないし。
送信?
怒られてたり、反省文書いてるのを監視されてる前でメール弄る度胸なんかあるわけないでしょ!
「ったく。はぁ……まあ、 “ お嬢 ” だしな」
「解せぬ」
なんですか。その『仕方ないなー』感たっぷりの言葉は。
「ん? 俺とた——お嬢の愛しのお兄様お姉様や道場の連中がどんだけ苦労してきたか聞きたいのか?」
「ごめんなさい」
ぐぬぬ、迷惑掛けてきた自覚はあるだけに……!
おのれ、何も言えないっ!
「相変わらずこの二人は見てて飽きないね」
「確かに」
「りあじゅうはばくはつしろー」
にっこり。
マルキューさんは黙ろっか?
「ガタガタ」
「にしても、また突っ込みどころ満載だな! お嬢のステは!」
知らないよ! 私でも訳分かんないですよ!
名前 : 饕餮 / TOUTETU
種族 : 鬼人Lv.1
職業 : メイデンLv. 3
称号:
『虎狩り』
『危難を凌ぎし者』
『ウェンディコの問題児 』[特殊]
《トラブルを起こし、ウェンディコの騎士やお偉いさんに目を付けられた問題児。もう起こすなよ!》
『戦神の承認者』[特殊]
《新たな技術や複数のスキルを組み合わせ、生み出した新たなる技を戦神に承認された者。》
『戦鬼』[種族]
ステータス
ATK:+3
DEF:+3
MBS:+1
RES:+2
STR:8
VIT:6
AGI:9
DEX:10
INT:12
MND:22
ボーナスポイント:0
装備アイテム
・〈木のロッド〉
・〈白の襲〉
・〈緋袴〉
・〈重金の髪留め〉
・〈異界の道具袋〉
イベントアイテム
・〈宝冠の欠片〉
習得魔法
【巫術】Lv. 3
〈ハラエノミソギ〉Lv. 2
〈ナギノミカガミ〉Lv. 1
〈ミノカミ〉Lv. 0
〈ツクモツキ〉Lv. 1
〈コンパクカッセイ〉Lv. 1
オリジナルアーツ
〈雀撃ち〉Lv.1
《高速で奔るは死の一突き。空舞う雀を落とすのか? あるいは狩り蜂の一針か?》
・貫通ダメージ、カウンター時ダメージ上昇:微
必要スキル:【棒術】、【掴み】
〈竜尾の一振り〉Lv.1
《大地より立ち昇った力は廻り、万物を撃滅する一撃と化す。其はまさに竜が振るう尾が如し。》
・衝撃特性、部位破壊率上昇
必要スキル:【震脚】、【舞踊】、【暗器術】
所持スキル
【棒術】Lv. 8
【震脚】Lv. 7
【舞踊】Lv. 4
【細工】Lv. 3
【鑑定】Lv. 2
【解析】Lv. 2
【暗器術】Lv. 2
【掴み】Lv.1
【恐怖と魅惑の微笑】Lv.1
《笑顔は時に威圧し、時に魅了する。》
・笑顔を浮かべた際、目視した敵対象に対して一定時間〈行動鈍化〉を与える。
・笑顔を浮かべた際、目視した味方を〈ハイテンション〉([攻撃力][魔法攻撃力]上昇)をする。
(※効果解除後の対象は一定時間スキル効果無効)
(※効果時間はスキルレベル依存)
(※スキルレベル上限Lv.5)
スキルポイント:18
あれ? なんか前と——あ! リボるんのメールと一緒に来てたアナウンスのレイアウト変更ってこれか!
ちょっと、見やすくなったかな?
つか、このちゅうにくさいテキストはなんなんですかね?
