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転季【企画『二百文字小説企画Es』参加作品】
月は三日月。
晩夏の宵空に月が細く浮いている。風は既に秋を帯び、芒野をさざと揺らしている。
「ほれ、酒だ」
「すまん」
李告は楊魏に盃を渡し酒で満たすと、その傍らに座した。
「官途は衆望の途だ。お前が吏として出世するのは喜ばしいことだ」
李告が背を叩くと楊魏は皎い顔で盃を含んだ。
「都は遠い」
楊魏は呟くと、おもむろに詩を吟じ出した。
日没夏気衰
朏昇秋気溢
傍有朋有酒
転遷季何憶
詩が風に消える。
李告は黙して盃を傾けた。
ルビをふると字数カウントされてしまったので、難読漢字はこちらに。
芒野
皎い
そして自作の拙い似非漢詩の書き下だしと意訳。
【書き下だし文】
日は没して夏気衰え
朏昇りて秋気溢ちる
傍らに朋あり酒あり
転遷の季、何ぞ憶いはせん
【意訳】
太陽が沈むと夏の暑気は衰え
三日月が姿を見せる頃には秋の涼しい気配が満ちてくる
私の傍には今は朋と酒があるが
季節が移り変わるように私の人生も移り変わる。どうしてさまざまなことを思い考えないでいられようか。