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つよくなりたい

作者: のらーぬ

「前から気になってて、好きかもって思ってる」

 そう学校からの帰り、隣を歩くクラスメイトの女の子に言った。会話の中からあくまで自然に言ったつもりだったが、絞り出すようになってしまった。

「……そっか。じゃあ、アレ試してみよっか」

 そう言って彼女は鞄からスマートフォンを取り出した。俺も慌てるようにポケットからスマートフォンを取り出して、あるアプリを起動した。それには家系図が表示されている。互いのスマートフォンを無線接続させると表示されていたものが変わった。自分の家系図と彼女のそれが合わさったものに変わったのだ。

 俺にとっては最悪だった。

 彼女の父と俺の母方の祖父が同じ名前だったのだ。

「ありゃー。わたしが叔母さんか。これじゃムリだね」

 カタっという音がした足元を見るとスマートフォンが落ちていた。

 帰るためか隣にいる彼女から逃げたいためか、学校最寄りの駅に向かって歩き出した。「今はよくあることだから」とか「友達から親戚になってもよろしく」とか慰められていたようだが、あまり記憶にない。気付けは自室のベッドの上にいた。

 見飽きた天井を見上げるといくらか冷静になった。

 こんなことになったそもそもの原因は今から60年前のことだ。戦後の復興途上、愛知県東部に突然光の大穴が空間にあいた。その先には地球とは別の世界と繋がっていた。日本は地続きの国境を得ることになった。その世界から地球には存在しない物質を輸入し、地球からは科学技術を輸出し高度経済成長を成し遂げた。そういうことがあったと現代史で習った。

 異世界と繋がった影響は経済だけではなかった。別の世界の住人がこちらにやって来た。彼らの文化を受け入れることになったのだ。その一つが一夫多妻の許容だった。後に男女平等から多夫一妻も認められた。それが今日のことの直接の原因だった。

 彼女の父であり俺の祖父でもある男のように家庭に縛られることなくたくさんの子を成すことが推奨される。それは多くのモテない男達の屍の上に立つ男の義務でもあった。しかし多数派の男に属し今日のようなことがあった今はただただ恨めしい、怒りさえ感じてきた。一部の限られた人間が子を多く残すことはその血が広がりすぎることになる。近親者の絶対数が増えるのだ。近親での交際を避けるため、あのアプリの使用が広がっていた。わざわざ確認するのは現代の一般的な家庭環境にも理由があった。住宅事情もあり一夫一妻以外の婚姻生活を送る夫婦は一緒に住まずどちらかが通う事が多かった。また子供は一の方で育てられることが一般的だ。そのため多である親を知らない子供も多くいる。悲恋を避けるドライなアプリだった。

 見知らぬ祖父あるいは社会に怒りをぶつけるのも不可能であり無意味だった。気分転換に外の空気を吸うことにした。

 制服から私服に着替え、どこへともなく歩き目に入ったコンビニに入った。週刊の漫画雑誌をざっと立ち読みした。多くの作品の主人公達は強者であり勝者であった。またそれに伴う魅力もある。そう作られていた。フィクションと現実を混同するのは愚かだとわかっていたが、自分の現状と比べ情けなくなり怒りも消えるどころではなかった。雑誌をたたきつけたくなったが商品なのを思い出し元の棚へ戻した。コンビニにはもういたくなかった。

 少し走って息が切れそうになったとき公園が見えたので入った。ベンチに座って星空に変わりつつある空を見上げた。漫画の主人公達や祖父になりたいと思った。

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