「さて、問題児については特に議論する必要はないとして」
あ、はい、すみません。流してくれて、本当にありがとうございます。
「この、『戦神の承認者』というのはなんでしょう?」
うーん、多分ですが。
「この、オリジナルアーツってやつを手に入れた人が貰える称号なんじゃないかと」
称号獲得とオリジナルアーツ承認とやらはほぼ同時だし、どっちもテキストに『戦神』ってあるしね。
「文面通り考えるなら、二つ以上のスキルかリアルの技能を組み合わせる事で自分だけのアーツを作れる、って事かな?」
「しかし、お嬢は〈雀撃ち〉は前からちょいちょい使ってたぞ? 【掴み】スキル習得がキーになってたとしても、以前に入手してなきゃおかしい」
うん、そうなんですよね。
それに〈竜尾の一振り〉も、編み出したのは冒険者ギルドの訓練場でだし。今更感はある。
「この、戦神さまが見たからじゃないの? たとえば、決闘して見せたらとか?」
マルキューさんの意見もあながち間違いじゃないとは思うんですけどね。
「それだと、決闘しないプレイヤーはオリジナルアーツを習得出来ない事になってしまうね」
そう、フルフルさんの言う通りだ。戦神の前で見せなきゃいけないのなら。いつ見てくれるか分からない以上、管理しているという決闘で見せるしかない。
でも、決闘——対人戦が嫌いな人は?
あるいは、生産スキルを組み合わせて編み出したい人は?
どうにもならなくなってしまう。
「また、何か別の手段がある、って事か?」
現在、スキル習得については、受講や勉強による習得から訓練や実習での《解放》という方法の他。
反復練習による習得と、相応の技能発揮による習得がある事が判明している。
前者は、【槍術】を持っていたある人が何百回と片手剣の素振りをしていたら【片手剣術】を習得していたそうだ。
後者は、私の【掴み】スキルが分かりやすい。元々持っていた強力な握力が、スキルに値するとシステムに認定されたのだ。
この二つの習得法の場合、スキルポイントを消費しなくても良いという利点がある。
ただ、反復練習も認定される方も、何百回とカウントされた上でようやく習得できるのではないか?と予想されている。スキルポイントを節約する為にそこまでするか、という問題もあるのだ。
私の【掴み】も、何十回も戦ってきて、あの決闘でついに認定されたのだから、道のりは険しいんじゃないかな。
オリジナルアーツも同様に、決闘以外の方法で習得できる可能性は確かにある。
というか、別の神様に承認受けるとかどうなんだろ?
「アーツの効果は、まあ、どっちも理解の範疇か」
「追加効果の貫通ダメージやら、部位破壊率上昇やら、何気に物騒なのが並んでるけどね」
「複数のスキルが習得条件になるのなら、こんなものでは?」
ほっ。アーツの内容については特に突っ込む程じゃないか。
まあ、〈雀撃ち〉はほぼ私にしか使えない技だし。
〈竜尾の一振り〉も特殊な装備がいる上に、三つものスキルを組み合わせてるし、出すのには全身を連動させなきゃいけないから割と難易度も高いしね。
「……問題は、この微笑とかいうスキルですね」
「うん、そうだね」
はい?
「よくわかんないけど、笑顔でなんかするのがすごいのはわかるよ!」
「笑うだけで敵にも味方にも影響与えるスキルとか開発はやっぱり頭おかしい」
「いや、でも相手見てないと効果ないですし。効果切れたらしばらくは効かなくなりますし、スキルレベルも5までしか上がりませんし」
あれ、でもこれヤバくね?
「饕餮さんはもう少し自覚持った方がいいよ」
「鬼巫女さんが何か言ってますね」
「自覚なしはこわいね?」
「お嬢、笑うだけで敵の動きが鈍って、味方が強くなるんだぞ? 呪術師や付与術師涙目なのわかる?」
うっ、確かに……
で、でもさ。
「私は望んで手に入れた訳じゃないんですが」
私に一体どうしろ、と!
「いや、それは……」
「運命というか」
「効果はともかく、これほどお嬢にぴったりな名前のスキルがあっただだろうか——」
リボるん、だ ま れ ?
「トウちゃん?」
なんですか? マルキューさん。
「あきらめたら?」
そりゃないですよ!
えー、説明回です。
グダグダです。
はい、ごめんなさい。




