披露と依頼と交渉と
矛盾や違和感のない設定ってどうやって作るんですかね…(遠い目
「え、βテスターつながり?」
久し振りに再会した幼馴染の久g……リボルゲインが何でこの工房にいるのか、と訊いてみた。
どうやらルーミスさん、フルフルさん、リボルゲイン、の三人はβテスト参加者で交流があったらしい。
正式稼働後、序盤の素材集めと装備作成で互いに協力し合う為に来たのだそうだ。
「ああ、MMOでは戦闘職と生産職ってのは基本、持ちつ持たれつだしな。情報も交換し合ってった方が互いの為になる」
「もっとも、βテストの情報も現状はあまり当てにならないんだけどね」
あー。まあ、このゲームですからねー。罠とマスクと悪意がいっぱいという。
「それよりトウちゃん。素材見せてー」
マルキューさんが上目遣いでねだってきた。つか、なんですかその呼び名は。うら若い乙女に対して。
まあ、そう呼ばれるのは割と慣れてるからそんなに気にしないけど。
とりあえず、異界の道具袋からこの二日で手に入れた素材を全て、近くの机に出していく。
「おおー、いっぱい」
「え? ——え?」
「……頭痛が痛ぇ」
「えー、あー、ちょっといいかな?」
量に驚くマルキューさん。ポカンとしているルーミスさん。頭を抑えてボヤくリボルゲイン。
「なんですか?」
そんな中、ただ一人落ち着いた様子で(ただし何か堪えているようにも見える)フルフルさんから質問が。
「これ、東門の丘陵地帯の魔物素材だよね。こんなに沢山どうしたの?」
「初日から東の方へ狩りに出てゲットしてきますた」
ここでドヤ顔します。今しないでいつするの。今でしょ! …………ごめんなさい。
「お嬢。初日に東に行ったのかよ……」
呆れた様子で呟くリボルゲイン。って名前長い。よし、リボるん、と呼ぼう。
「南は物足りなさそうだったので」
小動物や大人しい魔物ばっかりらしいし。それはつまらないですよ。
「まあ、強さの差は、北や西に比べればそこまで大きくないけどね……」
確かに動きは速いけど単調だったり、隙が大きかったり、と微妙な強さでしたねー。
「とりあえず、ジャンピングラビットっていう兎とスピアーフロッグっていう蛙は、歯応えはあるけど大した強さじゃなかったでしたよ。この緑色の毛皮落とした、パームモンキーっていう猿はレベルが2だった事もあって、多少苦戦しましたが」
マッシヴシープとかいう厳つい羊は戦ってないから知りません。というか、戦いたくありません。
「お嬢」
「なんですか? リボるん」
えらく真面目な表情ですが。
「なんだその呼び名は。——それはともかく、お嬢基準の強さ判定は当てにならないから」
どういう意味ですか?
「エイプキラー怒りの一撃」
……そんなの知りませんね。
「にしても、すごい量だね。品質もすごく良いけど」
「ええ、南の平原で獲れる素材より1、2ランクは上だわ」
フルフルさんとルーミスさんが机に並べた素材を鑑定しながら唸っている。
そういえば、私は戦闘職な上に全然育ててないから【鑑定】のレベルは1のままなので、名前とテキスト位しか閲覧できない。けれど、生産職は生産高品質化と【鑑定】のレベルにプラスという、職業補正が掛かるんだっけ。鑑定すれば、よほどのレアでなければ品質や性能などは分かるんだとか。
代わりに戦闘職は武器習熟スキルとステータス強化系スキルにプラス補正が掛かってるらしい。
ちなみにこれもプレイヤー有志による独自調査だそうです。
それと、フルフルさんの所持している生産関連スキルは【錬金術】【薬学】【精製】【加工】【情報検索】【料理】【商取引】【交渉】と、ポーション作成関連と他の二人のサポートが出来る構成になっている。やたらとスキルが多いのはスキル解放条件の情報を知ったと同時に、商業ギルドと街の図書館に突撃し、調べては取得、そしてロックされてれば訓練で解放、という行動を何度も何度も繰り返したから、らしい。人の事は言えないが、凄まじい行動力である。そして図書館なんてあったのか。
「これちょーだい! あ、いや、売って! 全部買うよ!」
マルキューさん落ち着いて。興奮しすぎです。
「流石に全部は……そうですね。これでどんなのが作れます?」
とりあえず、唯一のレアドロップである〈跳ね兎の丸尻尾〉は回収しておく。
これはアクセサリーにするのですよ。物欲しそうに見ないで下さい。
「んー、靴かな? この組み合わせだと。この〈椰子猿の毛皮〉は一枚だと足りないかな。もう少し量があればベストとかに出来そう?」
マルキューさんが予想した作成可能な装備品に、思わず口元が緩む。
実は靴も装備品の一つである。だが今、ステータスの装備欄には靴の名前はない。
何故かというと、初期装備の靴はアバターアイテム。別の言い方をすれば、ファッションアイテムなのだ。装備としての性能はなく、見た目だけの品なのである。
勿論、防具を扱っているNPCのお店に行けば防御性能を持った靴も扱っているのだが、これらは高い。一番安い靴でも、店にある最低からワンランク上の革鎧とほぼ同じ値段なのだ。
しかも性能は微妙。装備の防御力は装備が覆っている箇所だけに適用される——例えば籠手を着けているとしたら、籠手が覆っている肘から下だけ防御力が上がる、という嫌な方向でリアルかつハードな仕様もあり、盾と鎧以外の装備はβテスト時代は考慮されていなかったらしい。
しかし、靴装備の良い品は、走ったり踏み込んだりといった動作に影響してくるので、攻略組や一部のプレイヤーは重視しており、こぞって職人に生産して貰っていたそうだ。
私は【震脚】を使うし、【舞踊】によるステップも使うので良い靴なら是非とも欲しい所である。
なお、私の初期装備の靴は足袋と草履である。他の人達は普通の靴なのに……
巫女さんが靴を履くのはおかしいですか?
