第23話:途絶えた配信と、外の世界の狂騒
底辺パーティ『ひだまりの盾』が第21階層(深層エリア)へと足を踏み入れ、紫色のゲートが閉ざされた直後。
同接二十万人を誇っていた彼らの配信画面は、無慈悲なノイズと共に暗転し、『接続エラー(オフライン)』の文字だけを映し出していた。
かつてない「神の雷」の熱狂の頂点から、突如として真っ暗な画面に取り残された二十万人の視聴者たち。
迷宮都市のネットワークは、熱狂から一転、かつてないほどの巨大な「パニックと推測の渦」へと飲み込まれていった。
【スレッド名:【緊急】ひだまりの盾の配信切れたんだが!? Part.1】
1: 名無しの探索者
おい! 画面真っ暗になったぞ!
エラーか!? 俺の端末がぶっ壊れたのか!?
18: 名無しの情報屋
違う、ギルドの公式サーバー側のロストだ!
深層(21階層以降)特有の超高密度魔素による磁場干渉だ。あそこに入ったら、どんな最新の通信魔導具も圏外になる。
35: 名無しの探索者
マジかよ……じゃあ、あの子たち完全に外の世界と連絡取れないじゃん!
しかもあの装備で深層って、自殺行為にも程があるだろ!
50: 名無しの探索者
いや、でもあいつらには「ネームレス様」がついてる!
今までだって、どんなピンチもカメラの死角から理不尽な神業で全部ぶっ飛ばしてくれたじゃないか!
72: 名無しの魔術師
馬鹿言え。ネームレスがどうやって彼らを支援してたか考えてみろ。
「カメラの死角」だぞ? つまり、あの圧倒的な狙撃や爆破は、配信の映像を通して現場の状況を把握してたからこそ可能だったんだ。
その「目」である配信が途絶えた今、どうやって彼らを守るんだよ!
90: 名無しの探索者
>>72
うわあああああああ!!
マジだ! ネームレス様の「目」が塞がれちまったってことか!!
115: 名無しの探索者
終わった……。いくらネームレス様でも、見えない場所の支援は無理だろ。
あの子たち、ガチで死ぬんじゃ……。
130: 名無しの探索者
嫌だ! 夏美ちゃんたち死なないで!
ネームレス様、どうか奇跡を起こしてくれ!!
【スレッド名:【速報】ギルド本部、ついに「特務」を動かす】
1: 名無しの探索者
おいお前ら、今ギルド公式から緊急のプレスリリースが出たぞ!!
『黎明の迷宮』の第20階層に空いた大穴の調査と、ひだまりの盾の保護のために、あの「クラリス様」が派遣されたらしい!!
22: 名無しの探索者
は!? 特務調査官のクラリス様!?
ギルドマスターの懐刀にして、S級探索者でも逆らえない生ける伝説じゃねえか!!
45: 名無しの探索者
マジでか……あの人、数年前に隣国のダンジョンで起きたスタンピードを「単独」で鎮圧したバケモノだぞ。
風魔法の極致『断空の刃』は、ドラゴンの鱗すら紙切れみたいにスライスするって噂だ。
60: 名無しの探索者
しかも、あの人の一番ヤバいのは「眼」だ。
魔力の残滓から過去の映像を読み取ったり、どんな高度な隠密魔法も見破る『真実の魔眼』を持ってる。
88: 名無しの情報屋
おい、ってことはだよ……。
クラリス様が現場に向かってるってことは、彼女の「眼」なら、絶対にネームレス様の正体や痕跡を見破れるんじゃないか!?
110: 名無しの探索者
>>88
うおおおおお!! 最強の調査官 VS 正体不明の破壊神!!
熱すぎるだろ!!
145: 名無しの探索者
でも、ネームレス様は絶対にバレないと思う。
あの人、ダンジョンを貫通するようなバケモノ魔法(物理)を使うのに、魔力の痕跡を一切残してないんだぞ? 完全にゴーストだ。
180: 名無しの探索者
いや、クラリス様なら絶対に尻尾を掴む!
あの人の執念と調査能力を舐めるな!
220: 名無しの探索者
どっちにしても、クラリス様が合流できればひだまりの盾の三人は助かる!
早く! 早く追いついてあげてくれ!!
――そんなネット上の狂騒と、特務調査官への多大な期待。
画面の向こう側の視聴者たちは、「最強の調査官と神の夢の共闘」を想像し、熱狂の渦の中で祈りを捧げていた。
しかし、彼らは知る由もない。
深層の暗闇の中で、その「最強の調査官」の鋭すぎる監視の目のせいで、頼みの綱であるネームレス本人が、現代兵器の使用を完全に封じられ、ただの「胃痛に苦しむ冴えない中年ポーター」へと成り下がってしまっているという絶望的な真実を。
(……クシュンッ!)
深層第1階層の冷たい金属の通路。
一条誠は、背中の重いリュックを揺らしながら、不意に大きなクシャミを漏らした。
(アイリス……なんか、ものすごく嫌な悪寒がするんだが。世界中から変なプレッシャーをかけられているような……)
『気のせいではありませんよ、マスター。あなたの正体隠匿ミッションは現在、ギルド最高位の調査官の真横という、かつてないハードモード(絶望)に突入していますから』
前方を歩くクラリスが、一瞬だけ振り返り、一条を鋭い銀色の瞳で一瞥する。
ビクッと肩を震わせ、さらに背中を丸めて愛想笑いを浮かべる一条。
世界が期待する「神」は今、一切の手出しができない絶対的窮地の中で、深層の恐るべき真実へと巻き込まれていこうとしていた。




