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第四十六話 絶望の夜を、朝まで踊ろうか

 ライネルは周囲を見渡すと、俺たちに向き直った。

 少し迷うような間を置き、それから言う。


「我々についてきてください」


 その声には、もう敵意はなかった。

 俺たちは顔を見合わせる。

 アケミが肩をすくめた。


「いいよ、今は同じ側だ」


 案内されたのは、騎士団の施設だった。


 石造りの頑丈な建物で、周囲には多くの住民が避難している。


 泣き声。

 怒号。

 混乱。


 それでも騎士たちは必死に誘導していた。


「こっちへ!」


「建物の中に入れ!」


 ライネルは俺たちを奥の部屋へ通すと、言った。


「少し待っていてください」


 そう言って奥へ消える。


 しばらくして戻ってきた。一本の武器を持って。

 黒い鞭だった。


 コルディの目が見開かれる。


「……それ」


 ライネルは静かに差し出した。


「エタルド殿が君から押収していたものだ」


 魔法を通さない特殊武器・コルディの黒鞭。

 ギャンを逃した罰で奪われた武器だ。


 ライネルは続ける。


「上層部の腐敗は……思わぬ形で明るみに出た」


 外の惨状を思い出しているのだろう。

 苦い顔だった。


「約束は果たす」


 黒鞭を受け取ったコルディは、しばらくそれを見つめていた。


 そして、ぱっと笑顔になる。


「よーし!」


 鞭を軽く振る。


「コレでわたしも戦えるね!」


 そして俺を指差す。


「イベルタ姉ちゃんより強いから頼ってよ!」


 イベルタの眉がぴくりと動く。


「……何ですって!?」


 納得いかない顔だ。

 コルディはケラケラ笑っている。


 その時だった。


 ドンッ――!!


