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椿姫
ピュルルと鳴く声がする。ひばりの声だ。
「春ね」
私の隣を歩く彼女がその声に空を見上げた。ひばりは春を告げる鳥だ。暖かい春風に鳴き声が渡る。
「椿の花が落ちたのは、ひばりの鳴き声がしたからよ」
彼女が自嘲する。
「もう歌わないのか?」
私の問いに彼女は頷く。
「早咲きの椿はひばりとともに去るものだわ」
椿の花言葉は完璧な魅力。彼女はそのために舞台を去った。
「首落ちの椿は醜いものよ」
だが私は、その花の側にまだいる。
椿には裏花言葉で「罪を犯す女」という意味もあるそうです。