街の外へ
ようやく冒険?に出ます。
……ところで、暫く更新できないかもしれません。
3月10日以降からはまた再開できます。
ドゴンッ!
鈍いが轟くような音が響き渡る。
私は体勢を整えると振り向き、教官であるウサギ獣人のリュネック・ハンターさん (ハート様じゃないのは、今している訓練はハート様が教えられるような技術ではないからだ。後、名前についてはスルー権を行使する) に問いかけた。
「如何ですか?」
「……………いや、言葉にならないね。発想も理論も体捌きも威力も問題無しーーだが、その全てが尋常じゃないな」
私の考えたのは単純なものだ。
三つ編みの先に付いた〈重金の髪留め〉を遠心力を加えて叩き込む 。 ” 髪を暗器 ” とした一種の切り札である。
現実でも時折使っていた小技だが、頭皮がヤバいのであまり重いものは付けていなかった。だが、ここは仮想現実世界。多少の無理は効くだろうと考えたのだ。
結果は成功。頭皮や髪の付け根が痛む、ということもなく、髪の毛も千切れない。
「だが、過信はしない方がいいだろう。暗器というのはそもそも振りかざす物ではないしな」
暗器はあくまで不意を突いて一撃入れるもの。それにいくら髪留めが重いとはいえ、頭と首の動きから繰り出すのがせいぜい。手に持って繰り出す武器の攻撃に比べれば大した威力は出ない。
先程試して、轟音を響かせた、身体ごと回転しての一撃は別だけど。
「しかし、……うん。問題はないだろう。【震脚】、【舞踊】とも上手く連携できていたし、最後の一撃はメイスの一撃にも劣らない。十分、切り札足るものだ」
街の外でも大丈夫。そう、お墨付きを戴いた。
「ありがとうございました」
おそらくは初めて見るだろう類の暗器を真剣に考察し、丁寧な指導と様々なアドバイスをしてくれたのだ。感謝しても仕切れない。
しかし、優しい人が多いな。この世界は。いや、もしかしたら各ギルドの関係者だからかもしれないが、昨今の世知辛い現実の世の中を思えば身に沁みる温かさだ。泣けるでぇ…………コホン。
さて、スキルは全て確認し、《解放》ーーなんか【暗器術】スキルというおまけもあるがーーできた。
冒険者ギルドに戻る途中で、ポーションや携帯食料も仕入れてある。
武器、防具も問題無し。街の周辺なら初期装備で大丈夫。問題無いそうだ。……フラグくさいけど、気にしない。
時間も十分。ログアウトまであと6時間は居れる。実は仮想世界は現実より加速化されていて、おおよそ3倍速。向こうでは2時間くらいとか。
意気は軒昂。覚悟は完了。いざ、
一狩り行こうぜ!
「ふむ、問題無いな。閉門は日没前だからそれまでには戻るように。ーー気を付けてな」
門番さんに冒険者ギルドのギルドカードを見せ、門を通してもらう。
街のすぐそばにはあまり近付かないとはいえ、人を襲う獣や魔物が周辺にいない訳ではない。殆どは成人した (世界共通で15歳だとか) 健康な者であれば撃退できる程度の強さしかないそうだが。
ちなみに私が通ったのは東門だ。テンプレではあるが、『ウェンディコ』の周辺は東西南北で野獣や魔物の強さが違う。
自衛騎士団の詰所がある西側が一番強く、群れの数も多い。
次に大神殿が構える北側は、獣の生息数こそ少ないが強力だったり、厄介な能力を持った魔物がいる。
一番弱い、というか穏和な生物が多いのが南側で、商業ギルドが建てれた理由の一つである。
そして、弱くはないがさほど強くもなく、群れを作る数もそこそこだったり厄介の程度が低かったり、と微妙な感じなのが東側だ。ただ、生物や植物などの種類の豊富さは群を抜いており、多種多様な生態を研究できる為、魔術ギルドが近くに構えている。
あ、そうそう。普通の動物と魔物の違いは、魔力を有しているかどうか、だけだそうだ。魔力を持っていても大人しかったり。魔力を持っていなくても凶暴だったり、厄介な能力を持っていたり、と千差万別である為、明確な区別はあまり意味がないんだとか。
もっとも、魔力を持つ魔物はたいていが倒すのが面倒な能力持ちで、その素材も魔力を持つが故に優秀らしい。
その為、最弱にして最も大人しい魔物と言われる『ホーンラット』でも、毛皮や角はそれなりの値段が付いている。
「まあ、私が戦ってるのは違うヤツなんだけど」
ホーンラットは南側に生息する魔物なので当たり前だ。
丸々と膨れた、だがそれはしっかりとした筋肉に柔らかい脂肪と毛皮で覆われた強靭な肉体。発達した後肢と、垂れた挙句に移動器官として進化した耳。代わりに前肢は小さい。大きな頭にある、大きな赤い目と鼻がユーモラスではある。
草食であり、一見は可愛らしい。だが、縄張り意識が非常に強く肉食動物顔負けな凶暴な性格を持つのが、いま私の目の前で、フー!フーフー!と唸りながら右側の耳で地面を叩いている白ウサギーージャンピングラビットである。
門を出ると、草原がなだらかな丘陵と共に広がっていた。
とりあえず土地勘も何もないので目の前にある丘の上を目指す。てっぺんまで歩けばある程度は見渡せるだろう。
周りには誰もいない?
