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登場人物
Agehaより、要・葵・キュウ・ニノ・松本・萬矢
虹霓より、アクア・ローディス・アズロ・カルサイト・ラリマー
おみくらより、リリィ・シスル・ダスティ・ディアン・ピアーニー
どこぞの広い空間内にぽつんとあるカウンター。そこに二人の男あり。
カ:「そろそろ皆さんが集まる時間ですねぇ、ダスティさん。というかなぜわたしたちが受付なんでしょう?」
ダ:「そうですね。おまえらが一番あってるって天の人が言ってましたけど。――というかカルサイトさん、この店の名前なんて読むんでしょう?」
カ:「さぁ?どうやら天の人の世界の文字らしいですよ」
二人してカウンター内の壁の看板を見上げる。
要:「アンバールと読むんだと思います」
カウンター前にいつの間にやら大人数が勢ぞろい。
カ:「いらっしゃいませ……でいいんでしょうか?よくわかりませんが――アンバールですか?それはうちの店の名前ですね」
ダ:「店?カルサイトさん働いてるんですか」
カ:「ええ。わたし、普段は花街の宿屋におりますもので。あ、失礼いたしました。お客様方のお名前は?わたしは本日、受付をさせていただきますカルサイトと申します」
ダ:「同じくダスティです」
要:「俺は西園寺要で――え?フルネームはいらない?で、俺が全員の名前を言え?」
葵:「要くん、誰と話してるの?」
要:「天の人が――ああ、はいはい。わかりました。今日は司会は俺ですね。テーマ?……んなの、あんのか。はぁー、めんどくせぇ……つか俺に丸投げ?」
久:「要、心の声がダダ漏れだぞ。天の人にここから消されたくなければちゃんと仕事を全うしろ。葵を一人にする気か?」
要:「おっと、ではカルサイトさん、順に名前を言っていきますね。俺の隣から葵、キュウ、萬矢、松本、二宮」
カ:「おや、乃木様と由紀様と瑠伊様がいらっしゃらないようですが」
要:「乃木と藤塚は仕事。瑠伊はツアー中」
二:「つか、時間軸ぐちゃぐちゃじゃねぇ?要も葵も10代のままなのに、なんで藤塚や瑠伊は仕事してんだよ。――って、うわっ、頭ん中に直に声が……あ?話の中の年齢じゃないと面白くない?……ちっ、だから俺にも一人で来いって言ったのかよ」
久:「可愛い彼女を紹介したかったのになー」
二:「久ちゃん、ほんと俺で遊ぶようになったねぇ」
目の前のやり取りにダスティ苦笑い。
ダ:「えーと、とりあえずお客様方は中でお待ちください。天の人が次がつかえていると五月蝿いですから。は?次はわたしが代表で名前を言え?本当に人使いの荒い……」
カウンター前に別の人間が並ぶ。
リ:「おに――……ダスティ様、もういらしてたんですか?」
ダ:「はい。受付をしろと天の人に言われましたので。リリィ様たちもお早いお付きですね。カルサイトさん、名前の確認をお願いします。リリィ様、シスル様、ディアン様、ピアーニー様です。他の方々はここには欠席させると天の人が――」
カ:「了解いたしました。では皆様も中でお待ちください。ああ、最後の方々がいらっしゃいましたね」
ロ:「カルサイト。こんなとこで何やってんだ?」
カ:「受付でございます、カラハン様。では順に確認をさせていただきますね。カラハン様、ブルージョン様……え?名前で呼べ?お客様に馴れ馴れしいと……わたしのポリシーはどうでもいい?――仕方ありませんね……承知いたしました。ではもう一度。ローディス様、アクア様、アズロ様――は略文字は銀?はぁ、よくわかりませんが、読む方はそれでわかるのですね。……ええとラリマー、そしてわたし、と。全員おりますね。では皆様、中へどうぞお入りください」
ぞろぞろと全員が消えるのを待って、ダスティがカルサイトに頭を下げる。
ダ:「すみません。カルサイトさんにすべてお任せしてしまったみたいで」
