はじめのまちと冒険者ギルド
頑張って完結まで持っていきたいと思います。
ほぼ、勢いだけで書いてます。
修正:ウェスティア→ウェンディコ
説明が抜けていた部分を追加
街の位置を大陸の南西部→北東部に
自由都市『ウェンディコ』。
西大陸の北東部に位置する、周辺地域における最大にして交易の中心たるこの大都市が、異世界からの来訪者であり、客人であり、冒険者であり、開拓者でもある『FRO』プレイヤー5000人が最初に降り立つ、始まりの街である。
…………はじまりのまち、というには少し大きい気もするが、数千人ものプレイヤーを受け入れるならそれ位は必要か。
そんな感想を頭の片隅に抱きつつも私は、
見える光景、
聞こえる喧騒、
嗅覚に感じる初めての臭い、
肌に感じる空気の流れ、
仮想の身体に感じる五感全て。
その、例えようのない感覚に、心を震わせていた。
これが、ゲーム?
これが、仮想現実?
限りなく現実に近付けたという、『Fantasy Roots Online』。
もはやまるで異世界と言っていい、圧倒的な存在感が、ここにある!
「ふ、ふふふふふ……」
ふつふつ、と込み上げてくるこれはなんだ?
興奮、やる気、感動、衝動……
いや、なんだっていい。
この世界を!存分に!余す事なく!
「ーー楽しみ尽くしてやる」
口角がニィ、と吊り上がるのが分かる。
今、私はこの世界の広がりに想いを馳せ、満面の笑みを浮かべていた。
私自身は気付いていなかったが、この時、他のプレイヤーにスクリーンショットを撮られていたらしい。その画像はゲーム内の掲示板にアップされ、運営が選ぶ初代の月間ベストショットに決まった。
後にその事を知人に教えられて画像を確認したが、夢枕に出そうなほど蒼白な肌の鬼人の容姿に、我ながら引くレベルで凄みのある笑顔が重なって、余りに余りな恐怖画像となっていた。
そんな自分の姿に、思わずorzの体勢で崩れ落ちたのは余談である。……余談なんですよ!(半泣き)
「…………巫女さん?」
耳に届いた微かなその呟きに、ふと正気に戻る。
意識を周囲に向けると、あちらこちらから視線を感じーー、
自分の今の格好を思い出した。
わ た し、巫 女 さ ん 姿 じ ゃ ん !
くるり、と踵を返し、今立っている広場から早足で駆け出す。
とりあえず、ここから離れよう!
羞恥に顔が熱くなるのを感じながら、混み合う人と人の間を縫うようにして路地の中にとびこんだ。
しばらくして息を整え、ようやく落ち着いた。
「はぁ……とりあえず、冒険者ギルド行くか」
様々な依頼を請け負う冒険者ギルドには、冒険者の為の訓練場があった筈だ。
まずは、この身体がどの位のスペックなのか。武器やスキルの使い勝手も確かめつつ、仮想世界での戦闘に備えて色々馴らしておいた方が良いだろう。
あ、ついでに今のステータスも確認しておこうかな。
名前 : 饕餮 /TOUTETU
種族 : 鬼人Lv.1
職業 : メイデンLv.1
ステータス
ATK(攻撃力):+1
DEF(防御力):+2
MBS(魔力増幅):+1
RES(魔力抵抗):+2
STR(筋力):6
VIT(体力):5
AGI(敏捷):7
DEX(器用):7
INT(魔力):10
MND(精神):18
装備アイテム
・木のロッド
・白の襲
・緋袴
・異界の道具袋
習得魔法
巫術Lv.1
所持スキル
棒術Lv.1
震脚Lv.1
舞踊Lv.1
細工Lv.1
鑑定Lv.1
スキルポイント:0
……これはどう判断すべきなんだろうか。
前衛職に適性のある鬼人の割に低い筋力と体力。逆に高い魔力と精神はメイデンによる、系譜も含めた職業補正と見ていいか。
つか、精神高くないっすか。
舞踊による効果はやはり今はまだ雀の涙か。敏捷と器用は僅かに上がっている程度だが、” 踊り” 始めればもう少し上がるだろう、多分。
装備に関しては、初期装備ならこんな物だろう。魔力抵抗が高めなのは、おそらく気にしたら負けだ。
異界の道具袋? ……インベントリとかアイテムボックスとか、その辺の代わりかな?
