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R.I.P末期ギャン、異世界転生 ―死んで借金がチャラになった俺は、異世界で命(チップ)をタダで貰ったので今度こそ遊んで暮らす―  作者: 黒瀬雷牙


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第八話 いざ異世界の大都市へ。俺のギャンブルライフは、そこから始まる!

 俺はイベルタを連れて、もう一度酒場に戻った。

 当然、依頼じゃない。


 疲れていたし、夜に外をうろつく気にもならなかった。目的は一つ、飯だ。


「……奢りだぞ」


 そう言った瞬間、イベルタの目が露骨に輝いた。


「本当ですか?」


「逃げるなよ」


「逃げません!」


 即答だった。信用はしていないが、まあいい。


 酒場の喧騒は、さっきより少し落ち着いていた。夕食時だ。冒険者も商人も、今日を終えに来ている。


 俺たちは空いている席に座り、適当に料理を頼んだ。


 イベルタの前に置かれたのは、大盛りナポリタン。


 量を見た瞬間、彼女は一瞬だけ躊躇したが、すぐにフォークを突っ込んだ。


 ……遠慮という言葉を知らないらしい。


 しかも、食い方が汚い。


 口いっぱいに頬張り、ソースを跳ね散らし、勢いだけで食っている。だが、止める気はない。腹が減っている人間の食い方だ。


 俺は、しばらく黙って自分の皿を片付けてから、切り出した。


「なあ」


「んふ?」


「……食いながら喋るな」


 イベルタは一度口を閉じ、飲み込んでから言った。


「はい」


 言って、また食う。


 俺は溜息をついた。


「カジノのある街は、どこだ?」


「へ?」


 一瞬、動きが止まる。


「……大都市エーテルディアを、知らないんれふか?」


 また食いながらだ。


「だから、食いながら喋んな」


「は、はい」


 イベルタは、少しだけ姿勢を正した。


「街道沿いです。朝一で出れば、夕方には着きます」


「遠くはないな」


「人も多いですし……娯楽も、色々あります」


 その言い方で、十分だった。


 ……異世界のカジノ。


 想像しただけで、胸の奥がざわつく。


 ギャンブラーの血が、騒ぐ。

 いや、これはもう踊り狂っている。


(……行かねぇ理由がねぇ)


 俺は、それ以上は聞かなかった。飯を食い終え、立ち上がる。


「今日は、もう休むぞ」


「はい」


 素直だった。珍しい。


 酒場を出て、近くの宿に入る。安宿だ。だが、今の俺には十分だった。


 カウンターに硬貨を置く。


「一泊、20G」


 親父が言う。俺は黙って払った。


 それから、少しだけ考えて口を開く。


「……風呂は、ねぇのか?」


「風呂?」


 親父は、怪訝そうな顔をした。


「あー……身体を洗いたいんだ」


 少し考えたあと、親父は頷いた。


「わかった。お湯とタオルを用意してやる。5Gだ」


 俺は、そのまま払った。


 部屋は狭い。だが、清潔ではある。ほどなくして運ばれてきたバケツのお湯は、思ったよりも温かかった。


 タオルを浸し、絞る。

 首。腕。背中。


 汗と埃を拭き落とすたび、今日一日の重さが、少しずつ剥がれていく。


(……洗濯もしてぇな)


 ふと、そんなことを思った。全部は無理だ。洗濯設備もない。だが、下着だけは我慢できなかった。


 お湯で軽く洗い、絞って、部屋の隅に干す。それだけで、少しだけ人間に戻れた気がした。


 明日は、朝一で街道に出る。


 大都市・エーテルディア


 賭場の匂いが、もう鼻の奥にある。

 俺は、布の上に倒れ込むように横になった。


 まだ、賭けは終わっていない。

 むしろ、ここからだ。


 ここからやっと、俺の異世界ギャンブルライフが始まろうとしていた。


 翌日。


 俺は、やけに早起きだった。


 目覚ましもないのに、夜明け前に目が覚める。胸の奥が、落ち着かない。

 まるで――遠足当日の子供だ。


(……寝てても、意味ねぇな)


 身体を起こし、昨日干した下着を回収する。完全には乾いていないが、気にしない。どうせ歩けば乾く。


 宿を出て、まだ人の少ない通りを歩く。

 門へ向かう前に、俺は進路を変えた。


 武器屋だ。


(このまま街道に出たら、昼間でも死ねる)


 それくらいの自覚は、さすがにある。


 店は開いていた。いや、開きっぱなしだ。どうやら、24時間営業らしい。

 夜の依頼、夜の護衛。考えてみれば、納得できる。


「装備を見せろ」


 店主の親父は、俺を一目見てから、無言で棚を指した。


「剣と、防具だ」


「金は?」


「……ある」


 言葉に、少しだけ力が入った。


 並べられた装備は、どれも値段相応だ。いや、命の値段と考えれば、むしろ安い。


 親父が、ぼそりと言った。


「命の値段だ。ケチるな」


 正論だ。だが――


(違う)


 俺にとって、今の命はこの種銭そのものだ。


 賭けるための金。

 勝つための金。

 ここを削ったら、意味がない。


 俺は、最低限で済ませた。

 簡素な革の鎧。銅の剣。


 重くもなく、頼りなくもない。だが、現実的だ。

 硬貨を数える音が、やけに大きく聞こえた。


(昨日の飯、宿、装備……)


 これは必要経費だ。そう、言い聞かせる。


 店を出たとき、残っていた金は、220G。


(……上等だ)


 俺は、町の門へ向かった。


 朝の空気は、冷たい。門番が欠伸を噛み殺しながら、俺を見る。


 その門の前に。


「ギャンさーん!」


 聞き覚えのありすぎる声。


 俺は、足を止めた。


「お供しますよ!」


 満面の笑み。弓を背負い、軽装。

 昨日、金を肩代わりした女。


「……」


 一瞬、本気で無視して門を出ようかと思った。

 だが、頭の中で計算が走る。


 弓手一人、追加。

 戦闘経験もある、しかも俺よりずっと強い。

 ……安全度は、上がるな。


 俺は、短く息を吐いた。


「……勝手にしろ」


「やった」


 即答だった。


 俺たちは並んで歩き出す。門を抜け、街道へ。朝の光が舗装路を照らしている。


「行き先は?」


「エーテルディア」


「ですよね!」


 嬉しそうに言うな。


 異世界の街道。

 異世界の大都市。

 異世界のカジノ。


 賭けは、まだ始まってすらいない。


 俺とイベルタは、エーテルディアを目指して歩き出した。

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