カ:「いいえ、名前のチェックだけですから。それよりこれからこの全員をまとめる要様がたいへんではないかと」
ダ:「ですね……でもわたしたちではあのメンバーをまとめるのはちょっと難しい気がします。――わたしたちも行きましょうか」
やれやれと首を振りながら二人も店内へ。
大きなテーブルに人が並ぶ。そこにマイク片手に要が立ち上がる。
要:「本日、司会を務めさせていただきます、要と申します。皆様大いに食べて飲んで仲良くなりやがれ、と天の人がのたまってましたので、まぁ適当にやっちゃってください。食事のメニューはいちいち世界毎で用意するのが面倒だから、天の人の世界の食べ物を用意した、とのことです。俺の世界とほぼ同じなんで食べ物の名前が聞きたい時は、俺か俺の部下にでも尋ねてください。で、今日の飲み会にはテーマがありまして――こんな能力なら喉から手が出るほどほしい、というのを順に答えてください」
銀:「僕、すでに便利な幻術持ってるんですけど」
久:「わたしも魔術が使える。な?青葉、二宮?」
二:「魔術以外でなにかほしい能力ってことじゃねぇの?例えば透明人間になって女湯覗きたいとか」
久:「小学生の男子児童か、おまえは」
ロ:「魔術?ってのは俺たちが使う気功術とかそういうのと一緒か?」
萬:「簡単に言えば魔法みたいなものだ。ただし似て非なるものだな。術式が必要だったり印が必要だったりする」
デ:「へぇ、きみたちの世界は魔法が存在するのか。わたしたちの世界だとそれはおとぎ話の中の話だけどね」
ピ:「えい、ってやったらお菓子が出てきたりするのかな?便利でいいね。みんな空腹知らずだ。豊かな国なんだね」
ア:「それ違うから。わたしが住んでるジオード領は貧富の差がかなりあるし。――ていうか、要の持ってるその変な棒はなに?なんで周りから要の声が聞こえるの?それが魔術っていうやつ?」
それぞれ勝手に話し出していたはずが、アクアの一言で全員要に注目。
要:「えーと……マイクがない世界に住んでる、とか?」
要の世界の人間以外全員が頷く。頭を抱える要とそれを心配そうに見つめる葵。
要:「あのボケ……丸投げしやがったわけがわかった。これを俺にどうまとめろと……」
松:「要様、魔法の拡声器でいいんじゃないですか?魔法や魔術とかってなんか、共通して通じるみたいですし。えーと、アクア……だったよな?要様が持ってるのは魔法の棒。俺たちの世界にはこういう不思議な電子機器、じゃなかった、機械がある世界。オッケー?」
首を傾げるアクア。隣のローディスを見る。
ア:「ローディスわかった?なんかローディスの使う術とも違うみたいだけど」
ロ:「あー、まぁなんとなく。アズロ、おまえのほうが詳しいんじゃねぇの?」
銀:「あなたと似た知識しかありませんよ。発掘課の方たちがいればわかったかもしれませんねぇ」
アズロの言葉にアクアはまたしても首を傾げる。
要:「はい、じゃあ魔法の拡声器で落ち着いたところでさくさく話を進めましょうか。じゃ皆さん、順にマイクを回しますから、ほしい能力をあげていってくださいね。順番がくるまで食事でもして周りの方と親睦を深めてください。とりあえず俺からいきます――ほしい能力は、別にないけど――無理やりあげろっていうならそうだな。商談相手の腹のうちを知れる能力?大事な商談控えてるせいかこんくらいしか思いつかないな、いま。……はい、次葵ね」
葵:「え?わたしも言うの?――なんだろ。あ、うまく嘘をつける能力かな。要くんとの出会いとか質問されるとボロがでないかなって、いつも動揺しちゃうから。えーと、そういうのなくしたいです」
マイクを思い出し敬語になる葵。とたんに同意の声があがる。
リ:「動揺を隠せる力ならわたしもほしいです。わたしもすぐに赤面してしまうので」
ピ:「えー?リリィはそこが可愛いのに。あ、わたしはさっきニノが言ってた透明人間になるのが面白そう。で、世の中の男の本音をこっそり聞いてみるのって楽しそうじゃない?乙女の夢を壊しそうで」