てか、装備アイテム扱いって事は遠出先で破れたりしたら…………だ、大事にしよう。
色々突っ込み所がなくはないが、ひとまず大きな問題になりそうな点は見受けられない。ないったらない。
一つ頷き、記録用にスクリーンショットを撮っておいてからステータスを閉じる。
そういえば、ログインと同時に広場から街の外へ、大通りを駆け出していった人達が数十人ほどいたなぁ。あれはβテスターでもなければ悪手ではないだろうか。
自分がまだ何をどこまで出来るか分かっていないのに、弱肉強食の世界(『FRO』でも食物連鎖が存在、成立しているらしい。技術ってすげー!)で、どれほどの事が出来るんだろう。
それに正式バージョン初期人数5000人のほぼ全てが日本人だ。命の取り合いどころか武器すら持った事がない、という人が大多数である。 平和国家生まれの人間が、いきなり戦闘なんぞ出来るんだろか。
幼い頃から武術を修めていて、多少の荒事なら問題ない私でさえ未知の存在と言えるモンスターとの戦闘には不安を感じている。
まずはしっかりと己を把握するのが先決。街の外に出るのはそれなりに自信が付いてからでもいいだろう。
それに、どっちにしろギルドへの登録はしておかないといけないし。
無くてもモンスターを狩る事は出来るし、素材の売却も受け付けてくれるので問題はないのだが。
採集や運搬、護衛に討伐といった様々な種類の依頼を受注できるのは、ギルドに登録した冒険者のみ。
訓練スペースも利用は登録者優先らしいし、やはり真っ先に向かうべき場所であろう。
確か、冒険者ギルドは街の中心、大通りに面して建っている、青い屋根の大きな建物だった筈。
路地を抜けて、一度大通りに出る。そこから街の中心へと歩き出した。
「ここかぁ……」
うん、でかいな。
ちょっとした体育館位の大きさの、屋根が青く塗装された石造りの建物が目の前に鎮座している。
これは入るの勇気がいるなぁ……
私は門前で呆然と立ち尽くしており、その横を様々な種族、格好の人達が通り、ギルドの中に入っていく。
プレイヤーが選択できないリザードマンと思しき直立歩行のトカゲのような姿に鎧を身に付けた人も見かけていたので、「NPCの中にも冒険者を生業としている者もいる」と公式サイトに載っていた情報通りのようだ。
なお、PC、NPC関係なく、何故か、こちらをチラチラと見てくる者が多い。コッチミンナ。
…………思い出した。
確か、メイデンは東大陸の更に東。小さな列島国家『ヤオヨロズ』(どう考えても日本がモデルです。本当にありがとうございました)にのみ存在する職業、だった。
ステータスから見れるヘルプメニューに職業の詳細が追加されていたので確認してみたのだ。
そう、つまり西大陸の、しかも北東地域の中心都市である『ウェンディコ』でも見た事がないような、非常に珍しい格好をしているのだ、私は!
……………………罰ゲームか!!
いや。
しかし、ここでグダグダしていても仕方ない。
勇気を出して、ギルドの入り口を潜る。
入り口の向こうは大きなホールになっていて、壁際に幾つかのカウンターがある。どうやら目的に応じて、カウンターが分かれているようだ。
「いらっしゃいませ。ようこそ、冒険者ギルドへ」
扉の向こうのすぐ脇にあるカウンターから、すごい美人のお姉さんが話し掛けてきた。
紺を基調としたパリッとした制服に身を包んでいるが、どこか柔和な印象を感じさせる笑顔を浮かべている。
「はじめまして、鬼人のお嬢様。冒険者ギルドに何か御用ですか?」
ここは総合受付といった所かな?
