第四十五話 エーテルディアに、人の雨が降る
消えた。
それ以外に、言葉がなかった。
ついさっきまで街だった場所。
家があり、店があり、人がいた場所。
そこが、綺麗に消えている。
えぐり取られたように。
音が遅れて戻ってきた。
悲鳴。
泣き声。
怒号。
騎士たちの足が止まる。
誰もが理解した。
勝てない。
アケミが舌打ちした。
「撤退」
低く、はっきりと言う。
「勝負にならない」
ライネルが振り向いた。
「何を言う!」
剣を握りしめる。
「エーテルディアは我々が守る!」
そのまま前に出ようとする。
だが、その肩を掴んだ男がいた。
ロキだ。
「やめろ」
低い声。
「放せ、情報屋!」
ライネルが睨む。
ロキは一歩も引かない。
「アケミさんの言う通りだ」
静かに言う。
「無策で突っ込んでも、無駄死にだ」
ライネルの拳が震える。
悔しさ。
怒り。
それでも、理解している顔だった。
アケミが振り返る。
「騎士団!」
声を張る。
「避難誘導!全員撤退だ!」
イベルタも叫ぶ。
「街の住民を外へ!」
騎士たちが動き出した。
「避難しろ!!」
「街から出ろ!!」
怒号と混乱の中、俺たちは走った。
背中に、あの男を感じながら。
門の向こうで、ケンジは小さく肩を落とした。
「……は?」
呆れた顔。
「騎士団が聞いて呆れるな」
ぽりぽりと頭を掻く。
「正義の味方が逃げるとか」
つまらなそうに言う。
「冷めるわ」
そして、歩き出した。
街の中へ。向かう先は――
エーテルディア中央区広場。
一方その頃。
街の外へ避難を呼びかけていた俺たちは、妙な光景を目にした。
中央区の裏通り。
そこに、見慣れない巨大な乗り物が止まっていた。
金属の船体。
魔法陣のような紋様。
羽のような装置。
その周りには、市議員、市長。
そして、金持ちそうな連中。
そいつらが慌てて乗り込んでいる。
俺は呆然とした。
「……なんだ、ありゃ?」
イベルタが答える。
「魔導飛空艇」
さらっと言った。
「空を飛びます」
「は?」
意味がわからない。
だが、住民たちは理解したらしい。
「助けてくれ!!」
「乗せてくれ!!」
パニックになった人々が飛空艇へ走る。
しかし、銃声が鳴った。
パンッ。
前にいた男が、胸から血を噴いて倒れる。
撃ったのは、議員だった。
「近寄るなゴミどもが!!」
怒鳴る。
「これは選ばれた人間の船だ!!」
もう一発。別の住民が倒れる。
周囲が凍りついた。
俺は歯を食いしばった。
その時、アケミがライネルに言った。
「あれが、アイツらの正体だよ」
ライネルは何も言えなかった。
ただ、拳を握り締めていた。
やがて飛空艇が光り始め、魔法陣が回転する。
ゆっくりと浮く。
そして、空へ上がった。
その光景を遠くから見ている男がいた。
ケンジだ。
空を見上げる。
「……へぇ」
小さく笑う。そして、手のひらを向けた。
飛空艇へ。
「こっちの世界も、元いた世界も」
肩をすくめて、ぼそりと言う。
「やっぱ支配層ってのは、生きる価値ねぇな」
その瞬間。空間が震えた。
キィィィィィン――
甲高い音。ケンジの掌から飛空艇までの空間が、一本の線のように震える。
そして、ケンジが呟いた。
「黒の鳴動」
次の瞬間。
飛空艇が、砕けた。
爆発ではない。
衝撃でもない。
ただ、空中でバラバラになった。
船体が崩れ、
翼が折れ、
魔法陣が砕け散る。
そして、中に乗っていた人間たちが、空から落ちた。
悲鳴。
絶叫。
泣き声。
人が降る。
まるで、雨みたいに。
空から人が落ちてくる。
その光景を見た瞬間。
俺の背筋に、冷たいものが走った。
――ヤバい。
理屈じゃない。
ただの勘だ。
だが、その勘は今まで何度も命を拾ってきた。
俺は叫んでいた。
「全員!!」
喉が裂けるくらいの声で。
「落下物に気をつけろ!!」
一瞬、周囲が止まる。
だがライネルは即座に反応した。
「盾持ち!!」
剣を振り上げる。
「上方に構えろ!!」
騎士たちが動く。
ガシャン、と音を立てて盾を掲げる。
俺たちは叫びながら走った。
「建物に入れ!!」
「屋根の下だ!!」
近くの石造りの建物へ飛び込む。
コルディが扉を蹴り開ける。
「こっち!!」
全員がなだれ込む。
その数秒後。
ドォン!!
ドォン!!
ドォォン!!
地面が揺れた。
空から、叩きつけられる音。
肉の潰れる音。
金属の砕ける音。
飛空艇の残骸と――
人間。
それらが雨のように地面を打ちつける。
外では騎士たちの盾に、
ゴンッ!!
ドガン!!
鈍い衝撃が何度も響いていた。
しばらくして、音が止む。
静寂。
誰かが外を確認する。
「……被害者無し!!」
騎士の声。
ライネルが深く息を吐いた。
その時、イベルタがこちらを見て笑った。
「ナイスです、ギャンさん」
コルディもウインクしながら親指を立てる。
ロキも小さく頷く。
「さすがは、異界の賭博師ですね」
俺は苦笑した。
別に賭けたつもりはない。
ただ、嫌な予感がしただけだ。
だが、その予感は消えない。
むしろ、強くなる。
なぜなら。この惨状を作った男は、まだ街の中を、普通に歩いているからだ。
※今回の前半終了パターン
次の瞬間。
飛空艇が、砕けた。
爆発ではない。
衝撃でもない。
ただ、空中でバラバラになった。
船体が崩れ、
翼が折れ、
魔法陣が砕け散る。
そして、中に乗っていた人間たちが、空から落ちた。
悲鳴。
絶叫。
泣き声。
人が降る。
まるで、雨みたいに。
空から人が落ちてくる。
「何の音だ?」
誰かが空を見上げる。
砕けた飛空艇の残骸。
そして、空から落ちてくる人影。
一瞬、理解が遅れる。
「……あ?」
その瞬間。
ドォン!!
最初の一人が地面に叩きつけられる。
パニックになる群衆。逃げ惑う人々。
だが、もう遅い。
ドガン!!
ゴン!!
次々と降ってくる死体と残骸。
気づいた時には、俺たちは肉と鉄で埋まっていた。
R.I.P




