はじめのキャラクターカスタマイズ
初投稿になります。適当に流して下さいませ。
さて、どうしようか…
揺らめく淡い虹色の空間の中、胡座をかくように座り込み、思案する。
今、私がいるのは仮想空間内。今日から正式稼働するVRMMORPG『Fantasy Roots Online』(通称『FRO』、流石に『風呂』という俗称はどうかと思う。)のキャラクターカスタマイズエリアだ。
私の目の前に立っているのは、13歳位の少女。
背は低く、身体の凹凸は少ない。眠そうにも見える、少し垂れ目気味ではあるが大きな目に、小ぶりな鼻と耳と口。印象的なのは膝の辺りまで伸びた長い髪。艶やかな黒のストレートである。
容姿は比較的整っており、一般的な基準で言えばかろうじて美少女の部類に入るだろう。
「まあ、私の姿そのままなんだが」
自慢のように聞こえるが、実はコンプレックス満載だ。一番は見た目13歳の私が、
実年齢 1 8 歳
という点なのだが。
……やめよう。泣けてくる。
とりあえず身バレ回避の為に容姿を弄らないといけないのだが、めんどくさいので色彩だけ変える事にする。髪の長さは少し考えがあるので変化なし。髪型は一本の三つ編みに。
髪と瞳の色を濃いめの群青色。これは印象を変えつつ、暗闇での視認性を落とす為だ。
肌の色も変えようとするが、うまく合う色が見つからない。黒や褐色、小麦色と変えてみるのだが、どうにも妙な違和感が拭えない。仕方ないので、逆に白くしてみる。
……病弱そうな青白い肌色が一番合っているとはどういう事か。
「まあ、いいや。見た目はこれで良し、と」
次の設定は、名前だ。
普通は先に名前を決めてから見た目の設定だと思うのだが、私の場合名前は既に決めてあるので、後回しにしたのだ。
既に存在する名前は付けられないルールだが、考えている名前を付けようとするのは恐らく私位しかいないと思うので、まあ大丈夫だろう。
目の前に浮かんでいるパネルの名前欄をタッチし、現れたキーボードで入力する。キーボード入力なのは、音声入力や思考入力で起こりうる誤字、誤変換を防ぐ為らしい。それでもミスはあるそうだが。
《確認します。『饕餮』で間違いありませんか? Y/N》
イエス、と。
《ローマ字入力で発音を設定して下さい。》
へえ、読み方まで設定できるんだ。まあ、『九十九』と書いて『つくも』みたいに普通じゃない読み方とかもあるし、厨二的な名前付けたい人もいるだろうから、そういう設定なのかな?
変に納得しながら読み方を打ち込む。
《確認します。『TOUTETU』で間違いありませんか? Y/N》
またイエス、と。
《設定された名前、発音を検索します。》
《確認しました。同名、同発音の名前は存在しません。》
よし。いけた。
設定したのは、中国の伝承に伝わる悪龍の名前だ。漢字の意味は『貪り喰らう者』。
どうせ名前を付けるなら、神話伝承から引っ張りたいと考え、これにした。悪役っぽい上にやたら厳ついのは、単に私の趣味である。
《確認します。名前は『饕餮/TOUTETU』でよろしいですか? Y/N》
イエス。
目の前の、現実とは少し違う自分の現し身の頭の上に『饕餮/TOUTETU』という文字が灰色で浮かび上がる。
これは今だけの状態で、ゲームが始まると緑色になる。もっとも通常では鑑定系統のスキルを使用するか、フレンド登録しない限り、他人には見えず、名乗った時に一時的に表示されるだけだそうだが。
PKやNPCに対する攻撃など、ゲーム内での犯罪的行為を行うと緑色から黄色に。殺害行為など、特に重い罪だと赤色になる。
ちなみに、NPCの名前は全て青。MOBは強さに応じて、下から緑→黄→橙→赤→紫。
アイテムの場合は基本、白。レアなら銀もしくは金で、特定の種類が黒らしい。黒いアイテムとかどう考えても呪いのアイテムです。本当に(以下略
灰色はPC、NPC、MOBの戦闘不能、死亡状態を指すらしい。今、私の名前が灰色なのは『まだ生きてない』という隠喩ですか?
