第四十八話 王都バルミナム騎士団の私は、指名手配の妹と絶対秩序の妹に挟まれる
私の名はクラウド。王都バルミナム騎士団に所属している。
王都バルミナム。
このサンライズ大陸の中枢。全ての秩序が収束する場所。だが今、その均衡に、確かな亀裂が入り始めていた。
「……以上が、エーテルディアの現状です」
報告を終えた騎士が、静かに頭を下げる。
街一つが半壊。護石は破壊。アンデットの大発生。
そして――
「新たな魔王軍四天王、か」
無意識に呟いていた。
地震を操る能力。
説明を聞くだけで分かる。
人の領域にいない。
「……過去にも、類似の存在は確認されています」
別の騎士が口を開く。
「ああ」
短く頷く。
「十年前、三英雄が討った存在だな」
三英雄。
かつてこの大陸を救った、三人の絶対強者。
金獅子 レオナルド=プロメティウス。
殲鬼 シュレイド=ローキンス。
そして、エルフの賢者 ルミナス=クロロアーナ。
その名は、今なお伝説として語り継がれている。
だが――
「今回は、その後の話だ」
空気が、変わる。英雄が討った先に現れた存在。
つまり――
「同等か、それ以上」
否定する者はいない。当然だ。そんな希望的観測に、意味はない。
私は小さく息を吐いた。
(面倒なことになったな)
「エーテルディアは現在、復興段階に入っています」
報告は続く。
「現地指揮はライネル殿」
「……ライネルか」
脳裏に、昔の光景がよぎる。共に剣を振り続けた日々。あいつなら、立て直すだろう。
レオナルドさんの息子だ。
「さらに、重要注意人物アケミを含む者たちと協力関係に入ったとのことです」
ざわめきが広がる。
「正気かよ……」
「だが、他に手は――」
「合理的だ」
一言で断ち切る。
善悪は関係ない。今、最も生き残る確率が高い選択。それだけだ。
「そしてもう一件」
騎士が言葉を区切る。
「指名手配犯、イベルタ=ローキンス」
一瞬だけ、思考が止まった。
「その一団が、王都へ向かっている可能性が高いと」
「……そうか」
短く返す。それ以上は、何も言わない。
今のあいつは、家族でも何でもない。
ただの、対象だ。
「失礼します」
扉が開く。
入ってきたのは、一人の少女。
金の長いポニーテール。無駄のない歩き。
ただ立つだけで、空気を制圧する。
年齢で測れる存在じゃない。
「遅れました」
淡々とした声。
アリシア=ローキンス。
――私の妹だ。
そして、現騎士団でも上位に食い込む化け物。
「怪我は治ったのか?」
「はい」
アリシアがイベルタとの戦闘で受けた爆傷も、魔法医療により完治したようだ。
全く、姉妹喧嘩の域を超えている。
私は続ける
「エーテルディアの崩壊、新たな四天王。話は聞いているな?」
「はい」
迷いがない。全て理解している目だ。
「どう見る」
あえて聞く。
「排除対象です」
間髪入れずに返ってきた。
「王都到達前に、討つべきかと」
正しい。
正しすぎる。
「……簡単に言うな」
「事実です」
目が合う。
その瞳は、冷え切っている。
感情を切り捨てた者の色だ。
「それと」
アリシアは続ける。
「姉の件ですが」
一切の迷いもなく。
「王都に現れるのであれば、排除します」
完全に、切り替えている。
血も、情も、関係ない。
ただの対象。
(……徹底してるな)
私は目を閉じ、わずかに思考を巡らせる。
「任務は任務だ」
それが全てだ。
「だが、優先順位は変わらない」
立ち上がる。全員の視線が集まる。
「最優先は、地震の能力者」
ここを誤れば終わる。
「王都が落ちれば、大陸は終わりだ」
沈黙。否定はない。
「迎撃体制を整える」
短く、命じる。
「全戦力を、バルミナム防衛へ」
戦いは、ここに集まってきている。
エーテルディアからの生存者。
魔王軍四天王。
そして――イベルタ。
(……来るなら来い)
心の中で呟く。
王都バルミナムは、そう簡単に落ちない。
少なくとも、あの二人がいる限りは。
偉大なる我が父、シュレイド=ローキンス。
そしてレオナルド=プロメティウス。
かつて四天王を討ち、大陸を救った英雄。
そして――
その血は、今もここにある。




