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月の出産【企画『二百文字小説企画Es』参加作品】
土地のガイドの話だと年に一度、晩夏の満月の夜に月が子供を産むという。
「旦那、あちらで酒でも飲んで待ちましょう」
丘の上に筵を敷いて、私とガイドは盃を手に月を待った。
「月だ」
東から大きな満月が現れ、南天へと昇っていく。
「お」
月が震えた。
「三日月だ」
満月が欠け、三日月を残して墜ちていく。
地響き。
「あの三日月が一年かけて満月になるのです」
三日月の下に横たわる月の残骸を見つつ、私は月の一生を想い酒を飲んだ。