お嬢様というのはちと面映ゆい。
挨拶してから、名前と共に用件を告げる。
「はじめまして。鬼人族の饕餮/トウテツと申します。冒険者ギルドへの登録と、訓練スペースの利用をしたいのですが」
「あら、もしかして異世界からの客人さんかしら?」
やはり、この世界的にはそういう設定のようだ。
「ええ。今日からお世話になります」
「そうですか。新しい開拓者を私達、冒険者ギルドは歓迎いたします! ーーだから、そんな珍しい格好をしてらっしゃるのね」
お姉さんの明るい笑顔から、つい目線を逸らす。
「……いえ、これは職業上の正装のようなものでして」
「正装、ですか? ちなみになんていうご職業なんですか?」
「……巫女。こちらの言葉で言えばメイデンという、神職に当たる職業です」
詰まりそうになるのを堪えて、答えを返す。
受付嬢のお姉さんは一度首を傾げてから、頭を下げた。
「神職のミコ……メイデン、ですか。申し訳ありません。初めて聞くご職業ですわ」
それに苦笑を浮かべつつ、肩を竦ませる。
「仕方ないです。こちらの世界では東大陸の、更に東の果てでのみ伝わっている古い職業だそうですから」
「なるほど……東方に伝わる伝統のあるご職業なんですね」
「はい。らしいです。ーーそれで本題に戻りたいのですが、ギルドに登録するには何処に行けばいいですか?」
お姉さんは口に手を当ててから、再び頭を下げた。
「あら、いけない! ギルドへの登録はあちらの、左手前にあるカウンターで行えます。大きな水晶球がカウンターに置かれているので、それを目印にして下さい。訓練については、その真向かいのカウンターで伺って下さい。目印はあの、交差した二本の剣です」
なるほど。登録は、カウンターに拳大ほどの大きさの水晶玉が置かれているあそこか。で、訓練は反対側にある、カウンター下に剣を二本交差させて飾ってあるあちらと。
てか、訓練について訊いた事までちゃんと覚えてたのか。流石プロ、と言うべきか。
「ありがとうございました。行ってみます」
深くお辞儀してから、登録カウンターへと向かう。
……NPCに対し、「本物じゃないんだから何をしても、どんな対応でも構わないじゃないか」と言う人が少なからずいる。だが、私はギルドに来るまでに見た街の光景と、先程お姉さんと交わした会話から、とてもNPCに対して無体な対応は出来そうにない。
相手には例え作り物のAIなのだとしてもしっかりと、感情を、心を感じる。
いや、それでなくとも親切を受けたのだ。礼を尽くし、感謝を告げるのは当然の事である。
これは、私の信条でもある。
「気を付けてね。頑張って」
くすりと微笑を浮かべながら激励してくれたお姉さんに再びお辞儀を返してから、私はその場を後にした。
「うーん。あっさり終わった」
登録のカウンターに向かうと、その前にはそれなりに長い列が出来ていた。後ろに並び、順番が待つ。意外に早く私の番が来て、幾つかの説明や注意事項を聞いてから言われた通りに水晶玉に手を当てただけ。
数秒後、私の名前と種族、職業とギルドでのランクだけが記載された不思議な材質のカードを手渡された。
いや、簡単すぎね?
