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登場人物 ローディス・ダスティ・・・と、あと二人
豪華メンバーによる飲み会は一段落し、今日の「庵Barル」には2人がいるのみ。
ダ:「えーと、いきなり君と話して来いと天の人に言われたんだけど……」
ロ:「んじゃエロトークでもやってみっか?」
ダ:「いきなりすごいところからいくねぇ」
ダスティ、苦笑。
ロ:「ダスティは結婚してんだっけ。じゃエロトーク知られたら問題ありか」
ダ:「いや、別にそこは気遣う必要はないと思うよ。彼女はそういうところは恥ずかしがったりってタイプじゃないから」
ロ:「へぇ、オープンタイプ?」
ダ:「それも違うけど、まぁ楽しもうという感じの人だね」
ロ:「気持ちいいーことは楽しまねぇとソンだよなー」
ダ:「ローディスの彼女はアクアだね。彼女、なんていうか奔放そうな子だよね」
ロ:「飛び出したら返ってこない鉄砲玉だ、アクアは」
ダ:「わたしの妹とは正反対だね」
ロ:「妹いんの?」
ダ:「ここだけの話にしてくれるかい?リリィが妹なんだよ、わたしの。小説の中じゃ隠しているからこの前の食事会ではそれで通したけどね」
ロ:「あんときはリリィ以外のやつらもいたからなぁ。オッケ、黙ってる。――にしても、どおりで今日は眼鏡もしてねぇし、雰囲気違うと思った。そっちのがいいじゃん」
ローディスはダスティをまじまじと見つめる。
ダ:「ありがとう。あの姿はまぁ世を忍ぶ仮の姿ということにしておこうか」
ロ:「よくわかんねーけど、小説の中では別人になってるってことだな」
ダ:「そうそう」
ダスティはカウンターにあるワインを飲む。
ローディスは以前、萬矢と飲んだブランデーがお気に入りの様子。
一口飲んでローディスは思い出したように笑った。
ロ:「そういや、結局リリィは酒飲んだ後眠ってそのままだったな」
ダ:「あんなに弱いとはわたしも知らなかったよ。しかも大虎だ」
ロ:「ありゃ大虎じゃないんじゃね?ドレス脱ごうとしてたのは笑えたけど」
ダ:「見てたのかい?きみはあのとき、てっきりアクアと楽しんでると思ってたけど」
ロ:「半分見て半分はアクアで遊んでたって感じ?気をそらしてないとヤリたくなると思ってな。まさかあそこで本番はマズイだろ」
ダ:「ローディスのそういう正直なところはいっそ清々しいね」
二人の会話はローディスの世界の話へ。
ダ:「不思議だね。この龍、砂でできているのかい?」
ローディスが作った虹の砂の龍を指で突くダスティ。
指先で尻尾をつまんで虹色の砂を確かめる。
ロ:「俺たちの世界に世界樹っていうでっかい木があって、これはその実。砂みたいだけどな」
小さな龍がまるで咆哮をあげるようにぱっかり口を開くのをみてダスティが笑う。
ダ:「おとぎ話のように火を吹いたりしないのかな?」
ロ:「そりゃねぇなぁ。俺はもっぱら偵察に飛ばしたりすんのが多い。あとは仲間と連絡取り合ったりとか」
ダ:「便利だねぇ。わたしたちの世界は魔法のようなものはないから」
ロ:「魔法ってのともちょっと違うけど――って、なんでもいっか」
説明をやめたローディスにダスティは気にするふうもなく、そういえばと口を開く。
ダ:「アクアはきみの不思議な力のことを知っているのかい?」
ロ:「ああ、最初っから隠してねぇからな」
ダ:「そうか。きみは受け入れられなかったときのことは考えなかったのか?」
ロ:「んなこと頭になかったな。アクアのやつも驚いてただけだったし――怖いとか気持ち悪いとか言われてもこれが俺だし?受け入れてもらうしかねぇわな」
ダ:「その強さがリリィにもあればね」
ロ:「ん?リリィもなんか力があんのか?」
ダ:「ローディスのように魔法が使えるわけじゃないよ。ただ、動植物の気持ちというか感情が伝わってくるみたいだ。あの子は動物にも植物にも好かれてる」
ロ:「リリィらしい力っつうか――いいんじゃね?誰に迷惑かけるってわけでもなさそうだし、リリィが言いたくなければ人に黙ってればいいだけのことだろ?」
ダ:「臆病な子だからすっかり引きこもりになってしまったんだ」
力なく首を振るダスティにローディスは、あーと苦笑を浮かべた。
ロ:「アクアみたいに行動的でもなさそうだしなぁ。でも、友達いだじゃん?ピアーニーっていうおもしろ美人。それにディアンとシスルも――そういやディアンに聞いたけど小説の中じゃ共同生活してるんだって?」
ダ:「ああ。お見合倶楽部ね。そうだね、リリィはそこで友人はできつつあるようだ」
ロ:「お見合倶楽部?なんだそりゃ、合同の見合場所か?」
ダ:「貴族の男女が集まって共同生活をして、気に入った相手を見つける場所かな」
ロ:「はぁ~?貴族の考えることってわっかんねぇな」
ダ:「貴族はきみたちのように自由恋愛するのは難しいということだよ」
