四話
遅ればせながら、四話です。
更新遅いですが、サラ達の活躍を見守ってやってください。
王都ギルドレアの隣ハンガルは、王都へ向かう人々の宿町となっており旅人が多く訪れることから、とにかく店が多い。街の中心である通りにはひとしきりの宿屋がありその1階がバルと呼ばれる飲食店になっているのだ。バルとは所謂居酒屋である。
サラ一行は、旅の疲れを癒すべく最寄りのバルへと入ったのであった。サラは、案の定僧侶とは微塵も疑われなかったナギがガブガブとワインを煽るのをあきれ顔で見ている。
「私の記憶が確かならば、僧侶とは毎日の修行……所謂、徳の高い行動や行いの積み重ねでその力を発揮するものだったはずなんだけどな」
「ああ、そうだけど?」
「……」
じゃあ何でお前はそんなに呑んでいるのだ。サラがそう言いたそうな顔をしているためにナギには心中が筒抜けであったようだ。
「いやー、才能ってやつは怖いよな。俺、けっこう酒呑んでるけど不思議なことにヒーラーとしての力は全く衰えないんだ」
「偉そうに言うな! お前には僧侶としての後ろめたさというのもがないのか!」
服装だけで見れば、高レベルの僧侶であることは歴然としている。けど、ナギの場合はその見た目――銀髪に、紅い瞳――のインパクトが強すぎて、誰もが多少の恐れを抱いてしまうのだ。サラはそれが気がかりであった。しかし、当の本人はさほど気にしている風には見えない。サラは、ナギの存在がある意味での注目を集めているのだと思っていた。サラ本人は全く気づいていなかったが、金髪に露出の多い服装の彼女もまた注目の的であった。それに加え、高身長のアデルや声高なベラが民衆の注目に拍車をかけているのだった。どうやらこのパーティはかなり目立つようだ。
「アデル様、ベラはマニーが欲しいんですぅ。だから金持ちの男紹介してくださいぃ」
サラの視線の先には、強い酒で酔ってしまったらしいベラがアデルに絡んでいる。案外、酔うと面相臭いタイプのようである。
「すまない、私は友人がいなくて……」
「アデル様、彼女は酔っているんだ。適当に相手をしてもいいと思う」
「だがしかし」
酔ったベラに誠実に対応しようとするのは、アデルである。彼はあまり酒に酔わないタイプの人間のようだ。一行がそんな風に団欒していると、店の主人がサラに声をかけてきた。
「なあ、風の噂に聞いたんだけどよ。あんたたち王都から来たんだって? もしやとは思うけど、勇者一行ではなかろうね?」
「いかにも。我々に何か?」
その、いかにも恰幅がよく羽振りの良さそうな店主は、横目でナギを気にしつつサラを見やり、その豊満すぎる胸に怖気づいたのか、視線が定まらない様子だ。
「堕天使討伐のついでにっちゃなんだけどよ。あんたらもここらでレベル上げしておきたいだろうと思って。……一つ頼みがあるんだ」
男の話では、この街ハンガルの山奥に盗賊が潜んでいるのだと言う。
「盗賊ならば、自警団に任せてはいかがだろうか」
アデルは若干面倒に思っているふうである。サラもまた、盗賊ならば自警団が対応したほうがスムーズに事が運ぶとは思っていたのであったが、男の表情から察するに訳ありのようだ。
「それが出来れば苦労はしねえさ。問題は、その盗賊の頭が領主の息子だってことだ。街の者が手を出したら、揉み消されるどころか処分されちまうよ。なあ、報酬は弾むからよ、頼むこの通りだ」
店主は両手を合わせて懇願している。アデルが、任せると言うような表情でサラを見る。サラが迷っていると、それまで一ミリも動かず眠っていたナギの目が開いた。
「いくら貰える?」
「ひ、一人500マニーだ!」
ナギの赤い瞳におじけづいたのか、店主の声は裏返る。その目線は日頃のそれとは違い真剣であり、サラは驚く。
「少ないな。仮にも王命を優先しなくてはならない身分なんだ。だが、今晩の宿を用意できるなら考えないこともない。いいだろ、サラ」
「ああ……」
王都の隣町のハンガルだ。このバルに用意された宿屋も埋まってしまったいた。この時間では、アデルの行っていた宿は宛にならないと考えていたサラであった。それよりも、ナギは酒に酔っていたのではなかったのか? この、ふとした瞬間に見せる顔がサラの知っているナギとは違っているようで、不安になるのだった。
「じゃっ決まり! 明日の朝早く出るから、すぐに宿を用意してくれよな」
「ああ、もちろんだ。すぐに用意させてもらう」
だが、その顔が覗いたのはほんの一瞬で、その後からはいつもの陽気で調子の良い若者に戻ってしまった。ナギは何というか飄々としている、と言うのが一番しっくりくる。サラはそう思った。
「つつつ、つまり私が酔って潰れてる間に、盗賊討伐と宿が決まったわけですね!?」
あくる朝、事情を飲み込んだベラはあからさまに怯えていた。元々は普通の町娘である彼女の初戦闘が、こんな形になってしまうとは。
「安心しろ、後衛には傷一つ付けさせない」
「アデル様ぁ」
「……あまりくっつくな」
昨晩はアデルがベラを部屋まで送り届けたようだが、心なしか打ち解けたようだ。だが、その雰囲気はどちらかといえば親子のようで微笑ましくもある。きっと、アデルとベラの身長差が影響しているのだろう。
「パーティが親密なのは良いことだな。チームワークも良くなるし」
「親密、ねえ。だったら、俺ともシンミツになっとく?」
と、何やら企んでいそうなナギはサラに近づく。サラはナギの睫毛が長く、髪と同じ色であることに気づいてしまう。綺麗だ、なんて不覚だ。そう思った時だった。
「あっこら尻を触るな! それのどこが親密だ!」
「あー、相変わらずいいだんりょ、ゴフ!」
聖剣の塚で殴られたナギは、しばらく床に突っ伏したまま動かなかったという。
「さて、準備はいいか? 山に登る前に武器を揃えよう」
サラ一行は、宿屋を出た。