気を取り直し、次は訓練だ。
反対側のカウンターへ向かい、伺いを立てる。
「申し訳ありません。こちらで冒険者としての訓練を受けたいのですが」
カウンターの中にいるのは猫耳の、やはり美人のお姉さんだった。
「いらっしゃいませ。訓練については、使用する武器と主に訓練を希望する内容を、こちらの申請用紙にお願いします。異界語であるニホン文字で書いて戴いて構いません」
むむ。とりあえず、武器は【棒術】と……格闘【震脚】も書いておこう。
他はどうするか……
【鑑定】は正直どこででも出来る。外に出るようになれば使う事も多いだろうし、今訓練する必要性は薄いだろう。
【細工】も、生産スキルは商業ギルドの扱いだ。
【巫術】については、訊いてみたら神殿を紹介された。
魔法は魔術ギルドの扱いらしいのだが、治癒や浄化、蘇生などの生命系統の魔法に関しては神殿の扱いになるのだそうだ。【巫術】はいわゆるバフ系統なのだが、神々の加護を受ける魔法なので通常の魔法とは原理そのものが違うから、らしい。
ちなみに、この世界は基本的に多神教で、この街の神殿は全部纏めて祀ってるとの事。
それはさておき、武器スキルとは別に訓練を受けるスキルは【舞踊】にする。
【舞踊】も、『武術の型に基づいて動く演武を戦闘に応用する』と付け加えておけば、訓練を指導してくれる教官もアドバイスがしやすいだろう。
というか、踊り子さんの教官が来られても困る訳で。
最後に、ギルドカードにある登録番号と名前を書いて、猫耳のお姉さんに提出する。
「トウテツ様ですね。【棒術】に格闘、それも【震脚】というのは珍しい組み合わせですね。【舞踊】……ああ、注釈を入れてくださってますね。助かります。教官もやはり細かい内容や目的が分かっている方がこちらも選びやすいですし、教官も指導しやすいそうなので」
やはりか。めんどくさがらずに書いておいてよかった。
「では、そちらの左手の扉から訓練場に移動して下さい。その扉は魔導器となっており、訓練場に繋がっているのですぐに行けます」
へぇ、魔法のどこでも扉って感じかな。 面白いなー。
「教官は既に待機しております。担当は基本的に一対一で行われ、他の訓練者はいません。その為、スキルやアイテム、戦術などといった秘密にしたい内容は守られます」
ん? …………ああ!
MMOでは、スキルや獲得したレアアイテムなんかはアドバンテージ確保の為にあまり漏らさないものなんだっけ。私はそういうのあまり気にしないんだけど……まあ、訓練というのはあまり人に見せるものでもない。他人がいなくて集中できるなら、それはそれでいいか。
「ありがとうございました。行ってきます」
猫耳お姉さん(そういえば、総合案内のお姉さんもそうだが、ちゃんと名前を聞いてなかった。……また後でちゃんとお伺いしよう)に軽く会釈してから、訓練場への扉を開いた。
開けた瞬間、固まった。
名前 : 饕餮 / TOUTETU
種族 : 鬼人Lv.1
職業 : メイデンLv.1
ステータス
ATK(攻撃力):+1
DEF(防御力):+2
MBS(魔力増幅):+1
RES(魔力抵抗) +2
STR(筋力):6
VIT(体力):5
AGI(敏捷):7
DEX(器用):7
INT(魔力):10
MND(精神):18
装備アイテム
・木のロッド
・白の襲
・緋袴
・異界の道具袋
習得魔法
巫術Lv.1
所持スキル
棒術Lv.1
震脚Lv.1
舞踊Lv.1
細工Lv.1
鑑定Lv.1
スキルポイント:0
所持アイテム詳細
・木のロッド
ATK:+1
MBS:+1
耐久値:1000
木材を削り磨いただけの長い木の棒。ごく僅かながら魔力を増幅させる力を持つ。
・白の襲
DEF:+1
RES:+1
耐久値:1000
新米巫女に与えられる白い上衣。邪気を祓う力が僅かにある。
・緋袴
DEF:+1
RES:+1
耐久値:1000
新米巫女に与えられる緋色の袴。邪気を祓う力が僅かにある。
・異界の道具袋
限界重量:1000
耐久値:10000
異界からの来訪者に最初に与えられる魔法の道具袋。重量の許す限りどんな大きさの物でもいくらでも収納できる。耐久値が尽きると中身がバラ撒かれてしまうので注意。