まあ、いいや。次は種族を選ぼう。
プレイヤーが選択できる種族は9つ。
得手はないが不得手も特にない『人間』。
器用さと敏捷性、魔力に秀でるが、筋力と体力が若干低めな『エルフ』。
筋力と敏捷性、魔力に秀でるが、少し不器用で体力が低い『ダークエルフ』。
頑強な肉体と高めの器用さ、そこそこの魔力を持つが、鈍重な『ドワーフ』。
敏捷性と魔力に秀でているが、筋力と体力には難がある『フェアリー』。
魔力は少ないが、全体的な身体能力に抜きん出ている『獣人』。
身体能力、特に筋力と体力はトップクラスだが、魔力が低い『竜人』。
『人間』同様に平均的な能力だが、どちらかと言うとに身体能力が高めな『鬼人』。
同じく平均的な能力だが、こちらは魔法に適性がある『魔人』。
私が選んだのは、平均的だが身体能力が高めな『鬼人』だ。
これは、私自身が現実では身体能力にそれなりに自信があるのと、魔法や生産なども色々とやってみたいからである。
見た目の変化はというと、額から肌と同じ色の円錐形の角が二本、ちょこんと生えただけ。『鬼人』はあまり大きな変化はないようだ。
見た目の変化が大きい種族は、アバターの慣れや現実での違いで大変そうなのだが、実はシステム的な補正で大丈夫なのだとか。私には技術的な内容や理論はよく分からないのだが、とにかく大丈夫らしい。
次は職業とスキルの設定だ。
さて、職業を選ぼう。
と言っても、選ぶのはまず『親の職業』が先だが。
職業項目にある、『系譜』選択ボタンを押すと、ランダムに親の職業が選ばれる。プレイヤーは、この親の職業に対応した能力やスキルに高い適性を持ち、同系統の初期職業を選択できる。場合によっては種族的には苦手な筈の職業も選択肢に入ってくる、割と重要な項目だ。
「では、ポチッと」
…………『メイデン/巫女』?
あ、職業詳細がある。見てみよう。
《東方の国に古代より伝わる女性神職。数多の神々に通じ、加護を授かる事ができる。また、呪術及びその浄化、歌唱、舞踊に秀でる。
得意武器は太刀、短刀、杖、棒、長刀。防具は鎧系統装備不可。》
どうやら、【巫術】というエンチャント(一時的な能力付与・強化)系統魔法の職業スキルに、呪術による妨害、弱体化とその解除が得意な職業のようだ。あと、なぜか歌と踊りも。……神楽舞?
適性のある武器が多いが、これは良し悪し。武器の適性が少ない職業程、逆に得られる補正が大きいからだ。
ただ、これはレア職業かな?
少なくともβテストの内容をwikiで調べた時は載っていなかったと思う。もしかしたら、正式バージョンからの追加かもしれない。
私的には前衛戦闘職が良かったのだが、これはこれで面白いかもしれない。棒術や長刀には覚えがあるし。
自分の選択できる職業を見てみるが、やはり『メイデン/巫女』はリストにあった。
『メイデン/巫女』を選び、OKボタンを押す。
実はアバターの姿は真っ黒な全身タイツ(と言ってもシルエットだけで、見た目はツルツルなので羞恥心は感じない)なのだが、その姿が白い襲と赤い袴、いわゆる巫女装束に変化した。
「ファッ!?」
ちょ、何これ!?
いやいや、『メイデン/巫女』といえば、そりゃ、白い着物に赤い袴の巫女さん姿だけどさ!
この格好で冒険しろ、と?
くそぅ、……どうやっても服装を変えられない。しかも、職業も決定しちゃってるからどうしようもねぇ!
仕方ない……少なくとも、これは初期装備姿。後で防具を変えればいいだけだ。
鎧系統は装備できないけどな!
さて! 気を取り直して、次はスキルを選ぼう!