皆、南側へ行っているのだろうか?
足元にある草を鑑定して、時折生えている薬草や毒草 (常時掲載の収集依頼があった。毒草は初級解毒剤の原料らしい) を拾いながら歩いていく。
香る草の匂いがリアルすぎて、ここが仮想現実であることを忘れそうになる。踏む足の草の感触、風の流れ、どれもがとても、リアルだ。
丘を歩き、中腹位まで来た所で、ふと何かを感じて、頭を伏せる。
下げた頭の上を通りすぎる小さな白い影。
進行方向に目をやると、何やらユーモラスな姿をした白ウサギがそこにいた。
「耳が前脚みたいになっとるやん……」
なんだあれは。
「むぅ、割とかわいい……っとぉ!?」
呟きと同時にステップで、後肢による跳び蹴りを回避する。ちょ、はやい!
だが、目で追い切れないほどでもないか。動きは一直線だし、跳ぶ時に後ろ脚と耳を強く踏ん張らせるので躱すのは容易だ。
「可哀想だけど、これゲームなのよね」
ペットにしたい位の可愛らしさなのだが、性格はかなり凶暴な御様子だ。何度も何度も飽きずに向かってくる。
流石に付き合いきれないし、鬱陶しくなってきたのもあるので、倒す事にする。
「ーーっ、ほいっと」
跳び蹴りに合わせてロッドを振り下ろし、先端で地面に叩き付ける。
技はない。そもそも棒術は対人の武術であって、小動物を倒すものではないのだ。
まあ、そうは言っても現実で十年以上も染み込ませた技術。型という名の効率化された身体の動きで攻撃を繰り出せば、それだけで成人男性すら昏倒させる程の威力が出せる。
……この辺は下手なゲームシステムが組み込まれていなくて助かる。渾身の一撃が、攻撃力と相手の防御力との差で「1ダメージ」とか、泣けるレベルの話じゃない。
そうして、ジャンピングラビットの跳び蹴りや突進を躱してはカウンターを叩き込む。
四度目のカウンターでフラついた所で地面に叩き伏せ、ステップからの【震脚】で踏み潰した。
「ふー、やっと倒せた」
倒したジャンピングラビットの死体に手を触れ、ドロップアイテムを回収する。
流石、序盤では少し強いレベルのエリアの魔物。なかなかのタフネスだった。
最後の【震脚】が無ければ、もう少し時間が掛かった事だろう。
「でも、そういう意味じゃ肩慣らしには最適な訳だ」
スキルを鍛えるのも強い相手の方が早いし、何よりーー面白い!
ちまちま雑魚を倒していくのは趣味じゃないのだ。
「じゃ、お相手お願いしまーす☆」
周りには仲間の死と敵の気配を感じ取ったのか、5匹のジャンピングラビット。
愉しくて、笑みが零れてきた。
名前 : 饕餮 / TOUTETU
種族 : 鬼人Lv.1
職業 : メイデンLv.1
ステータス
ATK(攻撃力):+3
DEF(防御力):+3
MBS(魔力増幅):+1
RES(魔力抵抗) :+2
STR(筋力):6
VIT(体力):5
AGI(敏捷):8
DEX(器用):8
INT(魔力):10
MND(精神):18
装備アイテム
・木のロッド
・白の襲
・緋袴
・重金の髪留め
・異界の道具袋
習得魔法
巫術Lv.1
所持スキル
棒術Lv. 3
震脚Lv. 3
舞踊Lv. 2
細工Lv.1
鑑定Lv.1
暗器術Lv.1 《解放》 New!
スキルポイント:6




