アヤシイ銀狐と不機嫌な黒兎
ただいまです。またまた短くてすみません。
\(^o^)/の種族を鬼人→狐獣人に変更しました。
理由は元々の設定での混同というか、間違いからです。
その他の誤字などの修正は徐々にしていきます。すみません。
あ、作品内の一部ですが、わざと誤変換などをしている箇所があります。
理由としては、ゲームとネットに染まったざんねんな主人公による一人称だからです。
「饕餮さん。こんにちは」
狐耳の青年が元々細い目をさらに細めるように、柔らかく微笑んでいる。けれどそれを見て、頭の中では「油断するな。注意しろ。警戒しろ」ともう1人の私が囁いている。
その、胡散臭さしか漂わせていない笑顔には見覚えがあった。
\(^o^)/ / OWATA
オワタさん。以前、第二陣の巫女・巫覡としてアドバイスを貰いに来た集団の1人で、よく覚えている。
顔文字を名前にしている事もそうだが、何よりその浮かべている笑顔が非常に胡散臭い。明らかにわざとやっているだろう、というレベルで胡散臭いので強く印象に残っていた。
「……ええ、こんにちは。オワタさん」
挨拶をしながら、ちらりと傍らの少女を見る。
おそらく、私の背後を取れたのは彼女の力だろう。オワタさんは油断ならないタイプだけど、スキル的にそこまでの隠密能力は恐らくない筈。
可能性が全くのゼロという訳じゃない。けれど、第二陣として育成をしているとしたら、熟練度をそこまで上げるのはとても困難だろう。それよりは隣の人物の仕業だと考えた方が確実だ。
見た目は15歳前後の兎獣人。頭の上に黒いウサ耳が。ズボンで隠れている為にどこから変化しているかは分からないけれど、足は完全にウサギの物。なかなか可愛らしい女の子だけど、ご機嫌斜めな表情と雰囲気で台無しだ。
今は不機嫌そうに右足をペタンペタンと叩いて……ウサギってあんな感じの仕草というか習性があったような。なんて言ったっけかな?
「ああ、彼女は私の知人でして。ヴォーパ、ご挨拶を」
「……ヴォーパだ」
ヴォーパ。ウサギ。
なんか聞き覚えがあるというか、何故か凶悪なイメージが思い浮かぶ。具体的には首をちょんぱするような。
「ヴォーパさんですね。初めまして、饕餮と申します」
「っ……初めまして」
ヴォーパさんはこちらを射殺すように睨みつけてから、苦虫を噛み潰したかような表情で挨拶を返してきた。
彼女とは初対面の筈ですが。私、なんかしましたっけ?
「実はヴォーパは第二陣追加を機に転生したやり直し組なんですが」
「……もしかしてオワタさんもそうですか?」
出会った時からなんとなく違和感を感じてはいた。
最初からやけに落ち着いていたし、妙に察しが良かったし。MMO慣れしてるにしても、だ。
「ははは、やはり気付かれていましたか。ただ、少し違いますね。私は名前以外の全てをやり直しましたので、本当に心機一転です」
キャラリセからの作り直し!?
それまでに取得したスキルや経験値が無かった事になるのは勿論。手持ちの装備、アイテム、お金に至るまで、全部破棄になるのに。いや、キャラリセ前に頼れる誰かに預けておけばいいんだろうけど。持ち逃げされたりするリスクもあるから中々実行できる事じゃない。
場合によっては作り直しをする際には更に諸々の制限や条件が課される事もあるし、そこまでするのは並大抵の度胸じゃないだろう。
「も、もしかして、あるかどうかもわからない男性用の巫覡をする為だけにそこまでしたんですか?」
「ええ、その通りです。実は私、リアルではとある神社の神主を務めておりまして。巫女の存在を知った時に『これだ!』と——」
嘘だっ!
というか失礼だけど、こんな神主さんのいる神社は嫌だ。すごく霊験あらたかでも絶対に行きたくないです!
「……おい」
「ああ、そうでした。すみませんね。ヴォーパに関するお話なんですが、実は饕餮さんにお願いがございまして」
……お願い?
