だいじなことはみえないもの
過去と現在は繋がっているとは限らない。
自由都市『ウェンディコ』を上から見下ろすと、ちょうど丸と十字を組み合わせたような形になっている。丸は外壁、十字は街の東西南北に走る大通りだ。
『ウェンディコ』にはいざという時の防衛拠点も兼ねた大規模建造物が5つ、大通りに面した位置に存在している。
東西南北に一つずつと中央に一つ。
中央に総合的な互助組織たる冒険者ギルド。
南門に交易と生産を監督する商業ギルド。
西門に魔法関連と魔物の研究を行う魔術ギルド。
東門に街の治安と防衛を担う自衛騎士団。
そして、北門の近く、大通りに面した場所にあるこの大きな白亜の建物が、この街の信仰の中心である大神殿である。
「そうですか。異邦の神職が使う魔法についてお訊きになられたい、と」
対応してくれた、司教であるラズドゥさんの言葉に深く頷きを返す。
しかし、渋い声したロマンスグレーだこと。ただ、声がどこかの猫の料理人のオジ様に似て聞こえるのは気のせいだろう、うん。
「はい。こちらに来てから、少し試してみたのですが……何故か使用はおろか、魔法についての情報すら分からず、恥ずかしながら知恵をお借りしたいと」
ハート様の訓練を無事?終え、冒険者ギルドの外に出てからここまで来る途上、【巫術】について調べようとしてみた。だが、《ロック》というWarnning表示がされ、まるで見る事が出来ない。
その為、半ばヤケクソで大神殿に入ってすぐ、傍にいた一番偉そうで優しそうな人に相談をお願いしてみたのだ
司教だと名乗ったラズドゥさんは快く了承して下さり、わざわざ来賓室まで案内してくれ、ーー現在に至る。
「なるほど……」
ラズドゥさんは軽く頷いてから、こちらへ微笑みを浮かべる。
「トウテツさんは僧侶や治癒術師が使う魔法である生命系統が他の魔法とは少々、理が異なる事をご存知でしょうか?」
「ーーはい。あくまで違う、という事だけですが」
教えてもらったのは冒険者ギルド訓練受付のケセラさんからだ。
というか、このゲーム。やたら不親切で、公式から発表されている情報が非常に少ない。職業はおろか、種族の主な特徴すら開示されていないのだ。私が手にした情報の殆どがβテスターが調べてwikiに載せたものである事からして、どこかおかしい。
「一般に使われている魔法は、自身の肉体から絞り出すか、あるいは大気中の魔力を集めて行使するものです」
ですが、とラズドゥさんは言葉を続けた。
「生命系統は神々、あるいは精霊に願い、自身の生命力または魔力を捧げる事で様々な力を借り受ける魔法です」
ん?どういう意味だ?
普通の魔法は魔力を使う。生命系統魔法は神や精霊に魔力などを渡す事で力を借りる。
「……魔力を燃料にするか、代価に使うか?」
「そうですね。概ねその考え方で間違いありません。ただーー」
ただ?
「感謝の気持ちを忘れないようにして下さい」
……へ?
「感謝の気持ち、ですか?」
ラズドゥさんは笑顔で頷く。
「どのような魔法にせよ。魔力を捧げているとはいえ、神々や精霊は我々にわざわざ力をお貸しして下さっているのです。その恩恵に感謝するのは当然、でしょう?」
なるほど。
「その通りですね」
言わんとしてる事は分かる。
多分、神々も精霊もNPCと同じAI制御なんだろうけど、それを言うのは野暮だし。力を借りるのなら感謝するのは別におかしな事でもない。例え魔力という代価を支払っているとしても、 ” 力を貸すかどうか ” はあちら側が決める事なのだから。
「感謝の気持ちを持たぬ者には神々も精霊もそっぽを向かれてしまわれますしね」
ん?
……うわー、また裏情報っぽいのがきましたよ。
これ、心掛けや態度次第で魔法がファンブル(失敗)したり、発動自体しなかったり、って事だよねぇ?
いざという時に発動しなかったり、マイナス効果出る回復魔法とか最悪ですやん。
……よし、謙虚に生きよう。感謝を忘れずに、と。
あれ? でも、こんな大事な情報、wikiに載ってなかったよね?
どういうーー、
ピコーン!
《ロック解放条件を満たしました! 魔法スキル【巫術】が解放されました!》
は?
《【巫術】解放に伴い、使用可能な魔法については一覧タブより確認できるようになりました!》
はぁあぁぁぁっ!?
ど、どういう事だ?
うわ、本当に所持魔法【巫術】に使用可能魔法の一覧タブが増えてる!
……まさか。
そういえば、訓練の後【棒術】のアーツ、言わば必殺技を習得できるようになっていた。あと、【震脚】【舞踊】は普通に使えていた。
あれは単に【棒術】のレベルが上がったからだと思っていたし、そもそも訓練に集中していて、意識が半ば飛んでいたが、もし、
……ハート様に教えを受けたからで、
アナウンスに気付いていなかっただけ、
だとしたら……?
この時、街の内外ではβテスターも含めて、『攻撃の威力が弱い!?』『生産がまるで成功しないんだが……』『魔法が、スキルが使えない!』と大騒ぎになっていた。
この、正式版から追加された
『スキルは習得していてもロックされており、』
『特定のNPCから話を聞くか、指導や訓練を受ける、などの条件を満たさない限り、』
『解放による有効化が成されず、使用できない』
という、鬼畜すぎるシステムが全プレイヤーに知れ渡る事になるのは翌日、正式稼働二日目の話である。
「どうかなさいましたか?」
あ、ラズドゥさん忘れてた。
「い、いえ、突然魔法が使えるようになりまして……」
「ああ、それは良かった。おめでとうございます」
神々の祝福でしょう、と続けた言葉には反論したい。いや、心の中でしかしないけど。
どう考えても運営の悪意です。本当にありがt(ry
ラズドゥさんには丁寧にお礼を告げて大神殿を後にする。【巫術】の確認は後でゆっくりするとして。
商業ギルドは後回しにして街の外に出る予定に変えていたが、再び予定変更だ。商業ギルドへ行き、【細工】について話を聞こう。
とりあえず、スキルロックは全部解放しなくては!
【巫術】《解放》New!
天地万物に宿る神々から加護を授かる生命系統魔法。
Lv.1
〈ハラエノミソギ〉New!
周囲を禊ぎ、瘴気を祓って浄化する。
・生命系統魔法の効果上昇
・不死系、魔法生物系の魔物を弱体化
〈ナギノミカガミ〉New!
心身を凪いだ水鏡のように落ち着かせる。
・身体及び精神状態異常耐性上昇・小