ロ:「あ、そりゃ納得。じゃダスティの結婚相手もそこで見つけたのか?」
ダ:「わたしは舞踏会で出会ったんだよ」
ロ:「おお、それこそおとぎ話みたいだな」
二人の酒の量は進みダスティが少々酔っ払い気味。
ダ:「は?こどもができない体?じゃあきみたちの世界じゃ人類は滅びるじゃないか」
ロ:「いや、タブレットがあってそれを飲んでヤレば確率は0じゃなくなる」
ダ:「ああ、それは良かった。きっとこどもは可愛いよ。妻に似た娘が生まれたらどうしようかな。なによりきみのような男には近づけないだろうね」
ロ:「それは懸命な判断だ」
肩を竦めてローディスは笑う。
ロ:「っていうかダスティの結婚相手、いま妊娠中?」
ダ:「いいや?」
ロ:「あっそ」
気の早い話だな、とローディスが白けた様子で呟くのもダスティは気づかない。
ダ:「ローディスはこどもはいらないのか?」
ロ:「考えたことねぇな。誰もが住みやすい世界をいま、俺や仲間が作ってるってところだし、先のことはわかんねぇってのが正直な気持ちだな。そういうのはなるようになるんじゃねぇの?」
ダ:「聞きかじっただけだけどたいへんな世界のようだね、きみの住む世界は」
ロ:「普通じゃこどもができない体になった時点で人は滅んでるからな。すぎた文明は人類を破滅に導く。それを俺たちは体に刻まれたわけだ」
ダ:「わたしの世界じゃ人は便利に暮らそうと、いろいろ技術が進歩していってるけどね」
ロ:「力を得ても道をふみはずさなけりゃいいんじゃねぇの?ダスティの世界じゃ世界樹はいねぇみたいだしな」
ダ:「英知の塊のような木か。わたしも見てみたいね」
カウンターの上にメモ書きが現れダスティがそれを手に取った。
ダ:「天の人からみたいだね。今日は直接頭に話さないんだ――ああ、でもこの文字はわたしには読めないね」
ローディスが覗き込みチと舌打ちする。
ロ:「俺も読めねぇわ」
コ:「告知、と書いてあります」
突然の声に驚いてローディスとダスティが振り返ると見知らぬ二人が立っている。
ス:「あ、俺の略文字「ス」になってる。「ダ」じゃないんだな」
ローディスとダスティの声が重なる
ロ・ダ:「誰?」
尋ねられて少女が頭を下げた。
コ:「コトヒキ・シボリと申します。それから天の人からのメモですが『告知・新しい小説のヒロインとヒーローを紹介するべし』とあります、たぶん」
ス:「こら、コトヒキ。たぶんてなんだ」
こら、と隣の彼に言われてコトヒキが背筋を伸ばす。
手にあった紙を素早く見せた。
コ:「だって同じメモをわたしも持ってるの。二人が困ってたらこれを読んで聞かせなさい、って頭に声がしたし。文字はわたしたちの世界のものだけど、書き方は同じだから――ほら、ここが告知で行をあけて命令文がはじまってるでしょ?」
ス:「あ、文字が違うだけで後は同じだな」
二人の会話を聞いていたローディスとダスティは、コトヒキと話す男に向かってまたしても、「誰?」と問いかける。
ス:「俺はダムゼル。スナッパーキャプテンでも船長でもなんでもいいけど」
ロ:「キャプテン?」
ダ:「船長?きみは船乗りなのか?」
コ:「ダムゼルは海賊なのよ」
コトヒキの言葉に二人は驚きを隠せない様子。
ダ:「海賊……わたしの世界じゃ討伐が進んであまり聞かないけどね」
ロ:「そもそも俺の世界だと海は繋がってねぇから陸路が発達してんだよな。海賊なんてそうそういねぇし。……で、二人の紹介って俺らがする前にいま自己紹介したんじゃね?」
ローディスの言葉にコトヒキとダムゼルがそういえばというように顔を見合わせる。
ロ:「ま、いいや。俺はローディス、でこっちがダスティ。告知ってからには小説の内容に触れたほうがいいのか?」
ス:「海賊と和を合わせたって天の人が活動報告で何度か言ってるから必要ないんじゃないか?」
ダ:「なら他に言うべきことはないのかい?コトヒキの服が違うのがわたしは気なるね。ダムゼルのものはわたしたちと似ているけど……その違いはどういうことかな?」
コ:「わたしが着ているのは着物と言うのよ。わたしの国では着物が一般的。でも最近は大陸の服も入ってきてるから流行に敏感な人は着物をやめて服を着ているわ」
ス:「コトヒキの国は島国で閉国していたから独自の文化が発達しているんだ」
補足するようにダムゼルが説明するも二人はわからない。
ローディスが理解できないように尋ねてくる。
ロ:「ヘイコク……ってなんだ?」
コ:「諸国との国交を絶っていたの」
ダ:「国交を絶つ?そんなことが可能なのか?――いや、島国だからできた、のか……」
混乱しているローディスとダスティにダムゼルは後で説明する、と言ってコトヒキに頷く。
ス:「俺とコトヒキで告知するほうが早いな」
コ:「うん」
ス・コ:「『夜明けの海』掲載までもうしばらくお待ちください」
二人からの告知が終わったところで。
本日の庵Barルはこれにて閉店。