これまで接点がほとんどなかったオワタさんですけど、彼からのお願いとかすごくイヤーな感じがするんですが。
「なんですか?」
「彼女と模擬戦を——PVPをしていただけないでしょうか?」
ピーブイピー、決闘ですか。
戦うのは別に構わないんですが。
「ヴォーパさんと、ですか?」
「はい。実は彼女、元PKでして——」
は?
「その、PKをやめるきっかけというのが実は饕餮さんに討伐された事なんですよ」
いやいやいや。
私にはその黒ウサ少女を討伐した記憶なんて——あ。一つだけ、心当たりがない事もない。
もしかして……巨大獣が居た草原での。
「おまるの轢き逃げ?」
「はい、それですね。別に彼女もそろそろPKはやめるつもりだったので、討伐された事自体にわだかまりはないそうです。逆に討伐された事で踏ん切りもつけられたそうですし。ただ……テイムモンスターによる轢き逃げだったというのは、流石にちょっと納得がいかなかったようでして」
あー、なるほど。PK云々は置いといて、たしかに轢き逃げエンドは嫌な終わり方かもしれませんね。ご心中お察しします。
私が加害者ですけど。
「しかし何故オワタさんが、その彼女と?」
まあ、なんとなく想像はできますが。
やり直し前にしてた事とか。ヴォーパさんの前職とか。その辺を考えれば、答えは一つですよね。
「そこはまあ、事情が色々とあるのですが。理由の一つとしては『私が饕餮さんと面識があるから』ですね。PVPを申し込まれたとして、見ず知らずの他人に直接頼まれるよりかは、知り合いに仲介される方が了承する心理的ハードルは低いでしょう?」
オワタさんの言っている事は尤もではある。知らない人に突然挑まれるよりかは、知ってる人の仲介で頼まれる方が受けやすいのは確か。
でも、それって詐欺師が人を信用させていく時に取っ掛かりでよく使う手口じゃ?
さて、どうしましょうかね。
別に受けても構わない、というか普通にPVPをするのは大歓迎なんですが。
暫し黙考していると、ヴォーパさんがへの字に曲げていた口を開いた。
「……すまない。できれば、私と戦ってほしい」
ヴォーパさんの表情は苦虫を噛み潰したようなまま。声は押し殺した怒りを滲ませて。身体は僅かに震えている。
けれど、視線は真っ直ぐ逸らさずに。こちらを見つめる眼差しに曇りは見えない。
「手前勝手な頼みなのは分かっている。だが、どうしても決着を付けたいんだ」
見えるのは激しくは無くとも確かに燃えている、まるで熾火のような熱量だ。おそらく、本当に復讐とか逆恨みではなく、純粋に、私と——いや、それよりも自分自身に決着を付けたいのだろう。
「はぁ……」
ああ、駄目だこれは。
ああ、まったくもって無理ムリ、駄目ダメだ。
嬉しくて我慢できなくなるじゃないですか!
「……ひっ」
「これは、また」
ああ、ああ! いいでしょう。いいですね!
そういうのは大歓迎ですよ!
邪心無く、己が強さと矜恃の為に切磋する。——最高ですね!
そう、それならいくらでも相手になりますよ!
「わかりました。そういう事ならお引き受けしましょう。死力を尽くして、いざ尋常の勝負を」
ああ。駄目だ。
徐々に吊り上がる頰を押さえる。さらにむにゅむにゅほぐすも一向に元に戻る気配がない。でも仕方ない。
だって、愉しすぎて笑顔が止まらないのだ。
「あの、本当に良いんですか?」
「……訊くな」
「アレ、相当にヤバいですよ?」
「……分かっているから言うな」
「どう見ても真性の戦闘狂です。本当にありが」
「……いいから黙れ!」
そこのお二方、聞こえてますよー?
今は最高にハイ!な気分なので聞き流しますが。
普段なら……ふふっ。
「あの、今背筋に寒気が」
「安心しろ。——私もだ」
じゃあ、ちょこっとそこの真っ赤な建物に入りましょうか。
元々の用事もあるし、死合するのにちょうどいい設備もありますしね。
ステータスに変動なし。
うん、テンション上がってきました(主に主人公の)。