初期に取得できるのは、選択4つ+職業スキル1つ+ランダム取得1つの、計6つ。
まずは武器。戦闘職だろうが、生産職だろうが、1つは必ずどれかの武器適性スキルを選ばないといけない。と言っても、選べるのは初期装備可能な武器からのみだ。
長刀は選択肢にないので、上位派生武器なんだろうか。もしくはクエストによる習得なのかもしれない。
ここは巫女の得意武器であり、私自身覚えもある【棒術】を選択する。
後は3つ。
魔法は職業スキルに【巫術】があるので今は除く事にする。
生産もやってみたいので、ソートで生産スキルのみの一覧表示にして見てみよう。
……………………多いよ!?
沢山ある上に細か過ぎて、把握し切れない。
というか、【剪定】とか【トリミング】とか、なんでこんなのまであるの?
もう全部見ていくのがめんどくさくなったので、wikiで定番と言われていたスキルから選ぶ事にする。
定番だと言われていたのは、【鍛冶】・【木工】・【皮革加工】・【細工】・【錬金】。採掘や伐採、採集などは対応するスキルがあれば問題ないだそうだ。
さて、私が選ぶのは……【細工】にしよう。
鍛冶や木工に皮革加工、錬金といった、攻略にも大きく関係してくるようなスキルは、当然の如く専門職業を選択した生産職の人達には叶わない。また、それらのスキルは冒険の片手間にできるような甘い物じゃあるまい。
主にアクセサリーを作成する【細工】も同様ではあるのだが【鍛冶】や【錬金】程、専門の道具と工房に対する依存度は高くない。基本はモンスターの素材や拾った原石を削ったり磨いたりするような工程なのだし。
それに、アクセサリーはあると役に立つが絶対に必要という物ではない、というし……少なくとも序盤では。
残りは二つ。
戦闘スキルと補助スキルから選択しよう。
……………………更に多いよ。
もう、かなり、めんどくさいので、ちゃっちゃと選ぶ。
で、選んだのは【舞踊】と、最初から考えていた【震脚】。
【舞踊】はメイデンも適性を持っていたスキルだ。アクティブスキルでDEX(器用さ)とAGI(敏捷性)に補正が得られるのだが、通常時でも僅かだが補正があるようだ。
こう見るとなかなかの良スキルに思えるがデメリットもある。
隠しステータスであるスタミナの消費が多いというのが、一つ。
また、スキルの効果を最大限に発揮にするには「踊らないといけない」のがもう一つだ。踊りがスキル発動のトリガーなのだ。
多少はシステム補正を受けるとはいえ、踊りが拙いと発動しないか良くて僅かな補正を得るだけ、とスキル説明にある。
これ、リアルに踊りが得意な人じゃなければ、「やってられるか!」という感じじゃないだろうか。
まあ、私にはその辺を解決する方法が、実はあるのだが。
もう一つのスキルの、初めから決めていた【震脚】。
これもまた一癖あるスキルだ。拳法などの中国武術でお馴染みの【震脚】。一言で言えば、「強力な踏み込み」。
アクティブスキルで、効果は「使用時の攻撃威力及び動作効果のブースト」である。物理攻撃時に使用すればその威力は増大し、ステップなどの回避時に使用すれば距離が伸びる。
倒れた敵に使えば、踏み付けで大ダメージを与えられる格闘系統スキルでもある。
更に熟練度が上がれば、大地を揺さぶり、周囲の敵に状態異常〈転倒〉を確率発動させる事もできるようにもなるらしい。
デメリットは、割りとシビアな発動タイミングと使い勝手の悪さらしい。βテストでは地雷スキルとして酷評されていたそうだ。
ま、この辺もなんとかなるだろう。根拠はないが。
さて、あと少し。
職業スキルである【巫術】はログインしてから調べるとして、最後はランダム取得のスキルである。
一応、誰でも取れるような初級のスキルしか出ないそうだが、やはり当たり外れはあるらしい。
これも『系譜』同様、リアルラックに頼るしかない。
心持ち緊張しながら、抽選ボタンを押す。
「…………【鑑定】」
アイテムの名前や詳細が分かる、いわゆる定番スキル。便利ではある。そう、有ると助かるスキルではあるのだけど、
「なんだかなぁ……」
どこか釈然としない気持ちのまま、メニューの一番下にあるログインボタンを押し、私は仮想世界への門を潜った。