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バカ

「バカ」

 この台詞を夏希に言われたのは何年前の事だろう。

「夏希、結婚したってよ」

 友人との飲みの席だった。昔馴染みの友人は風の噂にその話を聞いたらしい。

「へぇ」

「なんだその反応。かなり良い仲だったから、もっと動揺すると思ったぞ」

 沈黙を酒で濁す。

「子供ができなくたって、あたしは気にしないよ」

 夏希の目に決意の色。しかしその色は、私の返事にたちまちに滲んでいった。

「バカ」

 そうなのだろう。

 酒が苦く喉へ落ちた。

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