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戦いの覚悟

一人称での戦闘描写がこれほど難しいとは……

「お嬢の攻撃力じゃ時間掛かると思うんだが」

「たこ殴りにすれば問題なし!」


「そいつ強いぞー」

「御馳走ですね。本当にありがとうございました」


「俺も戦いたいんだけど」

「だが断る」


「お嬢どいて。そいつ殺せない!」

「——黙れ」


「はい」



 さて、待たせてごめんね?

 リボるんを黙らせ、王様の方へ振り向く。


 王様——クラウンド・スポットウルフは全ての配下が死屍累々と転がっている中、ただ、こちらを睨みつけていた。

 幽鬼の如く立ち尽くし、その四肢は僅かに震えて……

 怯えてる?


「はっ」


「グゥルッ!?」


 失礼。思わず失笑してしまいました。

「何を怯えてるの? 狩り——闘争に生きる存在(もの)ならば、時に獲物に反撃される事も、時に強者と遭遇する事も、覚悟のうちでしょう?」

 それとも何? 絶対の捕食者として蹂躙される事など在り得ないとでも思ってたのかしら?

 王者とは、頂点とは、いつかは引き摺り落とされるものよ?

 それを覚悟せずに何が強者か。


「別に、逃げてもいいわよ?」

 笑みに嘲りの色を混ぜる。

「その代わり、貴方は王者たる資格はないけどね」

 覚悟もなく配下を死なせ、誇りも失くし、怯えて逃げた獣が王者など片腹痛い。


「相変わらずお嬢の挑発がえげつない件について」

 お黙り! ——なんでか分からないけど、戦闘モードに入ると高飛車っぽくなるんだよねー。

 っと、リボるんは放っといて、王様の方に集中しよう。


「グゥ……グルルルゥ……ッ!」


「あら? やる気になったの?」

 ふぅん? 最低限の誇りくらいはあるんだ?


「ガァアアッ!」

 王様の身体が怯えではなく、おそらくは怒りによって激しく震え、鬣を含めた全身の毛が一気に逆立つ。

 その周囲の空気が、揺らめき、歪んでいく。


「はぁ? ダメージ食らってもいないのに、激怒モード入っただと!?」

 おー。まるでどこかの野菜っぽい名前の星人みたいになったよ?

 ……かっこいいじゃん!


 後で聞いたら、激怒モードとはフィールドボスや特定のMOBが、一定の条件で変化する特殊状態らしい。

 条件はLPの一定割合までの減少や、弱点部位破壊など様々。攻撃力や防御力、敏捷性などが1.2倍から2倍にまで跳ね上がる為、βではここから本番と言われていたそうだ。


 ただ、これはどうなんだろうね?


 激怒というには、燃え盛るような激しさを感じない。ただどこまでも立ち昇るような、表現はおかしいけど静かな激しさを感じる。


「ゥゥウゥ……ゥアァォオオオォォォォォォォォン!!」


 空を仰ぎ、どこまでも響く遠吠え。

 それは死したる配下への鎮魂か、勝利への誓いか。


 まあ、どっちでもいいや。さあ、殺ろう!



「グゥ——」


 王様が力を溜めるように身体を地に伏せ、


「ガァアァァッ!」


 低い姿勢で飛び掛かる。


 その疾さは通常のスポットウルフなど足下にも及ばぬ程。

 巨大な体躯が、矢の如き速度で走り抜け、


「——甘い」

「グ、ァアッ!?」


 頭を支点に、空中で弧を描いて跳ね上がった。


「初撃にカウンターで『雀撃ち』かよ。相変わらずえげつねぇな」


 中程で保持していた棒を端まで高速で滑らせ、衝突の瞬間に強く握り込む。これはただ、それだけの技だ。

 相手は急激に『伸びた』間合いを見誤り、自身の勢いで撃ち込まれた棒へと飛び込む事になる。棒の先端という小さな点に衝撃が集中する為、身体に受ければダメージは決して小さくない。

 これ、スピアーフロッグと最初に戦った時に使った技だったりする。


 普通なら受けた衝撃で棒は弾き飛ばされてしまうものだ。

 小柄で全身筋力も見た目相応な私だが、何故か手首や腕の腱だけは強い為、握力だけずば抜けていたりする。左右の握力100kg。体格に見合わない、女性の握力じゃない、とはよく言われてます。

 その為、棒を飛ばされて手放す、という事が私にはまずあり得ないと言っていい。


 このゲームにおいて、アバターの強さ・ステータスは現実の肉体のデータをコピーしたものに上乗せされるものである。

 それについては賛否両論あるのだが、運営は黙りを決め込んでいる。決着が着く事は当分ないだろう。

 ともかく、現実において人外の握力の持ち主と呼ばれている私は、ゲーム内においても同レベル以上の握力の持ち主なのである。


 さて、『雀撃ち』はアーツではない為、実際のダメージはあまり高くない筈。あくまでこれは牽制だ。

 まあ、左目を潰してやったけどね!


「グルルゥ……ゴアアアァァァァァ!」


 おー、怒った怒った。更に怒った。

 愉しいねぇ? 愉しくない? 愉しもうぜっ!


 振り降ろされた爪を躱して、その横っ腹を叩く。

 

 噛み付きは、手前で脳天を殴り倒して強制伏せ。


 突進は僅かに掠めてしまって、LPの6割が吹っ飛ぶ。反撃にと、隙だらけの停止後硬直時に滅多打ちして差し上げました。


「グゥ……グ、グルルゥ……」


 どれ位の時間戦い続けていたのだろう。

 空は赤く、草原が夕焼けに染まる中。


 クラウンド・スポットウルフはズルズルと右後ろ脚を引き摺り、片目はつぶれて大量の出血。

 全身はズタボロ。そこにはかつての王者の風格はもはや、……ない。


「もう、寝ろ」

 ついに崩れ落ちた哀れな王様の頭の上に、私は止めの右足を振り下ろした。



——【震脚】。


戦闘継続中である為、表記は繰り越し。

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