二:「えれぇ美人のくせにすっ飛んだ性格だなぁ。つうかニノってなんでその呼び方――」
ピ:「ん?そこの陽気ななつっこい彼が呼んでたから。ニノって呼ばれるのは嫌だった?」
ニノ、松本をチラリと見てピアーニーに再び目を向ける。
二:「いんや、美人になら何されてもたいてい許すから、俺」
久:「やっぱりおまえは最低男だな。二宮」
マイクからキュウの大声が飛ぶ。ハウリングが起こり一同耳をふさぐ。
久:「わたしがほしい能力はいま思いついたぞ。おまえのような女の敵を調教し無害な番犬にする能力だ!これで世の中が平和になる」
ロ:「男から欲望奪ったら人類は滅亡すんぞ?」
デ:「わたしも女性を見て何も感じなくなるなんで嫌だけどね」
銀:「人肌感じて眠りたいですよねぇ」
二:「おお!俺の心の同士がこんなに。いやぁ、いっつも久ちゃんに責められててさぁ。おまえらとは話が合いそうだ、ちょっとあっちで話さねぇ?」
ニヤリと笑い合って4人が席を立つ。
要:「ストップ。離れる前にほしい能力言ってくれ」
ロ:「あ、悪ぃ。そーだったな。俺も要と一緒で別に特別な能力なんていらねぇけど――しいて言うなら一日の時間を長くする能力?で余分な時間でアクアにもっとエロいこと仕込む。お、いいじゃねぇか、この能力」
ローディスを見上げていたアクアが赤くなる。
銀:「僕は僕の嫌いな人間が、本音しか話せなくなるようにできる能力がほしいですね。それで破滅していくところを見るんです。きっとものすごく愉しいしょうねぇ」
うっとりとするアズロをほぼ全員が危ないものでも見るような眼になる。しかしディアンとニノは同意するように頷いている。
デ:「その能力も素晴らしいけどわたしは先見の明がほしいね。将来、よりうちの家を発展させるために」
二:「俺は世界政府に匹敵する力。そうなりゃもう、世界政府の奴らに見つからねぇようにって、避ける必要もなくなるし」
松:「その力で世界征服とかじゃないんだな」
キュウからマイクを受け取った松本が意外そうに言う。
二:「だーかーらー、なんでおまえらの俺に対するイメージってそうなわけ?んな裸の王様になって何が楽しいんだよ。相手がいなきゃ張り合いねぇだろが」
萬:「松本、二宮はああ見えてけっこう真面目だ」
松:「あー、うん。それはなんとなく。それにわかりづらいけど優しいしな」
二:「もー、ホント。おまえら嫌いだわ」
がしがし頭をかいたニノがローディスたちを促し別テーブルへ。
松:「じゃ次、俺ね。俺のほしい能力はデスクワークを一瞬で仕上げる能力かな。体動かしてる方が性に合ってるから」
ロ:「おー、それ俺もほしいぞ、松本!」
別席からローディスが激しく同意。
銀:「あなた、デスクワーク大嫌いですからね。でもわたしもほしいです、それ」
萬:「優先順位を決めて片付ければいいだろう」
シ:「領民たちからの嘆願などもあるし、デスクワークも重要な仕事だと思うが」
松:「え?領民って――シスルってもしかして領主様!?へーそういう世界なのか。じゃあ王様とかいるわけ?」
松本の好奇心溢れる眼差しに面食らいつつ頷くシスル。
シ:「松本の世界にはいないのか?」
松:「国家元首ってのが王様みたいなもん――ですかね、要様?」
すでに司会を放棄し目の前の食事を葵に取り分けていた要だが、松本の問いかけにシスルへ説明。
要:「昔は王もいたけど、大陸全土を統一して世界政府というのができたんだ。で、国ごとに国家元首をすえてその人物を一応の国代表としてる。国家元首が集まって会議を開いて世界政府の政策とかそーいう面倒なことを決めるんだ。世界政府のトップは会議の議長となるけど、議長は各国の国家元首が年毎に持ち回りでなるし、だから表面上は国は平等ってことになってる。まぁ実際は国家元首の手腕というか能力によってやっぱり国力の優劣はあるけど」