 街全体が揺れた。天井の石がガラガラと震える。


「またか……!」


 誰かが叫ぶ。

 アケミは目を細めた。


「……変だね」


 腕を組む。


「奴、言ってたよね?死因が能力になるって」


 そして俺を見る。


「マスターの話だと、私がこの世界に来る五年くらい前……」


 そこまで言ったところで、俺も考えていた。


 十年近く前。

 衝撃。街が揺れる。

 そして、あの破壊力。


 俺とアケミは同時に顔を上げた。

 目が合う。そして、同時に言った。


「あの地震だ!」


 九州で起きた、あの大地震――


 その場にいた連中は、ぽかんとしていた。

 コルディも、イベルタも、ライネルも。


「……何の話?」


 当然だ。この世界の人間には意味が分からない。


 ロキですら一瞬きょとんとしていた。

 だが、ロキの目が細くなる。


 すぐに理解したのだ。

 二人が、前の世界の話をしていると。


「……なるほど」


 小さく呟く。


「つまり、あの力は地震か?」


 俺は歯を食いしばる。


「かもしれない」


 アケミも頷く。


「もしくは倒壊や、崩落」


 いずれにしても。

 結論は一つだ。


「天災クラスの能力だね」


 その時だった。

 ライネルが外を見て叫んだ。


「何だと!?」


 振り返る。


「どうした!?」


 騎士が駆け込んできた。


「アンデットが街中に湧いています!!」


 部屋の空気が凍る。


「アマス神の護石が……」


 騎士は息を切らしながら叫ぶ。


「破壊されました!!」


 外から悲鳴が聞こえた。

 ガラスが割れる音、肉を裂く音。


 ライネルは剣を掴んだ。


「総員!!」


 叫ぶ。


「武器を取れ!!」


 騎士たちが一斉に動く。扉を蹴り開けて飛び出していく。外ではもう、アンデットが住民に襲いかかっていた。


「ぎゃあああ!!」


 血が飛ぶ。

 人が倒れる。


 ライネルが剣を抜いた。


「朝までアンデットを倒し続けるぞ!!」


 騎士団が突撃する。

 剣が振るわれる。

 骨が砕ける。


 だが、敵は次々に湧いてくる。


 終わりがない。

 夜はまだ長い。 


 エーテルディアは地獄と化した。


 避難所の外は、すでに戦場だった。


 悲鳴が飛び交い、逃げ惑う人々の間を、骨の軍勢が進んでくる。


 ギシ、ギシ、と不気味な音を立てながら。


 その先頭にいた、一際大きな影。

 禍々しい気配を纏った、異形のスケルトン。


「スケルトンリーダー……!」


 騎士の一人が叫んだ。


 そいつは真っ直ぐに、避難している住民たちへと向かっていた。


 ライネルの視線が、凍りつく。


「……ミネルヴァ」


 人混みの中、必死に子供たちを抱き寄せる女性。


 ライネルの妻と、子供たち。


 スケルトンリーダーが、大きく腕を振り上げる。


 叩き潰すつもりだ。


「やめろォォォォッ!!」


 ライネルが地を蹴った。

 その速度は、もはや人間のそれじゃない。


 一瞬で間合いを詰める。

 剣を構え魔力が爆発する。


 蒼い光が刃に収束した。


「蒼雷閃」


 閃光、青い雷鳴。

 空気が裂ける。


 次の瞬間、スケルトンリーダーの身体が縦に、真っ二つに割れた。


 抵抗も、防御も、意味を成さない。

 ただ一撃。それだけで、完全に破壊された。


「す、すげえ……」


 思わず、声が漏れた。

 いや、俺だけじゃない。


 アケミも、イベルタも、コルディも。

 ロキですら、わずかに目を見開いていた。


 ライネルは、剣を振り払う。

 骨の粉が、風に散った。


「大丈夫か!」


 すぐに家族の元へ駆け寄る。


「あなた……!」


 ミネルヴァが涙を浮かべる。

 子供たちも、父にしがみついた。


 その光景を見て、胸の奥が少しだけ軽くなる。


「まだ終わってないよ」


 アケミの声が、現実に引き戻す。

 周囲には、まだ無数のアンデット。


「さ、あたしたちも行くよ」


「ああ」


 俺たちは、それぞれ武器を構えた。


 コルディが黒鞭をしならせる。


「さーて、暴れるよ!」


 イベルタは爆破矢を構える。


「数だけですね。問題ありません」


 ロキは静かに前に出た。


「数が多いな。だが問題ない」


 アケミが笑う。


「死ななきゃ勝ちだろ?」


 その言葉に、俺も笑った。


「上等だ」


 地を蹴る。

 剣を振るう。

 骨を砕く。


 炎が焼き、鞭が裂き、魔法が吹き飛ばす。

 終わりの見えない戦い。

 何度も、何度も。


 押し寄せてくる死者の群れを、叩き潰す。


 腕が重い。

 呼吸が荒い。

 視界が霞む。


 それでも、止まらない。


 止まれば、誰かが死ぬ。

 だから、振るう。

 ただひたすらに。


 夜が、どれほど長く感じただろうか。

 やがて東の空が、わずかに白み始める。


「……朝だ」


 誰かが呟いた。


 次の瞬間、差し込んだ光が、アンデットに触れる。


 ――ジュウゥゥ……!


 焼ける音。

 骨が、黒く焦げ、崩れていく。


「……終わりか」


 その場にいた全員が、動きを止めた。


 光は、確実に夜を押し返していく。残っていたスケルトンたちも、次々と灰になって消えていった。


 静寂。さっきまでの地獄が、嘘みたいだった。


 俺は、その場に座り込む。


「はは……生きてるな、俺」


 アケミが隣にどさっと座る。


「ギリギリだけどね」


 コルディは寝転がっていた。


「むりー、もう動けないー」


 イベルタは俺を見て言う。余裕そうだな、どんだけ強いんだよ。


「よく生き残れましたね、ギャンさん」


「はぁ…はぁ……無理だ、マジで……腕、上がらねぇ」


 ロキは空を見上げていた。


「夜が明けたか……」


 その視線の先。


 朝日が、街を照らしていた。

 壊れた建物、倒れた人々。


 それでも確かに、夜は終わった。ライネルは、家族を抱きしめながら、こちらを見た。


「……ありがとう」


 短い言葉だった。

 だが、その重みは十分すぎた。


 俺は立ち上がる。

 朝日を、真正面から受けながら。


(……地震の力、か)


 あの男の姿は、まるで最初からいなかったかのように消えていた。


 あの男。そして、この世界。

 まだ、何も終わっていない。


 むしろ――

 ここからが、本当の地獄の始まりだ。

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