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守る為の戦いを

『己の役割を自覚しろ。

 仲間の能力を理解しろ。

 己の実力を信じろ。

 仲間の事も信じろ。

 意思疎通を忘れるな。

 ちゃんと声に出せ。


 そうすれば、大抵の危機は乗り越えられる』


 ——自衛騎士団の教官が訓練生に最初に伝える訓示

「リボるん! トレインの到達予想時間は!?」


「——このスピードなら……5分だ! くそが、どんだけ引っ張って来てやがる!」


「引き連れているのは5人! その後ろに50匹以上は居るわ!」

「——目視確認した! こちらに来ている大群は、『ナイトアーミー』が30! 『ディグラット』が33! 『シャドウウィーゼル』が8! 後続はいないが、接敵までに増える可能性はある!」

 リボるんの予測に続けて、アーチャーと思われる弓矢を構えた猫獣人の女性プレイヤーと、狩人らしきエルフ男性のNPCの2人が、恐らくはスキルも併用したその高い視力により更に詳細な情報を報告する。


 って、なんですかその大軍団!?

 ここにいる、戦闘できそうな人って門番さん達を入れても、20人を超える位ですよ!?

 いくら周辺で一番弱い南の草原の魔物達とはいえ、その数はヤバすぎる!


「トレインつか、MPK?」「その数は洒落にならんぞい」「に、逃げ……」「やらせはせん! やらせはせんぞ!」「何考えてやがる!」「生産職と非戦闘員は門の傍まで下がらせろ!」

 ……今誰かネタを口走ったような気がするけど——そんな場合じゃない!


高天原(たかあまのはら)神留坐(かむづまりま)

 神漏岐(かむろぎ) 神漏美(かむろみ)(みこと) ()ちて

 慈命神親(いつくしみことかむおや)大神(おほかみ)

 月偲(つくしの)  日向(ひむか)の  (たちばな)の  小門(をど)の  洗雪泉(あらすすぎすみ)に 禊祓(みそぎはら)(たま)(とき)に  生坐(あれま)せる  祓戸(はらへど)大神等(おほかみたち)

 諸々禍事罪穢(もろもろまがことつみけがれ)を  (はら)(たま)ひ (きよ)(たま)ふと  (まを)(こと)(よし)

 (あま)(かみ)  (くに)(かみ)  八百万神等共(やほよろづのかみたちとも)に (かむ)斑駒(ふちこま)の  耳振立(みみふりたて)て  聞食(きこしめ)せと  (かしこ)(かしこ)みも (まを)

 ——〈ハラエノミソギ〉!」


 呪文の代りであろう、やたら長い祝詞を早口で詠唱し、右掌を地面に叩き付ける。つか、これ地鎮祭とかで読み上げる『禊祓詞(みそぎはらへのことば)』そっくりなような——ってそんな事は置いといて!


 シャーン、という幾つもの鈴を一斉に揺らしたような不思議な音色が響き、地面に光の線が奔る。それは私を中心に円を画き、内部を何本もの直線が交差して、一つの大きな陣を描き出した。

 場を浄め、此の世ならざるモノの力を弱めて生命の力を増す、清浄なる霊域——!


「回復職——生命系統魔法を使える人はこの陣の中に入って! この中では生命系統魔法の効果が増強されます!」


 私のその言葉を聞いたアコライトと精霊使いのプレイヤー。司祭、僧侶のNPCの4人が走ってくる。

 今ここにいる全員の生命を支えるには心許ない人数だけど、〈ハラエノミソギ〉の陣は直径10m程度。ある程度動く事を考えると、さほど広い訳じゃない。怪我人を収容して回復させる事を考えても、常時待機出来るのはこの人数が限度と見るべきだろう。

 後はポーションや薬草でなんとか凌ぐしかないか。


「回復と支援は任せて!」「皆負けないでね!」「後方は我々が支えます!」「神のご加護を!」」


 回復役(ヒーラー)のエールを受けて、戦闘職が武器を構えて前に出る。

 盾を持った重戦士や騎士のNPCが最前列に展開し、その後ろに大剣や片手槍を構えたリボるんらアタッカーが立ち。

 中衛に先程報告してくれたアーチャーの女性や狩人、攻撃魔法の使い手ら遠距離攻撃持ちが控え、門の前に拡がった〈ハラエノミソギ〉の陣の中で後衛が万が一に備える。


 戦闘力の低い生産職や、一般人であるNPCの商人、その家族らは更にその後ろ。門のすぐ傍で待機してもらう。

 本来なら安全な門の中に入ってもらうのが一番なのだが、この状況で門を開ける訳にもいかないだろう。そもそも日の出までは閉鎖する規則なのだし。

 じっとして、我慢してて貰うしかない。


 門番さん達は門の傍に固まる非戦闘員の防衛だ。元々門を守るのが役目だし、彼らは大都市『ウェンディコ』の防衛を担う自衛騎士団の精鋭である。その位置が一番良い。



「〈ハラエノミソギ〉の効果時間は15分! 私は回復系が使えないので、中衛に控えます。光が少しでも弱まったらすぐに呼んで下さい! 」


 前衛の戦力が足りていないし、回復魔法が使えない私が後方に控えていても仕方がない。

 〈ハラエノミソギ〉の再設置も考えると、あまり前に出る訳にもいかない。壁役とアタッカーの横を抜けた敵がいた場合の掃除や中衛のフォロー。遊撃を担当する。

 勿論、前衛の人達に比べれば非力で、遠距離攻撃も使えない私は、このままでは今一つ役立たずだ。

 だから、


「——〈ツクモツキ〉! ——〈コンパクカッセイ〉!」


【巫術】Lv.3で新たに覚えた魔法を起動させる。



〈ツクモツキ〉

 器物に宿りし神霊を呼び覚まし、真なる価値を引き出す。

 ・一定時間、指定した対象装備の性能上昇:微、耐久値消費無効


〈コンパクカッセイ〉

 魂魄を活性化し、己が霊格を一時高める。

 ・一定時間、自身の全ステータス上昇:微



 上昇効果は僅か、MPの消費は割と重い、と難のあるこの二つのスキル。どちらも効果時間が長いのが利点の、強化系スキルだ。

 そして〈ツクモツキ〉が持つ耐久値消費無効は正直言って破格だ。だが、他者に付与する場合は掛ける装備に接触する必要がある上にMP消費が倍増する、というデメリットがあるので使いやすいとは全くもって言い難い。

 というか、【巫術】は癖が強すぎる!



 自身の戦闘力を高めた私は、周りの注目を無視して、展開したアタッカーと中衛のちょうどド真ん中に立った。


「明かりを掲げろ!」

 誰かの指示で、中衛の魔法使い達が〈ライト〉の魔法を上空に上げる。

 辺り一帯が一気に明るくなった。

 暗視能力やスキルを持たない鬼人の私や人間のリボるん、他のメンバーもこの照明の下ならば、全力で戦える!


 よし、気合入れましょう。追っ払う、なんてケチな事は言いませんよ!

 「さあ、全部まとめて殲滅しますよ!」


 全員が雄叫びをあげ、身構えた。



「来たぞ!」

 ピコーン!

《試練の神ライルトの託宣により緊急クエスト発生! 『襲い来る大群を防ぎ、南門を守れ!》

《クエストの成功条件:『襲撃してくる全てのMOBの撃退』》

《クエストの失敗条件:『戦闘員の全滅』『生産職及び一般人の死亡』》


 ピコーン!

《〈ハラエノミソギ〉のレベルが上がりました!》



(※誤字及び文章を少し修正)

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