「〈跳ね兎の毛皮〉4枚と〈跳ね兎の垂れ耳〉2枚、〈槍蛙の皮〉4枚。これで多分作れるよ!」
あれ、思ったより必要な量が少ない。
「なら残りは靴の製作の代わりに譲りますよ。ああ、〈椰子猿の毛皮〉は手元に置いておきますが」
猿は倒すの割と苦労したし……しましたよ?
私のバーサークはともかくとして、あの猿すばしっこい上に、思った以上にタフでしたし。……タフと言っても体力が多い感じじゃなかったけど。うーん、なんだろ変な感じでしたね。
ともかく、パームモンキーは東の丘陵地帯でも上位の強さっぽいし、その素材は手元に残しておきたい。
「りょーかい。んじゃ、ちょっと足のサイズ計らせてねー」
マルキューさんはどこからかメジャーを取り出すと、私の足元にしゃがみ込んだ。この即決具合と行動の早さは見習いたいなぁ……
「あ、すみません。二人で勝手に決めちゃって」
マルキューさんに足のサイズを計ってもらいながら、ルーミスさんとフルフルさんに頭を下げる。
お二人は同じ工房の仲間なのだから、相談はすべきだっただろう。
「いえ、いいですよ。依頼人と職人が同意している取り引きに横から口出しすべきじゃありませんから」
「それに肉とかも譲って貰ってるしね。むしろ、僕らの利益の方が大きいよ」
そう、なのかな?
「お嬢」
「なんですか? 今まで空気だったリボるん」
ひでぇなおい! 空気読んで遠慮してたのに!?とかいう意見はスルーします。
「で、なんですか?」
私は今、わりと良い気分なんですが。
「この、鉄色の槍みたいなの俺に売ってくれ」
……それ。
「蛙の舌ですよ?」
「ん?」
「それは『スピアーフロッグ』っていう魔物の蛙の舌です。アイテム名は〈槍蛙の長舌〉ですね」
「へぇ? ……まあ、なんでもいいや。俺は【槍術】スキル持ってるから、槍ならちょうどいいな。これ堅いし軽いから、欲しいんだけど」
なんでもいいや、って。
まあ、蛙の舌とか気にしないなら、別に構わないけど。
「えっと、この人に譲っても構いませんか?」
ルーミスさんとフルフルさんにお伺いを立てる。一応、私の靴に必要な分以外は譲ると言った手前、そのまま横に流すのは不味いでしょう。
「こちらは気にしないで下さい。もともと、こちらが戴く量の方が多いですし」
「私も良いよー」
「大丈夫ですよ。——だけど、リボ。それはそのままじゃ武器としては使えないよ? 薬品や他の素材で加工して、強化しないと」
その分の代金は貰うよ。と言うのは、まあ当然ですよね。
「あ、私は適正価格とか知らないし、思いっきりボりますから」
「マジか」
冗談ですけどね。
「さて……」
ん? なんか急に悪寒が。
「所で、饕餮さんは【細工】持ちなんだってね」
ずずいっ、と迫ってきたフルフルさん。
美人さんが笑顔で迫って来ないで下さい。お願いします。
「え、ええ、まあ……」
「うちの、名前の通りバカ、な妹が【細工】取るのを忘れてしまってね? これから取らせてもいいんだけど、それだと育成予定が狂うし、効率も悪くなるかもしれないんだ」
——これは。
「はぁ……そうですか」
「でね? どうせなら何でも作れる工房にしたいから【細工】持ちの人材を探していたんだよね」
——マズい。
「そ、そうなんですか」
「うん、それで饕餮さん。うちのメンバーになってくれないかな?」
「いや、それは……」
——絶体絶命のピンチ!?
リボるん、笑ってないで! た、助け、
「仲間に加わってくれないかな?」
ステータスに変化がないので表記なし。