要の説明にシスルは興味を引かれたように聞き入る。その様子に要が笑う。
要:「詳しく聞きたいならあとで俺、席をそっちに移るよ。まず先に腹ごしらえしていいかな」
シ:「ああ、了解した」
萬:「要様、まだほしい能力を言っていったほうがいいですか?」
松本よりマイクを渡され困惑気味の萬矢に要は眉をあげる。
要:「あー、続けてくれ。天の人には俺たちの誰も逆らえないし」
萬:「はい。ではわたしのほしい能力は細やかや心遣いができる能力、でしょうか?いつもキュウから無神経だなんだとうるさく言われますので――次、あなたの番だ。ラリマー?さっきから随分と熱心にわたしのスーツを見ているが……」
萬矢から借りた上着を舐めるように見ていたラリマーが顔をあげる。
ラ:「ああ、すまぬ。どうやったらこんな手触りのよい生地になるのかと思っておったしだいで。釦一つとってもいったい何でできているのか。なんとも技術が進歩した世界に住んでおられるようだ。できるならわたしはこのような素晴らしい布を、ほしい時に瞬時に手に入れる能力がほしい」
再び上着に熱中するラリマーにマイクを渡すことを諦め、萬矢はアクアへマイクを手渡す。
それを矯めつ眇めつ眺めていたアクアが集音部を指でつつく。
ア:「鉄、じゃないみたい。何でできてるんだろ?えーとわたしがほしいのは、ローディスに足手まといって言われない強さ!」
アクアが声を張り上げたためまたしてもハウリング。
直後に別席からローディスの大笑いが聞こえる。
カルサイトにマイクを渡しつつむくれるアクア。
カ:「そうですね。一度自分のサービスがどのようなものか、客となって見てみたいですかねぇ。二人いれば一方が宿に泊まってサービスを受けることができるんですが」
カルサイトからマイクを受け取るダスティが感心したような顔になる。
ダ:「すばらしいですね。カルサイトさんはたぶん、執事業も向いてらっしゃるかと思いますよ。そういうの、興味ないですか?」
カ:「執事、ですか?そうですね。お仕えしたいと思う主人がいれば考えます」
ダ:「人次第ですか。わかるような気がします。次はわたしの番ですね。わたしは不思議な力を持つ人たちの心の痛みや辛さをわかる能力がほしいと思います。周りに受け入れられず悲しい目に合うこともあるでしょうから」
ピ:「意外に人らしい感情があったんだね、ダスティ。てっきり公爵至上主義かと思ってたよ。あ、わたしはさっき言ったから、次リリィね。――って、リリィなに目をウルウルさせてるの?」
リ:「い、いいえ。ちょっと欠伸をしてしまって――えと、ほしい能力ですよね。……んとなんでしょう?あ、わたしさっき葵様のお話に同意しましたからもう話してます」
葵:「同意だから、自分のほしい能力言ってるわけじゃないんじゃ……?」
リ:「そうですか?葵様がそうおっしゃるなら――では人前で緊張しないようになりたいです。って言ったらなんだか余計に緊張してきました」
リリィの頬が赤く染まる。
シスルへマイクを渡し両手で頬を押さえるリリィに、松本がおかしそうに笑う。
松:「うわー、かぁわいぃなぁ、リリィって」
瞬間、シスルの射殺すような眼差しに「ヒ」と慄く。
久:「どうした、松本。いきなり変な声を出して――」
松:「い、いやぁ……ちょっと――あ、別になにも」
何事もなかったようにマイクを持つシスルが口を開く。
シ:「時間を戻す能力があればやり直したい過去がある」
要:「あ、全員終わった?じゃ、これで俺の役目も終わりかな。後はみんな好きにばらけて楽しんでください――以上、司会の要でした。そしてこの後は司会なしということで。天の人にマイクをお返しします」
要から笑顔が消える。
要:「ていうか、あとは自分でまとめろ。今度俺にこんなことやらせたらシメるからな。萬矢、呪札つくっとけ。向こう50年くらい小説を書けなくしてやる」
萬:「かしこまりました」